こんにちは。サイバーレコードで人事部長をしている石田です。
今回から3回に分けて、私が人材育成の土台として考えている「成人発達理論」についてお話しします。
少し硬いテーマに聞こえるかもしれませんが、部下や後輩の育成に悩んでいる方、自分自身の成長に行き詰まりを感じている方には、ヒントになる考え方だと思っています。
1回目の今回は、理論の全体像と、私たちがこの理論を使うときに大切にしていることをお伝えします。
■ 成人発達理論とは
そもそも成人発達理論とは、「人は大人になってからも、ものの見方や捉え方が発達し続ける」という考え方です。
私はこれを「人の器の成長」と考えています。
普段なかなか考えることはないかもしれませんが「成長」には2種類あります。
一つは、スキルや知識が増えていく「横の成長」。
もう一つは、物事を捉える視点そのものが広がっていく「縦の成長」です。
日々の業務や研修等で得られるのは、主に横の成長です。
一方で、同じ出来事に出会っても「自分のこととしてしか見られない人」と「相手や組織全体の視点から見られる人」がいるのは、縦の成長、つまり器の違いによるものです。
横の成長(知識やスキル)がめちゃくちゃすごい人でも、視座が低い人や人間的に幼い人はたくさんいます。
私は、発達段階ごとの行動特性を人材育成に活かしたいと考えています。
■ なぜ人事が学ぶのか
日々のコミュニケーションや研修でスキルを教えても、なかなか行動が変わらない。
そんな経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
私はその理由の一つが、「スキル」ではなく「器」の段階にあると考えています。
同じ研修を受けても、自分の正しさを証明したい段階にいる人と、相手の立場を理解しようとする段階にいる人とでは、受け取り方がまったく違います。
つまり、器を無視して知識だけを渡しても、うまく使われないことがある。
逆に、その人の器に合った体験や問いを渡すと、驚くほど一気に変わることがあります。
■ 発達段階の全体像
成人発達理論では、ものの見方が段階的に広がっていくと考えます。ざっくり整理すると、次のような流れです。
・自己防衛的な段階:物事を「自分」の視点(1人称)で捉える。周りが脅威に見えやすい
・環境順応型の段階:相手の気持ちや周囲の期待(2人称)がわかる。組織のルールに忠実
・専門家的な段階:自分を客観視(3人称)でき、自分の専門性や価値にこだわる
・達成者型の段階:過去・現在・未来を俯瞰し、自分の判断軸でゴールに向かって進む
・多元主義型の段階:あらゆる立場を包み込む視点(4人称)を持ち、正しさを手放せる
どの段階にも、強みとその裏返しとしての課題があります。
次回はそれぞれの段階の特徴と壁の越え方を詳しくご紹介します。
■ 成人発達理論を使うときの約束
ただし、この理論には扱い方の注意点があります。
発達理論の話を人にすると、必ずといっていいほど「じゃあ自分は何段階なんですか?」「上の段階の人の方が優秀なのですか?」と聞かれます。
重要なのは今どこにいるかではないと思っており、理論を活かすために次の3つを大切にしています。
1つ目は、人は1つの段階だけで生きているわけではない、ということ。
その人の中心となる段階はありますが、前後の段階の行動もおおよそ表に出てきます。忙しいとき、ストレスがかかっているときに、普段とは違う一面が出るのは自然なことです。
2つ目は、上に行くことが正解ではない、ということ。
必ずしも上の段階が良い、上に行くべきという考えではありません。今の役割や環境において、現在の段階がその人にとって最適ということも十分にあります。上の段階だと思われる人ほど生きづらくなっている人を見たことがあります。
3つ目は、人を評価したり、優劣をつけたりするためのものではない、ということ。
これが一番大切です。発達段階を人のラベル貼りに使った瞬間、この理論は組織を壊す道具になってしまいます。
■ 行動ではなく「不安」を見る
では何のために使うのか。
私が大事にしているのは、各段階の「根底にある不安」という視点です。
・周囲の環境が脅威に感じ、支配されることへの不安
・組織から拒絶される、他人から否定されることへの不安
・自分の専門性や特殊性を失うことへの不安
・ありたい姿に対して成果を出せないことへの不安
・従来の枠組みに引き戻され、制約されることへの不安
人は、この不安から自分を守るために行動しています。
たとえば、指摘されるとすぐ言い訳をする人。
それは「否定されたくない」という不安の裏返しだと思います。
自分を守り、後輩に仕事を教えない人。
それは「自分の価値がなくなるかもしれない」という不安かもしれません。
部下の話をさえぎって結論を急ぐ上司。
それは「成果を出せないかもしれない」という不安かもしれません。
行動だけを見て注意しても、なかなか変わらない。
でも、不安に目を向けると、かける言葉が変わります。
「なんで言い訳するの?」ではなく、「否定したいわけじゃないよ、一緒に考えよう」と言えるようになるんです。
■ たとえば、こんな場面で使います
会議でなかなか発言しないメンバーがいたとします。
「やる気がない」と見るのは簡単です。
でも、不安というレンズを通して見ると「周りから否定されるのが怖いのかもしれない」「自分の意見に価値があると思えていないのかもしれない」という別の見方が出てきます。
そう考えると、打ち手も変わります。
いきなり全体の場で意見を求めるのではなく、まずは1on1で考えを聞いてみる。
その意見を会議で取り上げて「良い視点だね」と伝える。
小さな成功体験を重ねることで、少しずつ自分から発言できるようになっていきます。
■ マネジメントは「安心」をつくる仕事
日々のマネジメントで、私が意識している問いがあります。
・この人は、何を失うことを怖がっているのだろう?
・この人にとって、今いちばん大事なものは何だろう?
・この人が安心して挑戦するために、私にできることは何だろう?
この問いを持って1on1に臨むと、会話の質が変わります。
「なぜできないのか」を問い詰める時間から、「どうしたら一緒に前に進めるか」を考える時間に変わるんです。
私は、マネージャーの大切な仕事の一つは、メンバーの不安を少しだけ軽くすることだと考えています。
安心があってはじめて、人は挑戦できるからです。
■ 理論は「物差し」ではなく「レンズ」
理論は「人を測る物差し」ではなく「人を理解するレンズ」。
そう捉えるだけで、育成の会話はぐっと優しく、具体的になるのではないでしょうか。
以前書いた「利他」の記事ともつながりますが、相手の不安を理解しようとすることは、自分と他者の両方を大切にする組織への第一歩だと考えています。
どこの会社にもあるであろう人事制度に加え、人の成長の視点をもっておくことで、よりポジションに必要な観点が理解でき適所適材な配置ができたり、人の育成方法に新しい考え・レンズを取り入れることができると思います。
次回は、各発達段階の特徴と、それぞれの「壁」をどう越えていくのかを、具体的にご紹介します。
人の成長に関心のある方に、少しでも参考になればうれしいです!