弊社が提供する「Professional AI」のひとつである、HR領域に特化した「WorkOn(ワークオン)」。今回はその開発責任者を務める山口にインタビュー!
AIを活用しながら、通常なら5プロダクト分に相当する規模を1年で作り上げた巨大プロジェクトは、どのように形になったのか。そして「AIが同僚になる」世界をどう描いているのか。山口のこれまでのキャリアとともに、たっぷり語ってもらいました。
山口 裕明(やまぐち ひろあき)/ WorkOn 開発責任者・Director
大学で画像処理、大学院でヒューマンコンピューターインタラクション(HCI)を研究し、新卒でセキュリティソフトウェア会社へ入社。当時のヤフーの子会社でWebメディアの開発責任者を経験したのち、Sansanへ。新規事業の急成長期にエンジニアとして参画し、最終的に100名以上のエンジニア組織を率いる開発部長を務める。2025年2月にLegalOn Technologiesへ参画し、現在はWorkOnの開発責任者として事業を牽引する。
無謀すぎるからこそ面白い。普通の戦い方では勝てない市場へ
──山口さんはこれまで様々な環境でキャリアを積まれていますが、どのような歩みだったのでしょうか。
もともと大学では画像処理を研究していました。画像処理はコンピューター側の処理ですが、その先で人がどう受け取り、どう振る舞うのかに関心が移っていき、大学院ではHCIへ進みました。人の認知の特性を踏まえて接点を設計する、インタラクションの領域です。
その後、新卒ではセキュリティを扱う企業に入社し、新規開発のPoC(概念実証)を中心に担当しました。利便性とセキュリティはトレードオフになりがちですが、異分野の自分が入ることで、安全で、かつ使いやすいプロダクトを作れるんじゃないかと考えたんです。
ただ、PoCが中心だったので、身に付けたスキルが実際に世の中へ届くのかは分からないままでした。それを確かめたくなり、大量のトラフィックを経験できるtoCの女性向けWebメディアを運営する会社へ転職しました。そこでエンジニアから開発責任者へとキャリアを広げ、本格的にマネジメントも経験することになります。
──そこから、前職のSansanへ、という流れでしょうか。
実はその間に、一度大きくつまずいた時期がありました。ITを軸に顧客の課題解決に取り組む会社に移ったのですが、働き方も仕事の進め方も自分にはまったく合わず、心身を崩して半年ほど休養することになりました。
ただ、振り返るとこの経験が一番マネジメントの糧になっています。環境が合わないだけで人のパフォーマンスは簡単に落ちるし、本人がどれだけ頑張りたいと思っていてもどうにもならないことがある。それを身をもって知ったことが、いまの組織づくりの考え方につながっています。
そこから、あらためてやり直そうとSansanに入社し、新規事業の開発にいちエンジニアとして参画しました。事業と組織が一気に急成長していく中で再びマネジメントを担うようになり、最終的には100名以上のエンジニア組織を率いる開発部長を務めました。
──toCとtoB、どちらの環境も経験されているんですね。
そうなんです。ただ、実際にtoCを経験してみて気づいたのは、大量のトラフィックがあっても、具体的なユーザーの顔が見えにくいということでした。見えているのはHTTPのステータスコードを集計した全体の傾向で、そこからユーザーの振る舞いを想像して開発を進めていく感覚でした。
一方でtoBは、「○○会社の○○さんからのフィードバック」といったように、ユーザーとの距離がすごく近い。具体的な声をもとに改善していくフィードバックループが自分にはしっくりきて、作っている手応えを感じやすいと実感しました。それが、再びtoBの世界へ戻った理由ですね。
──大規模な組織を牽引されたあと、LegalOn Technologiesに入社した決め手は何だったのでしょうか。
当時のWorkOnの立ち上げ計画を聞いたとき、率直に「なんておかしなことをやろうとしているんだ」と思いました(笑)。
新規事業の立ち上げは、小さく始めて検証を重ねながら伸ばしていくのがセオリーと言われています。しかしWorkOnは、最初から大きな投資をして短期間で一気に形にするというミッションを掲げていた。しかも私が参画した時点では、事業全体でも中心メンバーは両手で数えられるくらいの人数でした。一般的なベストプラクティスとは正反対の、いわば無謀とも思える挑戦にすごく惹かれたんです。
もう一つの理由は、レッドオーシャンのHR市場への挑戦です。正直、話を聞いた時点では「さすがに無理があるだろう」という印象でした。でも、それだけ難易度が高い領域だからこそ、普通の戦い方じゃ勝てない。「おかしなこと」を突き詰めるしかない環境に面白さと可能性を感じました。
また、純粋な0から1の立ち上げは自分にとっても未経験のフェーズで、自分自身の新しい挑戦として魅力を感じ、入社を決めました。
データが分断されたら終わり。膨大な設計を何度も作り直した
──現在、WorkOnの開発組織ではどのような役割を担っていますか?
現在は、エンジニアとQAを中心とした40名弱の組織を統括しており、役割としてはEMやVPoEと呼ばれる領域が近いです。技術的な意思決定は信頼するテックリード陣に委ねつつ、私はその意思決定の精度を高めるサポートや、メンバーが力を発揮できる環境づくりに注力しています。
──初期リリースまでの1年間は、相当な苦労があったと聞いています。
そうですね……壮絶な1年でした(笑)。
開発したプロダクト自体はWorkOn一つですが、労務管理、勤怠管理、給与計算、AIアシスタントという4つの領域に加えて、社内の別プロダクトであるCorporateOnで提供していた社内ナレッジ検索をWorkOnでも使えるようにしました。合わせると、規模としては5プロダクト分に相当します。
それを1年という限られた期間で作り上げるという、かなりハイペースな状況でした。ピーク時にはプロダクト開発に関わるメンバーが100名弱まで増え、その後の組織分割を経て、いまのエンジニア中心の体制になっています。
私たちが採用したのは、統一されたデータ基盤の上に複数の機能を展開する「コンパウンド戦略」です。これを成立させるには、プロダクト間でデータが分断されないよう、全体構造を強固に設計しておくことが絶対条件でした。そのため、小さく作って試すアジャイルではなく、あえてウォーターフォール形式で設計を固めるアプローチで進めました。
特に苦労したのは最初の設計部分でした。ドメイン知識が浅い状態から必死にインプットを重ね、システムとして抽象化していく。先が見えにくい中で何度も作り直し、結果として初期リリースまでの期間の半分以上をデータ設計に充てることになりました。本格的な実装に入れたのは、2025年10月頃で、そこから約半年で一気に開発を進めていきました。
スコープが膨らんでも初期リリースからAIを載せた。人が承認するだけの世界へ
──あらためて、WorkOnとはどういったプロダクトなのでしょうか。
基盤にあるのは人事労務を支えるHRサービスですが、私たちは現在、単なる管理ツールではなく、「AIと、はたらく。」をテーマにした「HR AI」を目指すプロダクトだと位置づけています。
ただ、この位置づけは最初からあったわけではありません。実は、AIアシスタントは当初の開発スコープには入っていませんでした。HR領域は、AIがなくても業務の進め方を整えるだけで大きく改善できる余地があると考えていたからです。
ところが、開発を進めている最中に世の中のAIの潮流が一気に来て、実用に耐えるレベルまでAIが成長しました。段階的に後から追加する選択肢もありましたが、これからの時代を考えたときに、AIが後付けのオプションでは意味が薄くなる。そう考えました。スコープが膨らむことを承知の上で、初期リリースに間に合わせました。構想ではなく「動くもの」として組み込めたことは、大きかったと思っています。
最初は情報を集めて回答するシンプルな機能でしたが、現在ではフローチャートの自動生成、データ分析、グラフ描画、収集したデータのWord出力までこなせるように育っています。ただ、目指しているのは指示をこなすアシスタントで終わることではありません。AIが自律的に動き、人間はそれをチェックして承認するだけの「AIエージェントファースト」の世界観です。もちろん、AIが判断の根拠を示し、人が納得して承認できる形が前提です。
──アシスタントから、自律的に業務を動かすエージェントへ進化していくのですね。
はい。例えば、直近リリースした「WorkOn for Desktop(β版)」では、ユーザーの日々の勤怠入力パターンをAIが学習し、「この人は毎日この時間に休憩を取る」といった個人の「マイルール」を自動生成して提案してくれます。ユーザーがすることは、承認ボタン一つで通すだけ。それでワークフローが完了します。
人事労務の本質的な大変さは、毎月の締め作業の催促のような、細かなやりとりの積み重ねにあります。だからこそ、AIを単なる便利な道具で終わらせず、自律して共に働く「信頼できる同僚」へと昇華させていきたいと考えています。

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「縁」を整えるのがマネージャーの仕事。人もAIも、環境が結果を決める
──組織づくりにおいて、山口さんが大切にしている哲学はありますか。
「因縁果(いんねんか)」という考え方を大事にしています。もともとは仏教の思想ですが、そこからヒントを得て、物事の捉え方のフレームとして使っています。
「因果」という言葉はよく使われますが、因縁果では、その間に「縁」が入ります。例えば、種という因があっても、土や水といった縁が揃わなければ、実(果)はならない。因と縁の両方があって初めて、果が生まれるということです。大事なのは、結果を一つの原因に還元せず、周囲との関係性ごと見ることです。
冒頭でお話しした、一度つまずいた経験とも重なるのですが、どれだけ情熱があっても、環境が整っていなければ結果は出ない。痛い思いをしたからこそ、実感を持って言えることです。
マネージャーの本質的な役割は、この「縁」を整えることだと考えています。メンバー個人ももちろんですが、チーム全体で大きな成果を生み出せるような環境をいかに設計できるか。そこにマネージャーとしての力量が試されると思っています。
──環境づくりが、マネジメントの中心にあるということですね。
そうですね。しかも、これは組織づくりだけの話ではありません。実は面白いことに、開発におけるAIエージェントの活用にもそのまま当てはまるんです。
AIが力を発揮できる足場を設計するハーネスエンジニアリング、その中でループやグラフをどう組むかという工夫も、結局は「どういう環境を与えるか」という縁づくりの話です。人を動かすマネジメントも、複数のAIエージェントを動かすシステム設計も、やっていることは同じなんだと実感しています。
AIの使い方はあえて統一しない。問われるのは制約から成果を出す力
──AI時代において、開発スタイルはどのように変化している、もしくは変化していくと考えていますか?
初期リリースまでの開発では、変化が激しくベストプラクティスも定まっていない中で、「仕様駆動開発(SDD)」などを自分たちなりに試行錯誤しながら実践してきました。
いまは、全チーム一律で固定のAIの使い方を定義しているわけではありません。各チームがドメイン特性やプロダクトのフェーズに合わせて、独自の進化を重ねています。
スピード重視の領域ではAIと対話しながら素早く形にする進め方、複雑な仕様が絡む領域では業務単位での仕様駆動開発。そうやって使い分けることで、効率と品質を両立させています。
──そこまでAIを使い込んでいると、トークンの消費量も相当なのではないでしょうか。
そうですね、かなりの量を使うようになりました。ただ、事業の継続性を考えると、リソースが無限にあるわけではありません。だからこそ、「AIをどう使うか」という段階から一歩進んで、AIが働くことを前提に、トークンの効率をどれだけ高められるかを考える方針にしています。いまはエンジニアたちの関心もそこに向いています。いかに与えられた道具から最大の成果を創出するか、これはまさにエンジニアリングの本質だと思います。
今後はAIが実装を担うようになり、エンジニアはAIがパフォーマンスを出せる環境づくり、要件定義やユーザーの課題解決、そして出来上がった体験の検証といった、より本質的な領域に向き合うことが求められていくと感じています。
周囲を良くする起点になりたい。AIの時代こそ、人間の進化が必要
──山口さんご自身の、今後のキャリア展望について教えてください。
これまでのキャリアを振り返ってみると、一度いちエンジニアに戻った時でさえ、気づけばいつもマネジメントの役割を担っていました。結果として「自分の強みや特性はここにあるんだ」と腹落ちした感覚がありました。
薄い言葉に聞こえるかもしれませんが、大きな目標としては「世の中をハッピーにしたい」という思いがあります。ただ、私自身の根本にあるのは、もっと手前にある「自分の周りのメンバーや環境を少しでも良くしたい」というモチベーションです。
自分がマネージャーとして介在することで、まずメンバーやチームが良くなる。チームが良くなることでプロダクトが磨かれ、事業が伸ばせる。そしてその先で、結果的に社会へ良い影響が波及していく。その連鎖の「最初の起点」になることこそが、私のエンジニアキャリアにおける一番のやりがいであり、強みだと思っています。
──最後に、WorkOnチームで働く魅力を教えてください。
各分野のエキスパートと言える強いエンジニアが集まっていて、学ぼうという姿勢があればいくらでも学べる環境があることです。メンバーは私が想定している限界(キャップ)を軽々と超えて、想像以上の成果を出してくれます。
AIネイティブな開発プロセスを自分たちで実践しながら、HRという会社の根幹に関わるプロダクトに挑める。しかもHR AIはまだ新しい領域なので、提供する私たちにとっても、それを使うユーザーにとっても、新しい刺激があります。その新しさを一緒につくっていけるのは、エンジニアとして本当に面白い環境だと思います。
AIは成果を何倍にもする正の増幅器として捕えられがちです。ただ、AIが実装を担うようになっても、人間が構成する組織の地盤が強くなければ、むしろ負の増幅器にもなりえます。AIの時代だからこそ、人間がもう一段階強くなる必要があります。決して簡単ではありませんが、事業やプロダクトとともに自分も成長していきたいと思える方は、ぜひ一度お話をしましょう!