「見送りに、もう一つの彩りがあった。」
――元気になって施設を卒業した利用者様と、根岸マネージャーの2年間。
今回の舞台は、アグリケアガーデン かすみがうら。語り手は、入社前から ゼフもお世話になっている根岸マネージャ ーです。アグリケアガーデンかすみがうら には、重い病気や介護度の高い方が多く入 居される。だからどうしても、お見送りと いえば、霊柩車とともに送り出す形が多く なると、根岸さんは話します。
ご利用者様が与えてくれる「彩り」
――在宅医療に正解はない。
その問いに答えが出ないまま、次の日常が始まる。それがこの仕事の現実でもあります。だからこそ、田中さん※との2年間は、根岸さんにとって特別な経験になったのだと思います。
田中さんが入居されたのは、 根岸さんが着任する前のことでした。入居当初は寝たきりに近い状態で、声を出すことも難しく、会話のたびに喉元に機器を当て、そこから漏れる小さな音を拾って言葉にした。それでも、田中さんはいつも笑顔だったといいます。
「本当にいろんな職員とコミュニケーションを取っていて、 みんなから好かれていた方でした」
根岸さんは、田中さんと関わる中でこう感じるようになって いったといいます。
「患者さんだから、利用者さんだから、ではなく、本当に人間 同士みたいな感じ。家族のように、ADLが良くなってほしい なと思っていました」 この言葉を聞いたとき、僕は少しハッとしました。医療や介護 の専門職として関わりながら、その土台に「家族のように」と いう感覚がある。それは、技術や知識だけでは生まれない関係です。
職員が田中さんを元気づけているのか、田中さんに元気づけられているのか。その境界が、日を重ねるごとに薄くなっていく。そういう場所が、AGRIEの目指す現場なのかも しれないと思いました。
退去の日、田中さんは最後まで手を振り続けた。声は出なかった。それでも、見送りに出た職員全員にわかった。
「ありがとう」と言っていることが。
車が見えなくなるまで、 誰も動けなかった。根岸さんにとって、それが初めての経験だったからこそ、あの景色は今も忘れられないのです。
※プライバシー保護のため、利用者様のお名前は仮名を使用しています。
「活きている」ということが、 彩りである
根岸さんに「彩りある医療とは何か」と聞くと、こんな言葉が返ってきました。
「生活の『活』で活きている。それが僕にとっての彩りです。 入居すること、在宅医療に移行することがゴールではなくて、 その後にその方の生活がどうなるか。それを僕たちはいつも 伝えるようにしています」
根岸さんが大切にしているのは、「提供する側」と「受ける側」という一方通行の関係ではないといいます。
「サービスを提供する側、受ける側ではなく、一緒に生活していくという感覚が大事だと思っています。契約から診療、日々の相談事も全部含めて、どれだけ親身になって一緒に考えられるか。それがアグリならではのことだと思っています」
どこで過ごすのか。誰と関わるのか。どんな毎日を送るのか。その答えは、利用者様の数だけある。だからこそ、AGRIEの 医療と介護は、ただ同じ形のサービスを届けるのではなく、 その人の生活に合わせて形を変えていく必要があると、 根岸さんは話します。
この言葉を聞いたとき、創刊号で伊藤理事長が話してくれた「錦鯉の模様」のことを、僕は 思い出しました。
一匹一匹の柄が違う錦鯉のように、人の人生 にも同じものはない。だからこそ、目の前の一人の生活を きちんと見て、その人らしい時間を支えること。それが、 AGRIEの「彩り」の根っこにあるものなのだと、改めて感じました。
創刊号で伊藤理事長が語った「彩りのある医療」 は、かすみがうら事業所の日常の中で、こんなふうに息づいていました。最期を支えるだけでなく、元気になった人を笑顔で 送り出すこと。それもまた、AGRIEが届けたい彩りの、大切なひとつの形です。