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「もう、やってられない!」 会社を飛び出し1カ月。 私が世界を旅して見つけたもの

話を聞いたらおもしろそう。AIベンチャーのABEJAには、そう思わせる人たちがいます。

今回は志積由香子さん。創業から1年目の2013年、ABEJAに入社した。当時はまだ7人しかいなかった会社が、今では100人規模にまで成長。志積さんは人事担当としてこれまで約100人ほどの採用に関わってきた。

そんな志積さん、入社して5年が経ったある日「もうやってられん!」と1カ月間半、会社を休んだ。一体なにがあった? これまでの歩みとともに、その真相を聞いた。


入社2日目からしんどかった

志積:社会人3年目でABEJAに入社しました。新卒で入ったのは人材系の会社です。その会社で企業の新卒採用支援を担当していたとき、出会ったのが、岡田(岡田陽介・ABEJA代表取締役CEO)でした。不敵な笑みを浮かべながら、まだ何者でもないのに、面談の冒頭から「テクノロジーで世の中を変えたい」と本気で語っている大学生でした。

全国各地のたくさんの大学生と面談した中で、明らかに異彩を放っていました。そんな彼が、それから1年後に旗揚げしてABEJAを作った。前職の会社に思い入れもあったので悩みましたが、岡田の思いに共感してABEJAヘの転職を決めました。

でも、入社2日目から「あれ、しんどいぞ」ってなりましたね。

役員とともに資金調達に取り組みました。戦略、交渉は役員がやるのですが、そのために必要なものを調べて税理士や弁護士から資料を集めたりといったオペレーション業務を私が担当しました。

高いレベルの業務を求められるけれど、経験が乏しくそれに応えられない。また圧倒的に人手が足りないので、人事だけではなくいろいろなことをやらなければならない。経験もノウハウもないことを、圧倒的なスピード感で進めなければならないつらさがありました。

当時は「会社」というよりも、社長歴も役員歴も1年未満の人たちが7人集まっただけの「チーム」という感じでした。人間的にも揉まれきっていないし、常に「来月のキャッシュどうする?」っていう状況です。資金調達のために一刻も早く成果を出さなければならない焦りから、ギスギスした会話を耳にすることも。皆、明日を生きるのに必死でした。

それでも若い人たちが熱い思いを持ち寄って、壮大なことを成そうとしている。とくに深く語り合ったりはしていません。それでも実現したいことが言動や態度から感じとれたんです。キレイごとじゃない部分も含めて人間らしいと思いました。だから一緒にやっていきたいと思いました。

それがなかったら「なんやこいつら」って思ってめっちゃ嫌いになってたと思います(笑)


正義感の強い子どもだった


小学生の頃は、検事になりたかったんです。親に「六法全書」を買ってもらって読んでいました。人はなぜこんな行動をとるの?なにを思っているの?そんなことを考えながら犯罪心理学の本も読みました。

いじめによる小学生の自殺や、神戸の殺傷事件があったりと、衝撃的なニュースが続くなか「人が人を悲しませることはあってはならない」と強く感じました。命は戻ってこなくても、悲しい思いを少しでも晴らしてあげられるんじゃないか。そんな仕事がしたかった。

検事の道を目指していたけれど、大学は行きたいところに行けなかった。

その後進んだ大学で、アントレプレナーシップの講義を受けたときに、ビジネスでも世界を変えたり、人のためになれる道があることを知りました。目指していた法律の道から外れたことで、一気に視野が広がったんです。


会社だけではなく、本人が幸せになれる採用がしたい


人の内面を深く知ることに興味があるので、その点は人事の仕事に生かせているかもしれません。子どもの頃から抱いていた「人が悲しい思いをしてほしくない」という思いは今も同じです。

「ABEJAに来て良かった」って思ってもらって晴々とした姿が見たいんですよね。

もしも素晴らしいスキルのある人だったとしても、共にビジョンを描けなければ、その人にとって幸せじゃないかもしれない。私自身、この会社にいるからこそ得られた幸せや楽しさもありますが、それを遥かに上回る大変さを知っているからです。

だからこそ、面接はABEJAに関わってくれようとしている目の前の人が、自分らしく対話できるような場にしたいし、正しく情報を伝えようと努めます。

人事ってほとんど注目されない仕事ですけど、これが大きなやりがいだなと思います。


水が変わると魚は死ぬ


私、金魚を飼っています。

熱帯魚などもそうですけれど、水が変わると魚って一気に死んじゃうじゃないですか。人間にとっても組織の「環境」って大事だなと思います。

創業間もないあの“クソしんどかった時期”を共に歩んできた人たちとは、試行錯誤しながらですけれど、なんだかんだ支え合ってきました。

「あのときはマネジメントあんな感じでゴメンね」「お互いめっちゃしんどかったですね」なんて言い合って。そんなふうに思いを共にしてきた人が、人事のチームからいなくなった。

入社から6年。気づけば私の人生の多くを仕事が占めていました。数年来を共にしてきて、この先も一緒にやっていくと思っていたメンバーが辞めてしまうなんて、想像もしていませんでした。

なるほど。会社って人が入れ替わりながら大きくなっていくんだ。そうだよな、と冷静に受け止めている自分もいましたが、なかなか自分の気持ちがついていかない。

新しくチームに入ってくれた仲間と実現したいこと、そのためにはこれまでの教訓も伝えなければいけない。人との距離感ってすぐに縮まらないし、うまく伝えられないもどかしさがありました。それでも明日も、明後日もやるべき業務はある。そんな状況の中、だんだん限界を感じ始めていました。

ムリだ……。


あぁ、もうやってられない……!

当時の上司には「そろそろ無理かも」と伝えていました。留まりたい気持ちと逃げ出したい気持ちで揺れるなか「戻ってくるので、とりあえず休みます」とだけ伝え、めちゃくちゃ溜まっていた有給を使って休むことにしました。


人の幸せには、いろんなベクトルがある

そうして旅に出ました。エジプト、トルコ、モンゴルを1カ月かけて。

まずはエジプト。最初の2週間は、やっぱり引き継ぎが不十分だったんじゃないかと、どうしても仕事のことが気になっている自分がいました。でも休むと決めたので、SlackとSNSの通知を切りました。

ラマダンで夕方に食事をとる現地の方


そしてトルコ。そこには私とは全く違う人々の営みがありました。

イスタンブールでは、トプカプ宮殿の近くの公園に夕方5時ごろに家族連れがやってきて、マット敷いてお弁当食べたりしていたんです。祭があるわけでもないのに。夕方の5時ですよ?

いつもの私だったら、この時間なにしているだろう? まだ業務が残っていて、気付いたら夜になっている。

そしてこう思いました。

なにもしなくても明日はくるし、なにかしていても明日はくる。時間の使い方は自分で決めていいはず。それなのに、私はなぜか仕事という狭い枠の中で生き方を決めている。

世界にはもっといろんな生き方をしている人がわんさかいるのに。

次に訪れたモンゴルでは、遊牧民のゲルに入れさせてもらって、話を聞きました。

ゲルのなかは、テレビはあるけれどパソコンはない。もちろんAIなんてない。大草原の中にポツンと街灯がひとつありました。

それでも、とても豊かだなあと思いました。みんなめちゃくちゃいい笑顔をしていて。

生活水準が上がった日本で暮らす私は、豊さを求めて便利なものや、新しいテクノロジーを使うんですけれど、ここは違った。彼らにPCを渡したところで、彼らの関心ごとは明日のご飯や馬の出産だったりするんです。

遊牧民の人たちと話して、人の幸せっていろんなベクトルがあるんだなと思いました。

世界中の人が私と同じように毎日パソコンを叩いているわけじゃない。私の日々の悩みはめちゃくちゃ小さなこと。私がしんどい思いをしてたとて、世界には陽気な朝を迎える人がたくさんいる。

いろいろな場所での暮らしや、人々の生き方に触れ、制限は自分の気持ちの中にあると気づいたんです。


疲れたら休んでいいよ

旅から戻ったら、不思議と会社の仲間に還元したい気持ちが高まっていました。役割を一旦全て手放すことで、自分の今後をフラットな状態で考えられるようになったんです。

旅の中で感じたこと、これまで思ってきたことをランチの時間に発表しました。今後目指したい姿、作りたい会社のために自分はなにをやりたいのかについても。

思い返せば、会社を辞めるタイミングなんていくらでもあった。でも辞めなかったのは、人生をかけてABEJAに入ってきてくれた人たちがいるからなんです。

私と同じようにしんどい思いをしている人もいると思います。でも最後には「やってよかったね」って思ってもらいたい。

だからこそ、みんな疲れたら休んでいいと思うんです。私が休んだことをきっかけに、ほかのメンバーにもそう思ってもらえるかもしれない。さっそく、同じように長期休暇をとるメンバーも出てきました。

働き方って生き方なので、がんばったり休んだりするタイミングは自分で決めればいい。今この時間の使い方は、本来自分が望んだこと?って、立ち止まって考えてみることが人生には必要なんじゃないかな。

(取材・文=川崎絵美 写真=川しまゆうこ 編集=錦光山雅子)

(2019年11月6日掲載のTorusより転載)
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