クロスビット採用担当です。今回インタビューしたのは、代表取締役の小久保です。
大学卒業と同時にクロスビットを創業し、一貫して日本の労働力不足という巨大な社会課題に向き合ってきた小久保。2025年1月の累計13.5億円の資金調達を経て、シェアNo.1のシフト管理SaaS「らくしふ」を土台に次なる成長フェーズへと突き進む今、同社は「第二創業期」とも言える大きな転換期を迎えています。
なぜ彼は、数あるキャリアの選択肢の中から、正解のないゼロからの起業を選び、現場のリアルな課題と真摯に向き合い続けるのか。そこにあるのは、自身の原体験からくる「大切な時間を守る」という強い意志と、テクノロジーで人の可能性を解放する「Workforce Enablement(ワークフォース・イネーブルメント)」という思想でした。創業時の葛藤から、コロナ禍で証明されたインフラとしての価値、さらに1兆円規模のスタートアップを目指す今後の事業構想まで、余すことなくその軌跡と未来を語っていただきました。
小久保 孝咲 / 代表取締役
早稲田大学政治経済学部卒。在学中に転職エージェントにて法人営業マネージャーを経験。人材業界から日本の人材関連課題を見る中で、テクノロジー活用による人材リソースの最適配分の可能性を強く感じ、起業を決意。2016年に株式会社クロスビットを創業。クラウド型シフト管理システム「らくしふ」を主軸に、「らくしふ シリーズ」にてシフトワーカーを擁するあらゆる業種の、働く現場を包括的に支える事業を展開。
自営業の家庭で育んだ「商売」の感性と「食卓」の記憶
ーー卒業後、一度も就職せずに創業された背景には、どのような仕事観があったのでしょうか。
僕のルーツは曽祖父から続いていた自営業の家庭環境にあります。親が朝から晩まで働く日常を見て育ちました。子供の頃は、家族の時間が少ないことが当たり前でした。だからこそ、働くことの尊さを理解する一方で、「働くこと」と「大切な時間」を両立させる難しさも肌感覚で感じていたんです。
そうした背景から、幼少期の僕にとって「商売」や「自分で事業を営む」という働き方は、極めて身近なものでした。親が自分の手で仕事を切り拓く姿を見てきたので、自然と「自分も何かを生み出す側になりたい」という感覚が根づいていたんです。周囲にも学生起業をしている友人がいたこともあり、自分自身の力で事業を創るという選択肢は、僕にとってごく自然なものでした。
ーーその後、大学時代のインターンが大きな転機となったのですね。
はい。大学3年の終わりから、社員2名の転職エージェントで働いた経験が僕の骨格を作ってくれたように思います。完全歩合制という、成果がそのまま自分に返ってくる環境。やり方も自分次第で、裁量を持って自由に試行錯誤できたからこそ、夢中になるあまり気づけばオフィスで夜を明かすこともしょっちゅうでした。
そこで学んだのは、自作のプログラムで業務を効率化し、その結果がダイレクトに顧客の感謝や売上に繋がる「商売」の面白さです。自分の工夫次第で生み出せる価値が変わる、その手応えに強く惹きつけられました。
と同時に、自分が「社会にとって本当に良い」と信じることを、まっすぐ追求できる環境を自分で創りたいという想いも強くなりました。届けたい価値を起点に、仲間と一緒にゼロから組織を形にしていく。僕にとって起業は、社会に対して誠実に向き合い続けるための最も自然な選択だったように思います。
なぜシフト管理だったのか。事業選定に込めた3つの軸
ーー2016年の創業時、数ある社会課題の中から、なぜ「シフト管理」という領域を選んだのでしょうか。
本格的に自社プロダクトを創ると決めた際、僕は3つの明確な軸を持って事業を厳選しました。
1つ目は、「1位が獲れること」です。これは単に競合が少ない場所を探したわけではありません。先行者がいてもソリューションが不十分で、かつ一度入り込めば、単なる資本力だけではひっくり返せない「独自の城」を築ける場所です。シフト管理は、現場の泥臭いオペレーションに深く入り込む必要があるため、一度インフラ化してしまえば、強固な参入障壁になると考えました。
2つ目は、「周辺領域への拡張性」です。「らくしふ」は単一の課題を解決して終わるツールではありません。シフト管理をはじめとした業務の一部を握ることで、前後のプロセスである採用や労務、さらには決済や金融といった巨大なマーケットに接続できるハブになれる可能性があるのです。当時はまだ解像度は荒かったですが、労働にまつわる情報の結節点を握ることが、将来的に最も大きなインパクトを生むと考えたんです。
そして3つ目が、「自分が人生をかけてやり遂げる価値を感じられるか」という点でした。
ーーその「価値」の部分を、小久保さんはどう定義されていたのですか?
僕がこれまで見てきた働く現場のリアルに根ざしています。一つは、前述の通り欲張りに家族との時間をもっと大切にできる世界を創りたいという想い。そしてもう一つは、インターン時代に様々な立場の方と接する中で感じた気づきです。経済的な事情で選択肢が限られている方も、年収1,000万円を超えるような方も、立場は違えど「働くこと」に何らかのもどかしさを抱えていた。
立場や年収に関係なく、誰もが働くことにまだ伸びしろを感じています。であれば、その伸びしろをテクノロジーで解放できたら、社会全体が大きく変わるはず。特に、日本の労働力の多くを占めるシフトワーカーの方々の環境をより良くすることができれば、そのインパクトは計り知れません。そこに自分の時間と情熱を注ぐことは、僕にとって最もワクワクする選択でした。
ーー領域を決めてから「らくしふ」が形になるまで、どのようなプロセスを辿ったのでしょうか。
当時は現場の素人だったからこそ、徹底的に一次情報を取りに行きました。飲食店や病院の店長・看護師の方々に張り付き、その一挙手一投足を観察する日々。そこで見たのは、アナログな調整業務に忙殺され、本来向き合うべき顧客や自身の生活さえ後回しにしている現場の疲弊でした。
専門用語を教わっては調べ、翌日また現場で仮説をぶつける。その泥臭い学習×実践の繰り返しから、シフト管理こそが店舗運営の心臓部であり、労働を再構成する鍵になると確信しました。海外でも類似の課題解決が始まっていると知り、「日本でもこの巨大な負を解消すべきだ」という想いはさらに強固なものになりました。
コロナ禍も解約率1%未満。インフラとしての真価証明
ーー創業当初の立ち上げ期は、どのような状況でしたか。
実績も信頼もない状態からのスタートでした。自分たちでリストを作り、電話やメールを繰り返す地道で愚直な営業を続けました。MRR(月次経常収益)100万円に到達するまで1年近くかかりましたが、当時は資金が尽きる恐怖と戦いながら、受託開発の利益をすべてプロダクトに注ぎ込みました。周囲からはピボットを勧められることもありましたが、辞めるという選択肢は浮かびませんでした。なぜなら、現場の方々がこれほど困っているという「一次情報」を僕は持っていたからです。他人が何と言おうと、この課題に気づいた自分たちこそが解くべきだという使命感がありました。
ーーその後、2020年にコロナ禍が訪れました。最大の危機だったのではないでしょうか。
まさに。外食・小売業界は壊滅的な打撃を受け、新規の商談はすべて止まりました。一時は別事業を開始することも検討しましたが、蓋を開けると既存顧客の解約率はわずか1%未満に留まりました。
これは、僕たちが単に「シフト作成を楽にする」だけの存在ではなかった証拠だと思うんです。もしそうなら、店舗が休業・時短となったタイミングで真っ先に不要になっていたはず。しかし実際には、逆境下こそ予実管理や労務リスク軽減といった多面的な価値が求められた。この経験を通じて、「シフト管理ツール」の枠を超えた「労働力の最適配分を支える不可欠な経営インフラ」として、クロスビットが歩むべき道がより明確になりました。
この時期、ある導入企業の店長さんから「『らくしふ』のおかげで、初めて子供の寝顔以外の顔を家で見ることができました。ありがとう」というメッセージをいただきました。家族で食卓を囲めなかった僕自身の原体験が、プロダクトを通じて誰かの救いになった。あの瞬間、この事業を一生かけてやり遂げる覚悟が改めて決まりました。コロナ禍という試練が、結果として僕たちの提供価値を再定義してくれたんです。
Workforce Enablement|可能性を解放する黒子として
ーーコロナ禍を経て再定義された「価値」。その核心にある「Workforce Enablement」という思想について教えてください。
僕たちは、人を「管理」したいわけではありません。テクノロジーの力で、人が本来持っている可能性を「解放(Enablement)」させたいんです。人は適切な配置と環境さえあれば、自ずと躍動し、パフォーマンスを発揮します。
そもそも、目標を追いかけてそれをクリアしていく達成感というものは、本質的にはゲームに近くて面白いものだと思うんです。生物として、動物として、そういうプロセスには本来「快楽」を感じるはず。仕事をしている瞬間が一番楽しい、仕事ができてよかった。そう思える自然なコンディションを、仕組みによって取り戻したい。今は、それを阻害している「不合理なオペレーション」という重りを取り除いていくのが、僕たちの使命です。
特に僕がこだわっているのは、日本の労働人口の多くを占めるシフトワーカーの方々の環境を底上げすることです。世の中には、高所得者の収入を伸ばすためのサービスは、すでに充実しています。しかし、マジョリティである方々の労働環境を改善するほうが、社会全体に与えられるインパクトは遥かに大きい。所得の問題や情報の偏りによって、やりたいことが制限されてしまう不条理を、仕組みで減らしたいんです。
ーーその信念はどこから来たものでしょうか。小久保さん自身の正義感からですか?
正義感というよりは、それが「最も解決すべき、巨大で面白い課題だから」という感覚に近いかもしれません。
僕たちはビジョンに、『「はたらく」先の“最高”』を掲げています。「はたらく」をひらがなにしているのは意図的です。僕たちとしては、漢字の「働く」は固定時間の勤務など既存の制度の枠組みに留まりがちな状態を示します。しかし、今後、働き方はもっと多様になり選択肢も広がっていく。そうした可能性の広がりを込めて、あえてひらがな表記を選びました。さらに「はたらく」をカギカッコで括り、“最高”をダブルクォーテーションで囲んでいるのも、幸せの定義は人それぞれでいいという考えがあるからです。
バリバリ働いて世の中にインパクトを与えたい人もいれば、マイルドに働いて家族との時間を何よりも大切にしたい人もいる。その多様な幸せの形をすべて肯定し、一人ひとりが自らの意思で「最高」を選択できる状態。それこそが、僕たちがテクノロジーで実現したい「Workforce Enablement」のゴールです。
ーーそのビジョンの実現に向けて、クロスビットはどうあるべきだと考えていますか?
僕たちは、自分たちが新しい世界を強引にリードするような主役ではなく、あくまで黒子でありたい。ミッションに掲げているのは、「100年先も続く、働くを支える」です。
インフラというのは、蛇口をひねれば水が出るように、そこにあるのが当たり前で、止まった瞬間に皆が困るものです。たとえ未来にドラえもんが生まれるような超技術の時代になっても、人が社会と関わり、働くという営み自体はなくならないと考えます。
その営みを、最も滑らかに、心地よい形で支え続けること。不合理なオペレーションという「重り」を取り除き、誰もが自分の可能性を最大限に発揮できる環境を裏側から構築する。100年後の未来の人たちが、自分らしく「はたらく」ことができている。その足元を支えているのが、実はクロスビットの仕組みだった——。そんな、社会の公器としての「本物のインフラ」を創り上げることが、僕たちの目指す到達点です。
労働データの最上流を起点に、労働インフラを再構成する「マルチプロダクト戦略」
ーー現在、クロスビットは「第二創業期」とも言える転換期にあります。今後の展望を、具体的に教えてください。
僕たちが目指しているのは、単なるシフト管理SaaSではありません。労働力の最上流データを起点に、価値を再構成する「マルチプロダクトを軸としたプラットフォーム構想」です。
現在、僕たちは月間2,400万時間(時給換算で約250億円分)の労働データを保有しています。これは、現場における「いつ、どこで、誰が、どれだけ稼いだか」という、最も確かな一次情報です。このデータを武器に、これからは「シフト管理」の枠を超え、以下の3つの柱で事業を急拡大させます。
①給与・金融領域
僕たちが保有しているのは、「いつ、誰が、どれだけ働く予定か」という確かな勤務データです。このデータを「信用の裏付け」として活用することで、労働価値をよりスピーディかつ柔軟に個人へ還元できるインフラを構築していきます。過去の実績のみならず「将来の勤務予定」さえも個人の確かな信用実績として評価できる構想であり、その具体的な一例として、例えば実績に基づいた「給与の即時払い」などが考えられます。
②採用領域
これまでの採用は、媒体費をかけて人を集め続ける「フロー(消費型)」が主流でした。僕たちは、蓄積された労働データから個人のスキルや実績を可視化し、低コストでミスマッチのないマッチングを実現するプラットフォームへと進化させます。今後は提供できる価値の領域をさらに広げていく計画があり、その具体的な一例として、現在は自社のOB/OGを資産化する「タレントプール」などの仕組みから着手しています。
③グローバル展開
そして、これらをグローバルに実装していきます。日本は世界で最も早く深刻な人口減少と労働力不足に直面している「課題先進国」です。ここで磨き上げた「複雑な現場をテクノロジーで最適化する型」は、今後同じ課題に直面する世界中の都市で必ず求められます。アジア、ヨーロッパ、そして世界へ。日本が直面している「負」を、世界を救う「解」へと転換し、日本発の労働インフラをグローバルスタンダードへと押し上げていきます。
ーーこれら複数の事業が組み合わさることで、どのような変化が起きるのでしょうか。
現在、売上の約9割は「らくしふ」が占めていますが、3年後にはこの比率を大幅に変えていく。特定のチャネルを深掘りするだけではありません。複数のプロダクトを組み合わせ、複雑な課題を解き明かす「マルチプロダクト戦略」こそが、僕たちの最大の勝負所です。「点」ではなく「面」で価値を届けていく。将来的に年間1兆円もの労働価値が動くデータの最上流を起点に、僕たちの思想を社会に実装していくフェーズが、今まさに始まっています。
100年続くスタンダードを共に創る
ーー最後に、これからクロスビットに加わる仲間へのメッセージをお願いします。
僕が一緒に働きたいのは、「自らのポテンシャルを、現在の環境で出し切れていないと感じている人」「今の環境で成果を出しつつも、さらに複雑で変数の多い課題に挑みたい人」です。
確かな能力や熱量があるからこそ、自らの手で事業を動かす手触り感や、未知の領域を切り拓く手応えを、さらに求めている方も多いのではないでしょうか。僕たちは、そうした方々が自らの意思で限界を決めず、挑戦し続けられる環境を提供したいと考えています。
現在のクロスビットには、圧倒的な現場のデータ、そして立ち上げフェーズにある複数の新規事業があります。これらは、本気で事業を推進したい方にとって、極めて大きな機会となるはずです。現状に甘んじることなく「自らが主体となって事業を牽引する」という強い志があるなら、裁量と責任をいくらでもお渡しします。
100年続くスタンダードを自分たちの手で創り上げる。その圧倒的なスケールの挑戦を、共に分かち合いたい。これから始まる、クロスビットの第2章。自分自身の可能性を解放し、日本の未来を一緒に創りに行きましょう。お待ちしています。