「映像を通じて、伝えることの力を知った」──俳優の卵から国連UNHCRへ
国連UNHCR協会で、広報・ファンドレイジングの両軸で活動をされているAさん。
寄付を通じて“支援の輪”を広げる最前線で、日々どのような想いを持って取り組まれているのか。今回は、その歩みと現場での工夫についてお話を伺いました。
これまでのご経歴や、入職のきっかけについて教えてください。
2016年の1月に国連UNHCR協会に入職して、気づけばもう9年目になります。
それ以前は、実はまったく違う分野にいて、映像関係の仕事をしていました。俳優養成所に通いながらアルバイトをして、仲間と自主映画を撮るような日々を送っていたんです。
そんな中で偶然のご縁がありまして、以前に国連UNHCR協会の仕事に携わっていた方と知り合ったんです。映像をやっていたこともあって、その方から「難民映画祭」というイベントに誘っていただいたのが、2014年ごろのことでした。初めてその場に立ち会ったとき、「映像を通じて社会課題を伝えること」の力を強く感じ、そこから協会の活動に関心を持つようになりました。
当時はニュースで“シリア難民”という言葉を耳にしても、どこか遠い出来事のように感じていました。しかし、実際に映画祭で当事者の声や表情に触れることで、「自分にもできることがあるのかもしれない」と思えたんです。
それが、今ここで働くことになった一番大きなきっかけでした。
映画祭を通じて、どんな気づきがありましたか?
「遠い存在だった“難民”が、映像を通してぐっと近くなりました。」
映画祭で世界中の難民の方々の姿を見ていくうちに、ミャンマーやアフガニスタン、アフリカなど、さまざまな地域で本当に多くの方たちが避難を強いられていることを知りました。もちろん人数の多さにも驚きましたが、それ以上に印象に残ったのは“一人ひとりに人生がある”ということでした。
映像の中で、お母さんが子どもを抱いて避難している姿や、親とはぐれて一人で国境を越える子どもの姿を見たとき、「難民」という言葉の向こう側にいる“人間”を感じたんです。
自分たちと同じように日々を過ごしていた方たちが、紛争や迫害、災害によって突然故郷を追われる──その現実が胸に迫りました。
それまでは“国際協力”や“NPO”という世界は、自分とは遠いものだと思っていました。しかし、映像を通じて距離がぐっと近くなり、「自分も何かできるかもしれない」と思えるようになったんです。
それが、今の仕事へとつながる大きな一歩になりました。
▲毎年実施している難民映画祭
実際に入職を決めたきっかけを教えてください。
最初は正直、入職するかどうかとても悩みました。
もともと国際協力の世界とはまったく縁がなく、「自分のような人間がこの分野で働いていいのかな」と感じていたんです。まわりを見れば、海外経験が豊富な方や専門知識を持つ方ばかり。そんな中で、映像や演技の経験しかない自分がどこまで役に立てるのか、ずっと考えていました。
しかし、映画祭で出会った難民の方々の姿がずっと頭に残っていました。遠い国の出来事だと思っていたことが、実はすぐ隣で起きているように感じられた。
「何かしたい」という気持ちは確かにあって、ただその“何か”の形がわからなかっただけなんだと思います。
そんなときに紹介してもらったのが、寄付者の方々と直接関わるこの仕事でした。
現地に行って支援するわけではないけれど、日本で支援の輪を広げることも、確実に難民の方々を支える力になる。
「それなら、自分にもできるかもしれない」
と感じたんです。
さらに、この仕事には“人と向き合い、伝える”という要素がある。
俳優を目指していた頃の経験──人前で言葉を選び、想いを込めて伝えるということは、まさに僕が得意としてきたことでした。自分の表現次第で、人の心を動かせるかもしれない。寄付という形で社会に貢献できるだけでなく、自分の成長や表現力を試せる仕事でもあると感じました。
もちろん、最初から大きな志を持っていたわけではありません。
ただ、目の前の人と丁寧に対話を重ね、自分の言葉で想いを伝える。
そうやって少しずつ、自分の中に「この仕事を通じて人の役に立ちたい」という気持ちが育っていったように思います。
自分の“表現”が、誰かの行動のきっかけになる。それがこの仕事の一番の魅力であり、俳優を志していた頃からずっと大切にしてきた「伝える力」と地続きの部分なんです。
実際に入職してからのお仕事や、心境の変化について教えてください。
入職して最初に感じたのは、「この仕事って、こんなに難しいんだ」ということでした。
街頭で寄付のご案内をしても、立ち止まってくださる方はほんのわずか。どれだけ一生懸命話しても、興味を持ってもらえないことの方が圧倒的に多いんです。最初のうちはその現実に正直くじけそうになりましたね。
それでも、少しずつ現場に立ち続けるうちに、直接話を聞いてくださる方や、寄付を始めてくださる方に出会えるようになりました。初めて「あなたの話を聞いて、協力したいと思いました」と言われたときのことは、今でも忘れられません。あの瞬間に、「自分の言葉でも、誰かの心を動かせるんだ」と実感できたんです。
もちろん、うまくいかないことの方が多いです。相手の質問にうまく答えられなかったり、知識不足で悔しい思いをすることもありました。そんなときに支えてくれたのが先輩たちの存在です。みなさん本当に丁寧で、わからないことがあればすぐに教えてくれるし、難民問題に関する本や資料を紹介してくれる。
「一人で抱え込まなくていい」という安心感がありました。
そうして知識を少しずつ身につけ、自分の言葉で伝えられるようになるにつれて、この仕事の意味がどんどん実感できるようになりました。
寄付という“行動”を通して、誰かが誰かを支える。その輪の最初のきっかけをつくるのが自分たちの役割なんだと気づいたとき、誇りを感じました。
伝わらない悔しさも、立ち止まってくれた喜びも、全部が自分の成長につながっている。
あの頃俳優として「どう表現すれば人の心を動かせるのか」を探していたのと同じように、今も“伝える”ことの意味を、毎日の現場で学び続けています。
実際に働く中で、仕事への考え方に変化はありましたか?
入職してから時間が経つにつれて、自然と知識も増えていきました。難民支援の現状や、寄付金の流れ、国際的な課題の背景、そうした情報を理解できるようになったのは、この仕事を続けてきた大きな成果だと思います。
今振り返ると、それ以上に大事なのは「一般の方の目線に立てること」なんじゃないかと感じています。ファンドレイザーという仕事は、知識の多さよりも、相手の気持ちに寄り添えるかどうかがすべてだと思うんです。
寄付に関心を持ってくださる方の中には、「本当に自分の寄付は届くの?」「個人情報やカードの扱いは大丈夫?」といった不安を抱えている方もたくさんいます。
しかしそれは当然のことですよね。僕自身、入職前に同じような不安を感じていました。
だからこそ、そうした方々の気持ちを“わかる”立場でいられることが、自分の強みだと思っています。
「寄付って、もっと身近でいいんですよ」
「あなたの気持ちが確かに届いています」
と伝えることができるのは、きっと僕のように一般的な視点からこの世界に入った人間だからこそ。
知識や立派な経歴よりも、目の前の方と同じ目線で話し、共感し合えること。
それが、ファンドレイザーとして何より大切なことだと、今は確信しています。
寄付者の方からは、どんな質問が多いですか?
「国連UNHCRという団体は国連のどの機関と違うのか?」、「どのような方たちを支援しているのか?」といった質問は、特に多いですね。
寄付者の方は、ニュースで見聞きする国連やユニセフなどの名前と混同してしまうこともあり、「本当に自分の寄付は正しく届くのか」と不安に感じる方も少なくありません。
そういうとき、私たちの役割は非常に重要です。
「ここは国連の中で難民支援をしている団体で、支援対象はこういう方たちです」と、正確に、わかりやすく説明する。それだけで、寄付者の方の安心感や信頼につながるんです。
さらに、UNHCRの特徴として、寄付は月に一度の継続型が中心です。
「なぜ毎月の寄付が必要なのか?」と質問されることも多いのですが、ここがファンドレイザーとしての腕の見せどころです。たとえばシリアの難民支援は、避難生活がすでに10年以上続いています。単発の募金では足りない現実があるからこそ、継続的な支援が必要であり、その意義を伝えることが、私たちの仕事の面白さでもあります。
自分自身、入職前は寄付をほとんどしたことがなかったので、寄付者の不安や疑問がよくわかります。だからこそ、現地の方と寄付者、両方の目線を持って伝えることができる。
そのバランスこそが、この仕事を続ける上での大きな強みだと思っています。
この仕事を続けていく上で、大切にしたい価値観は何ですか?
「一人ひとりの想いをつなぐ仕事だから、続けていける」
「難民支援」と聞くと、遠い世界の出来事のように感じるかもしれません。
しかし、実際に働いてみると、支援の輪はとても身近で、一人ひとりの小さな行動が確かに誰かの力になることを実感できます。
ファンドレイザーの仕事は、知識の多さよりも、寄付者と同じ目線で共感し、安心してもらえる関係を作ることが大切です。
その中で、自分自身も学び、成長できる。悩みながらも、寄付者と現地の方をつなぐ「架け橋」として働けることに、大きなやりがいを感じています。
これからも、一人でも多くの方に支援の輪を届けられるように。
そして、少しでも多くの方が「自分にもできる」と思えるような、そんな伝え方を探し続けていきたいです。
「難民支援」という言葉の向こうにいる、一人ひとりの人生を思い浮かべながら。
それが、この仕事の醍醐味であり、これからも変わらず大切にしていきたい想いです。
※この記事は、過去にエン転職で取材した記事を転載したものです。
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