カジュアル面談が、その意義を失いつつある──。
ウォンテッドリーでは、この現状に違和感を覚えていました。本来、カジュアル面談は企業と候補者がフラットに話し、お互いのマッチ度を見極める“最初の出会いの場”として、2012年にWantedlyが提示した手法です。
その後、スタートアップ界隈を中心に多くの企業へ広がり、徐々に一般的なものとして知られるようになってきました。ただ、広がるにつれて本来の目的が少しずつ薄れ、相互理解の場として機能しづらくなっている場面も見られるようになっています。
そんな課題意識から、生まれたのが「指名カジュアル面談」。募集に紐づいたメンバーを候補者が指名できるようにし、「誰と話せるか」を起点に応募できるという新しい機能です。
なぜ、Wantedlyは今回「指名カジュアル面談」を立ち上げるに至ったのか。「誰と話せるか」からはじまる新しい出会いは、採用体験をどう変えるのか。
Wantedlyのプロダクトマネージャーである吉野雄大と赤川諒に、その背景とこれからのカジュアル面談のあり方について聞きました。
登場人物
写真左:Dev Branch / Product Management Chapter | 吉野 雄大(よしの かつひろ)
2012年に大学卒業と同時にWeb制作会社を設立して、4年間ほど経営。学習塾向けの動画配信サービスをはじめ、サービスの企画から開発まで携わる。その後、Webディレクターとして経験を積み、ディップ株式会社で求人メディアの「バイトル」「はたらこねっと」などのプロダクトマネージャーを担う。現在はウォンテッドリーにてプロダクトマネジメント組織のマネジメント、および戦略立案に従事している。
写真右:Dev Branch / Product Management Chapter / Visit Culture Squad │ 赤川 諒(あかがわ りょう)
2017年に株式会社ワークスアプリケーションズへ入社。会計パッケージの開発エンジニアとしてキャリアをスタートする。2019年より株式会社コドモンにてエンジニアとして請求管理システムや新規プロダクト開発に従事。その後プロダクトマネージャーへ転向し、既存機能のグロースや新規事業の立ち上げを担当。2025年よりウォンテッドリーに参画し、Visit Culture領域のプロダクトマネージャーとして、プロダクトを通じた価値創出に取り組んでいる。
形骸化するカジュアル面談と、もう一つの課題
── 今回、「指名カジュアル面談」という新しい機能をリリースした背景を教えてください。
吉野:Wantedlyの中で、以前からうっすらと感じ続けていた二つの課題がありました。その解決策としてプロジェクトを立ち上げたのが始まりです。
──二つの課題というのは?
吉野:まず一つ目の課題は「カジュアル面談の形骸化」です。
もともと、カジュアル面談は2012年にWantedlyが広めはじめた文化で、本選考の前に会社のメンバーと候補者がフラットに話して、マッチ度合いを見極める最初の出会いの場として定義していました。これまでになかった新しい手法としてスタートアップ界隈を中心に広がっていきましたが、現状は、実質的に一次面接のような形式になってしまっていたり、求人ページで紹介されていた現場メンバーとは別の人が対応することもあります。こうした状況が重なる中で、求職者が知りたいリアルな現場の情報が十分に伝わらないケースも見られるようになってきました。その結果、カジュアル面談が相互理解の場として機能しなくなっているのではないか、という危機感がありました。
赤川:僕自身も過去の転職活動の際に、カジュアル面談で現場の働き方について質問したら「それは一次面接でプロダクトマネージャーに確認してください」と言われたことがあって。現場の人と直接話せると思って参加していたのに、実際に対応してくれた人からは聞きたいことを聞けなかったんです。結局知りたい情報が得られなかったのはショックでしたし、残念な気持ちにもなりました。そのときに、何を聞きたいかもそうですが、それ以上に「誰と話せるか」がすごく大事なんだと痛感しましたね。
──「カジュアル面談」が一般的になってきた一方で、本来の目的が見失われてしまう現状があったと。
吉野:そしてもう一つは、Wantedlyを利用している企業ごとに、発信体制や運用の状況に差があるという課題です。
Wantedlyでは、会社がどんな想いで事業を行っているのか、どんなメンバーがどんな価値観で働いているのかといった「会社の素顔」を、会社ページや募集記事、ブログの役割を果たすストーリーなどで発信できる設計になっています。ただ、採用担当者によっては、リソースやライティングのノウハウが不足しているという面で、定期的な更新が難しいケースもあります。人員が足りないから採用したいのに、そのための発信が新たな負担になってしまう。こうした状況を、別の形でサポートできないかと考えました。
「誰と話せるか」から設計し直す。カジュアル面談の再定義
──それらの課題から、どのように「候補者が話したい人を指名できる」という発想に至ったのでしょうか。
吉野:課題を踏まえ、これまでWantedlyが大切にしてきたカジュアル面談のあり方をあらためて捉え直す必要があると思い、「この会社だからこそ、この人と直接話せる」という体験へと引き上げる形でカジュアル面談を再定義しました。そこで浮かんだのが、候補者と企業側のメンバーを直接つなぐ「個人同士のマッチング」という発想です。
Wantedlyでは一貫して、スペックや条件面だけでなく、ストーリーや募集記事といった発信を通して、会社の想いやメンバーの人柄そのものが伝わることを大切にしてきました。一方で、そうした魅力を文章で継続的に発信するのが難しい企業もある。であれば、個人同士をつなぐことで、ライティングに頼らなくても、「誰と話せるか」そのものや、人や面談自体をコンテンツとして届けられるのではないかと考えました。そのうえで、「誰が誰と話したいのか」という議論から始まり、その結果「候補者が話したい相手を指名できる」といった形で、方向性が固まっていきました。
赤川:次に考えたのが、「候補者が誰を指名するか」というパターンの整理です。社長や事業部長といった経営層なのか、入社後に上司となる人なのか、一緒に働く同僚なのか。まずは、どの相手を軸にするのが良いかを議論しました。
その中で出てきたのが、指名対象を社長に絞ることで、より強い体験を届けられるのではないか、という意見です。「誰でも面談できる」状態から、「この会社だからこそ、この社長と直接話せる」という形に引き上げられないか、と。経営者の言葉をリアルに聞けることや、候補者とワンオンワンで向き合うことは、意思決定の納得感を高めますし、「この人と働くんだ」という実感にもつながります。とはいえ、社長がすべての候補者と話すのは現実的ではありません。そこで、「人がコンテンツになる」という考え方はそのままに、対象を社長から現場メンバーまで広げていきました。
吉野:指名の仕方についても、いくつかのパターンに分けて考えました。一つは、社内で「目的選択方式」と呼んでいる形です。企業側のメンバーが「こういうテーマで話せます」とコンテンツを用意し、候補者がそこから選べる仕組みです。たとえば「求人業界のプロダクトマネジメントについて話せます」といったように、あらかじめ話す内容をメンバー側が提示するイメージですね。
もう一つは、ユーザー起点で「この人と話したい」と指名する形です。これについては募集を通じて呼び込む形や、任意で指名できる形など、いくつかのバリエーションを考えました。こうした「誰と話せるのか」と「どう指名するのか」の組み合わせを検討した結果、最終的には、募集記事に紐づいたメンバーを候補者が指名できる現在の形に着地しました。
初期段階に出たUIのアイデア
「無理なく運用し続けられる」ための設計
──実際に機能として形にしていく中で、どんな点を意識しましたか?
赤川:特にこだわった点は、企業側の運用のしやすさです。「現場や人事に工数を割けない」という不安を解消するため、求人が100件以上ある会社でも、人ベースで指名可否を一括で設定できるようにしています。あるメンバーを「指名OK」にすると、その人に紐づく求人が自動的にオンになる設計にし、人事担当者の負担を減らしました。ユーザー側も指名OKで検索でき、募集画面から誰が指名可能かすぐにわかります。また、募集ごとに「指名OK」設定のオン・オフも簡単に切り替えられるのでポジションごとに適切なメンバーを選びながら運用できます。
赤川:また、候補者側の期待値のコントロールについてもかなり議論しました。「指名したら必ず話せる」と受け取られてしまうと、企業側に過度な負担がかかってしまい、結果として双方にとって良いマッチングにならない可能性があるからです。そこで、指名時点で「確約ではなく、場合によっては面談ができない場合がある」ことをあらかじめ伝える設計にしました。「指名されたら必ず対応しなければならない」という状態を避けることで、企業側も気負いすぎずに運用できるようにしています。
候補者と企業、どちらにとっても無理のない形で成立するよう、こうした細かい部分も調整を重ねていきました。
吉野:さらに、機能が複雑になりすぎないよう「何を聞きたいかを事前に伝える機能」や「社員が話せるテーマを細かく設定する機能」は、最初は設けなかったのもポイントです。「指名していいのか」と遠慮するユーザーを無理に促すことも避けています。指名はあくまで任意で、応募の段階でさりげなく伝えることで、本当に指名したい人だけが利用できるニュートラルな体験を目指しました。
── リリース後の反響はいかがですか。
吉野:3月5日にリリースした時点で、すでに約5,000件の募集が「指名OK」の状態になっていました。当初は、1か月ほどで3,000〜5,000件、多くても9,000件程度と見ていたので、この時点でも十分に手応えは感じていました。その後も順調に増え続け、現在は約1万4,000件(3月31日取材時点)まで伸びています。想定を大きく上回る立ち上がりで、需要の高さを実感しましたね。
── 応募数が増えると、そのぶんマッチングの質が下がるのではという懸念はありませんか。
吉野:「応募が来すぎて困る」くらいがちょうどいいと考えています。求人は、応募が来ないから広告を出している側面があるので、まずはしっかり届く状態をつくることが大事なのではないかと。ただ一方で、指名が増えすぎて本来の業務に支障が出てしまう状態は避けたいとも思っています。そのため、メンバーごとに指名をオフにできる機能もあらかじめ用意しました。
最初からルールでガチガチに縛るのではなく、最低限守るべきラインは押さえつつ、実際の運用の中で出てくる声を受けながら改善を重ねていきたいと考えています。
「情報の解像度」を高め、理想のカジュアル面談を実現したい
──Wantedlyにとって、理想のカジュアル面談を実現するための今後の展望を教えてください。
吉野:候補者と企業、双方にとって満足度の高いカジュアル面談にしていくために、面談後の評価を取り入れ、そのデータを次の施策に活かしていく仕組みも考えています。ただ、目指しているのは単に評価を集めることではなく、応募を決める前の段階で、どれだけ情報の解像度を上げられるかという点です。
「何を聞けばいいか分からない」という状態から、「これを聞きたかった」と気づける状態をつくること。そして、それにちゃんと答えられる人が面談に臨むこと。その両方が揃ってはじめて、意味のあるカジュアル面談になると思っています。
赤川:募集を見た時点である程度知りたい情報が得られて、その先で話したい人と話せる。そうした一連の体験として、Wantedlyの使い方をさらに磨いていきたいと考えています。カジュアル面談という文化自体は、Wantedlyがつくってきたものだと思っています。だからこそ、形骸化してしまっている現状に対して、もう一度意味のあるものにしていきたい。
「この会社で働くかどうか」を考えるときに、本当に知りたかったことにちゃんとたどり着ける。そして、自分が話したいと思った人と、きちんと話せる。「指名カジュアル面談」を通じて、そんな体験を当たり前にしていきたいと思っています。