この度、当社の推薦システム開発チームのメンバーが主著を務めた論文が、推薦システム分野のトップカンファレンス「RecSys(レクシス)」に併設されるHR領域に特化したワークショップ「RecSys in HR 2026」に、口頭発表(oral presentation)として採択されたことをお知らせします。
マッチに届かず離脱するユーザーを減らす、定着率重視の推薦手法を提案
今回採択された論文は、当社の推薦システム開発チームに所属する右手達也が主著を務め、当社同チームの市村千晃、半熟仮想株式会社の齋藤優太氏と共同で執筆したものです。「Not All Matches Are Equally Valuable: An Online Experiment of Retention-Focused Recommendation in a Job-Matching Platform」というタイトルのもとに、定着率を重視した新しい推薦手法や、その効果を検証したオンライン実験ついてまとめています
2026年9月にアメリカ・ミネアポリスで開催される「RecSys in HR 2026」にて、口頭発表を行います。
研究の背景
私たちが日常的に使っている求人アプリやマッチングアプリのようなマッチング型サービスでは、求職者と企業など「双方のユーザー同士の嗜好が一致すること」がマッチング成功の鍵になります。こうしたサービスでは、ユーザーの行動履歴などのデータを使って、どのユーザー同士の組み合わせがマッチングにつながるのかを予測する推薦アルゴリズムが活用されています。
しかし、マッチの数を増やすことが、そのままサービスの成長につながるとは限りません。同じ 1 件のマッチでも、すでに多くの相手とつながっているユーザーに届くのと、まだ 1 件のマッチも得られていないユーザーに届くのとでは、その意味は大きく変わります。
そこで当社サービスのデータを分析したところ、直近のマッチが極端に少ないユーザーほど、サービスの利用をやめている割合が高くなっていました。ある程度マッチが得られた層では、マッチ数と利用継続の関係がゆるやかになる傾向も見られました。ところが従来の推薦は、マッチしやすいと予測される順に候補者一覧を並べるため、上位に入りやすく、すでに一定のマッチを得ているユーザーに機会が集まりやすくなります。まだマッチを得られていないユーザーほど次の機会が届きにくいこの構造は、マッチング型サービスに共通するもので、ユーザーにとっても企業にとっても損失を生みます。
論文概要
著者:右手達也(ウォンテッドリー株式会社)、市村千晃(ウォンテッドリー株式会社)、齋藤優太(半熟仮想株式会社)
本研究では、推薦の目的を「マッチの総数を最大化すること」から「マッチが届かないまま離れてしまうユーザーを減らすこと」へと捉え直し、その人数を小さくする問題として定式化しました。
その上で、既存の推薦モデルを作り替えることなく導入できる、シンプルな後処理の手法を提案しました。本研究が対象とするのは、企業から候補者へのスカウトをきっかけに生まれるマッチです。この経路で私たちが働きかけられるのは、誰が企業の目に触れるかというところまでです。そこで、企業に推薦する候補者の質を落とさないことを前提に、マッチが見込まれる組み合わせの中で、直近十分にスカウトを受け取れていない候補者の表示順を引き上げます。引き上げは無条件ではなく、特定のユーザーに偏らないようにしています。これにより、条件は合致しているものの、これまでは機会に恵まれず埋もれがちだった候補者と企業との新しい出会いを創出し、双方のマッチング機会を広げることを目指しています。
論文では、この手法を実際のサービス上で約 1 か月間の A/B テストにかけ、ユーザーの利用継続を主な指標として検証しています。採用サービスにおいて利用継続を目的とした推薦を A/B テストで検証した事例は、私たちの知る限りまだ多くありません。マッチの価値は届く相手によって変わるという問題の立て方と、それを実サービスで検証する枠組みを示せたことに、本研究の意義があると考えています。
「RecSys」と「RecSys in HR」について
「RecSys(ACM Conference on Recommender Systems)」は、米国計算機学会(ACM)が主催する、推薦システムに関する国際会議です。「KDD(※1)」「SIGIR(※2)」 などと並び、機械学習やデータサイエンスの分野において、権威のあるトップカンファレンスの一つとされています。
RecSysは毎年開催され、世界中の研究者やデータサイエンティスト、エンジニアが集い、推薦システムの分野における新しい研究成果の発表を行います。
「RecSys in HR」は、RecSysに併設されるワークショップの一種で、採用や人材配置、従業員の定着といった、人材領域における推薦技術が専門的に扱われます。
※1)機械学習やデータマイニングをテーマとした論文の発表を行う国際会議。正式名称は「ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery and Data Mining」
※2)米国の計算機学会の情報検索研究部会。正式名称は「Association for Computing Machinery's Special Interest Group on Information Retrieval」