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日本の採用代行(RPO)の苦しい現状と転換ポイント

私の前回の記事「なぜ日本は諸外国と比較して人材採用コストが高いのか」では、日本で人材採用コストが高額となる背景を説明しました。
そしてその主な理由が、日本の人材採用マーケットの成熟度(実際には“未熟度”ですが)と有能なリクルーターの不足が関連するマクロな問題であることを述べました。
残念なことに、この状況の打開策が明示されていないため、日本では諸外国と比較して驚くほどの高額な人材採用コストが許容されざるを得ない現状に陥っています。

このような状況が“解決難”ボックスに投げ込まれ手詰まりになっている場合、往々にして企業は採用代行(RPO=Recruitment Process Outsourcing)プロバイダーに依頼して、状況改善を図ることがあります。 しかしここで私は、日本の人材獲得マーケットの未熟さに起因することによるRPO業務遂行の難しさについて言及しておきたいと思います。

日本のRPOサービスの発展が遅れている理由

ここに興味深いデータがあります。弊社が開催した人事リーダー向けのセミナーで実施したRPOに関するアンケート結果です。
現在RPOサービスを使用している企業(n=10)のうち、そのサービスに「満足している」企業はおらず、多くの企業が低い満足度であることが分かりました。
同アンケートでは、RPOサービスに限らず人材エージェンシーへの満足度も低かったのですが、私はRPOサービスについてどのクライアント企業も満足していないという事実に大変驚きました。
併せて、多くの企業にとって採用コストが大きな懸念点であることも判明しました。
この結果は、RPOサービスを利用しているにも関わらず、採用コスト削減を達成できてないという日本のRPOプロバイダーのお粗末な現状を意味しているのではないでしょうか(なお、このアンケート回答企業は回答の時点では私たちエクスペリス・エグゼクティブのクライアントではなかったことを念のため付け加えておきます)。



RPOサービスに対して、企業の満足度が低い理由は何なのでしょうか。
私は、日本のRPO関係者__クライアント、RPOリクルーター、およびRPOプロバイダーの3者全てに、本当の意味で付加価値のあるソリューションを提供するための必要な経験が不足していることが非常に大きいと思います。
多くの優秀な人々が最善を尽くしてはいますが、日本のRPOの未成熟性がRPO成功のハードルを高くしているのです。

これからはダイレクトソーシングファーストのリクルーターが不可欠

まずリクルーターから見てみましょう。
もちろん、日本にも有能なリクルーターは存在します。しかしながら、その有能なリクルーターを見つけ出すことが非常に難しいという現状が唯一のボトルネックとなり、日本でRPOが価値あるサービスへと発展することを拒んでいます。

実際のところ、RPOサービスの立ち上げ、実行自体は難しいものではありません。
しかし、リクルーティングというサービスの提供が開始された途端に、リクルーターのパフォーマンスがRPOサービスの質そのものとして受け取られるようになります。この段階に至って初めて、日本のRPOマーケットにおける深刻な弱点が浮き上がってくるのです。

私は、日本のRPOマーケットには、候補者のソーシングからステークホルダーエンゲージメントまでを含むEnd-to-End型のリクルーティング経験に富んだリクルーターが少ないと感じています。
結果としてRPOサービスは空きヘッドカウントを埋めるだけの貧弱なサービスとして存在するしかなく、ダイレクトソーシングで満足に結果が出せないとなるとRPOのオンサイトリクルーターが外部の人材エージェンシーを利用して採用活動を行います。
この時、クライアント企業ではRPOプロバイダーと人材エージェンシーの双方にコストが発生することになります。果たして、この状況でRPOサービスに満足する企業があるでしょうか。

私たちエクスペリス・エグゼクティブには、そのような付加価値の高くないRPOに愛想をつかした優秀なRPOリクルーターが集まってきています。
私たちの真のミッションは、「ダイレクト(ソーシング)ファースト」の考え方を持つ、次世代のRPOリクルーターを育てることです。
私たちは人材採用において本物の「キャリア」を生み出していくミッションがあると信じています。

また、グローバル企業の場合、RPOプロバイダーとクライアント間でのRPO契約は日本国外で締結され、営業担当者すら日本国内にいないことは、稀ではありません。
日本で人材エージェンシーとしてビジネスを展開していても、彼らのエージェンシーリクルーターがいったんRPOリクルーターとしてアサインされると、基本的にそれっきりでその後のサポートはないというケースも見受けられます。
プロバイダーからクライアントに提案される「解決策」は「just send & fill」__単にリクルーターをクライアントに送り込み、ヘッドカウントを埋めていくだけのものです。

さらに、日本のRPOマーケットの黎明期には、クライアントにとってRPOのROI(投資利益率)はそれほど高くありませんでした。その一方で、私は有能なリクルーターを配置するには不可能なほどの低価格でRPO契約が締結されるのを見たことがあります。不必要な価格競争が、日本のRPOマーケットの成長を阻害しているとも言えるのではないでしょうか。

“あとは祈るだけ”のインハウス採用チームは不要

一方のクライアント側はといえば、エージェンシーの依存後が高い、日本のような比較的未熟な採用マーケットでは、インハウス(自社)採用チームは社員紹介プログラム(リファーラル)以外の手段でのダイレクトソーシングの経験が限られていることが多いです。
このようなインハウス採用チームでは、より良い「解決策」は何かという答えに至ることが難しく、結果としてよく見られる「解決策」が、とりあえず人員を配置しあとは祈るだけ__となりがちです。どこかで聞いたことがあるような状況だと思いませんか。

これらすべての状況が意味することは、クライアント、RPOリクルーター、およびRPOプロバイダーの三者のうちの誰かが、本当の「解決策」とはどうあるべきかを認識できていないのであれば、RPOプログラムの成否が全て、RPOリクルーターの責任になる「現状」で終わってしまいます。

RPOリクルーターが、自身の業務遂行やクライアントからの山積みのリクエストに対して準備もできず、対応もできず、もしくは対応する能力さえないケースは本当に辛い状況で、多くのRPOプログラムが失敗する主な理由です。このシナリオで幸せになる人は誰もいません。クライアントは怒り、リクルーターはつねにプレッシャーに晒され、RPOプロバイダーはオロオロと焦ります。

日本のRPOサービスがいくつかの成長過程を抱えているとすれば、私たちエクスペリス・エグゼクティブのミッションは、この業界がこのようなRPO提供の第一段階を脱することへの支援です。
そのためには、クライアントへの情報の提供、若手リクルーターへの手厚いトレーニングやサポートが必要です。
私たちRPOプロバイダーがこれらの業務への人的・質的の投資が可能であれば、 唯一の成功要因がリクルーターであるというリスク軽減を図ることができます。
人的・質的投資と、長い時間を要しますが、取り組むことに大いに価値のあることだと考えています。

【筆者】マレー・クラーク(エクスぺリス・エグゼクティブ㈱代表取締役) ニュージーランド出身。マレーは、数々のグローバルIT企業の日本拠点ヘッド採用、スタートアップチーム構築やスペシャリスト集団のリクルーティング活動を精力的に支援し多くの実績を挙げています。クラウド系IT企業分野のヘッドハンターの日本における第一人者として知られており、インフラ、プラットフォーム、アプリケーション、およびサービスの各レイヤにおけるトップパフォーマーとの幅広い人脈を誇っています。Email: murray@experis-executive.jp

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