菌床をどこで作るかで、何が変わるのか
前回、椎茸の産地は「菌を植えた場所」で決まるようになった、という話を書きました。今回はその続きです。
そもそも、なぜ海外で作った菌床を使う農家が増えていたのか。
そこを調べていくと、椎茸農家が抱えている構造が見えてきました。
菌床づくりは、一番しんどい工程
しいたけ栽培の仕事は、大きく二つに分かれます。
菌床を作る仕事と、菌床から椎茸を育てて収穫する仕事です。
このうち、菌床を作るほうがとにかく手間がかかる。
おがくずに栄養を混ぜて、袋に詰めて、殺菌して、菌を植える。
そこから菌が全体に回るまで、温度を管理しながら何か月も待つ。
設備もいるし、人手もいるし、途中で雑菌が入ればそこまでの時間が全部無駄になります。
報道によると、中国産の菌床を使うと、製造コストを国産の3分の1から4分の1ほどに抑えられるケースもあるそうです。
菌床づくりを外に出せば、農家は育てて収穫する仕事だけに集中できる。
人手が足りない、設備を更新するお金もない。
そういう農家にとって、輸入菌床はかなり現実的な選択肢でした。
ここを責める気にはあまりなれません。
私たちも椎茸栽培を行っているので。しかも1年中。
もし自分が、人手の足りない小さな椎茸農家を任されたらどうするか。
菌床づくりに毎日何時間も取られて、収穫が追いつかない。
設備は古くなってきたけど、入れ替えるお金はない。
そこに、3分の1の値段で菌床を届けてくれる相手がいる。
たぶん私も、かなり本気で迷うと思います。
輸入菌床が広がったのは、農家がずるかったからではなく、国内で菌床を作り続けることがそれだけ重かったからなんだと思います。
表示が変わって、何が起きたか
ただ、2022年に表示のルールが変わったことで、状況は変わりました。
輸入菌床から育てた椎茸は、「中国産」と表示されるようになった。
同じハウスで、同じように手をかけて収穫しても、売り場では別の扱いになります。
安く作れる代わりに、国産として売れない。
国産として売りたいなら、菌床から自分たちで作るしかない。
表示のルールが一つ変わっただけで、農家が選ぶべき道がはっきり分かれた、ということです。
自分たちで作ることの、もう一つの意味
レンチナスは、菌床を自分たちで作っています。
使っている品種は北研902という品種で、伊勢社長が黑椎茸を作るときに選び抜いたもの。
「水分を保ったままでも、しっかりとその食感を残せる品種が、今の902」
品種を選べて、中身の配合も自分たちで決められる。
これが、自前で作る一番の強みだと思っています。
もう一つ、最近になって気づいたことがあるのですが、椎茸を採り終わったあとの菌床、いわゆる廃菌床の中身も、全部分かっているということです。
何が入っていて、どういう状態で出てくるのか。
今、この廃菌床をいちごの培地に使えないかを試していますが、これは自前の菌床だからこそ考えられる話です。
中身の分からない菌床では、次の作物の土台にはしにくい。
菌床を自前で作ることが、椎茸の品質だけでなく、次の事業の入口にもなっている。
始めた頃には、たぶん誰も想像していなかったつながりです。
とはいえ、菌床づくりは今も人の手に頼っている部分が大きい。
工程をどこまで効率化できるか、どこに設備投資をするか、検討の余地はあるでしょう。
自前で作ることの価値と、そのコストをどう釣り合わせるか。
ここは、数字を見ながら一緒に考えてくれる人がいると、かなり進むと思っています。