はじめに:求人票の「条件」の奥にある本質を届けたい
2026年6月から、私たちは採用媒体を活用した本格的な採用活動をスタートしました。
初めて本格的に転職市場を覗いてみて、素直に感じたことがあります。それは、「企業と求職者のマッチングって、実はものすごく難しいのでは……」ということです。
求人媒体に掲載できる情報の多くは、勤務地や表面的な諸条件といった定型的な内容に限られがちです。しかし求職者の方からすれば、そうした条件面だけで「その会社の本質」を見抜くのは不可能に近いのではないでしょうか。
一方で企業側としても、本当に届けたい「会社のカルチャーや思想」や「働く現場のリアル」があるのに、それを求職者に届けるまでに莫大なコストと労力がかかってしまう。そんなもどかしさを強く感じたのです。
だからこそ、私たちは綺麗にパッケージされた求人票を出すのではなく、「これまで経営サイドで泥臭く作り込んできた理念やカルチャー、数々の試行錯誤を経て行き着いた制度のすべてを、包み隠さずオープンにすること」を選びました。
条件面の奥にある、私たちのマネジメント論や組織のリアルを届けていくことこそが、求職者の方にとって本当の意味での判断材料になると信じているからです。
東京・中央区にあるたった10人規模の不動産ベンチャー(株式会社nodomaru)が、なぜゼロから人事評価制度を作り、3年間かけて現場に定着させてきたのか。その背景・具体的な仕組み・運用のリアルを包み隠さずお話しします。
目次
1. なぜ、たった10人の会社が評価制度の設計にこだわったのか?
形骸化された評価制度が組織にもたらす「シラケ」
私自身、前職の大手企業勤めの頃は、社内の人事評価制度に対して決して良い印象を持っていませんでした。これを読んでくださっている方の中にも、
- 「評価のための評価(形式的な作業)になっている」
- 「半期に一度の形ばかりの面談にあまり意味を見出せない」
といった苦い経験をされた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
当時の私は、新人研修時に聞いていた社内ジョブローテーションに期待し、初期の配属先で目の前の仕事に全力で取り組みました。しかし、毎年希望を出していた人事や経営企画への配置転換は叶いませんでした。実力不足だった面はもちろんありますが、当時の組織には「明確に何ができれば異動できるのか、あるいは何が足りないのか」という客観的な基準が一切提示されていませんでした。
また、評価シートに並ぶ項目は、自身のキャリア形成や成長に繋がるものではなく、売上目標の達成率など目先の担当業務に関する数値が中心でした。ありがたいことに評価自体は高評価を得られていたものの、それがどのような基準で付与されていたのかは不明瞭で、「自分は一体世の中でどれくらいの価値があるのか」「本当に成長できているのか」という焦りと不安がありました。
本来は社員の成長のためにあるはずの制度が形骸化し、運用が機能しないことで、社員が納得感を持てずに組織を離れてしまう。これは大企業に勤めている方も、ベンチャーに努めている方も、感覚として持っている漠然としたキャリアへの不安につながっていると感じます。
10人のベンチャーで直面した組織の拡大の頭打ちと「期待値のズレ」
私がnodomaruに参画した当初、組織はまだたった10人ほどの規模でした。当然ながら、明確な人事評価制度など存在しません。最初は制度がなくとも、理念やビジョンへの共感だけで全員が同じ方向を向いて走れる、アットホームなチームでした。
しかし、リファラルなどを通じて仲間が少しずつ集まり、組織が大きくなり始めたとき、私たちは「人材の拡大が頭打ちになり、離職者が現れる」という大きな壁に直面しました。
その原因を探っていくと、会社とメンバーの間で起きている「方向性のすり合わせ不足(期待値のズレ)」に行き着きました。
会社には掲げる理念があり、それに伴ってメンバーに期待する役割があります。一方でメンバー個人にも「こんなキャリアを歩みたい」「こんな人生を過ごしたい」という想いがあります。これら双方の方向性が合致していないと、どれだけ優秀で情熱のある人でも、頑張るベクトルを見失ってしまいます。
さらに、「自分や会社がどれくらい成長し、どのように成果を出せば次のステップや役職へ昇進できるのか」という将来の道筋が見えていませんでした。結果として、先のキャリアが見えづらい中で別の業界へ転職していった仲間や、家庭を持つことを見据えて大手企業へ再転職していった仲間がいたのです。
この「期待値のズレ」を解消し、全員が迷わず安心して走れるキャリアの道筋を明示しなければならない——そう痛感したことが、私たちが本格的な制度構築へと舵を切った最大のきっかけでした。
不動産業界の構造的課題と「レバレッジ経営」へのシフト
制度構築にあたり、私たちが最初に乗り越えなければならなかったのが、不動産業界特有の構造でした。
一般的に不動産業は、個人の営業力やマンパワーに依存する「労働集約型」のビジネスモデルです。一人で自立して数字を作れるトッププレイヤーを量産する「エキスパート経営」が主流であり、個人の成約実績に応じた歩合制の報酬体系が一般的です。不動産は商品の単価が大きく売上のストック性が低いため、業績のボラティリティ(変動)が大きく、出来高に応じた還元設計は会社にとっても経営上のリスクを抑えられる合理的な仕組みです。
しかし、この構造には組織を作る上での重大なデメリットが存在します。
- トッププレイヤーの独立と二極化:個人の数字のみが評価される環境では、突き抜けた成果を出す人ほど組織に留まる理由が薄れて独立へ向かい、そうでないメンバーは使い捨てのような環境に陥りやすい。
- 育成や仕組み化の停滞:他者の育成や組織のナレッジ化に自分のリソースを割くメリットがないため、チームとしての相乗効果が生まれにくい。
- ライフステージ変化への不安:単発の数字を追い続ける環境では、結婚や出産といったライフステージの変化を迎えたとき、持続的に安心して働き続けることができない。
私たちが創業思想として掲げていたのは、「長く関われる会社であること」、そして「リーダーを輩出すること」でした。
私たちが定義するリーダーとは、単に自分が数字を上げるスーパー営業マンではなく、「関わる人の可能性に火をつけ、その人が持つ力を最大限に発揮させられる人」です。個人のマンパワーに依存する個人商店の集まり(エキスパート経営)から脱却し、多様な強みを持ったメンバーがチームの仕組みで勝つ「レバレッジ経営」へシフトする。
その組織づくりのプロフェッショナルであるパートナー(HOPグループ様)との出会いを経て、私たちは「今のnodomaruの理念と事業実態に合った評価制度」をゼロから作り上げる決意を固めました。
2. 「何を頑張ればステップアップできるか」が見える評価制度の仕組み
私たちが構築したのは、ブラックボックスを完全に無くした透明な仕組みです。 制度は大きく分けて以下の「3つの柱」から構成されています。
1.グレード設計
2.考課シート
3.評価と連動する明確なキャリア
グレード設計:役割を見える化する「9段階×5ランク(全45階層)」
評価制度の土台となるのが「グレード」です。 ここでの最大のポイントは、「今いるメンバーのスキルや顔ぶれに合わせて組織や役割をパズルのように当てはめる(適材適所)」のではなく、「経営計画の達成に必要な役割や席を先に定義し、そこに人を配置する(適所適材)」という思想(※参考文献:『最強の戦略人事』)を取り入れた点です。
タテの階層としては、組織の構造に合わせて大きく3つのステージに区分し、それを9つのグレードへ可視化しました。
- ファンダメンタル層(G1〜G3):業務の基礎を固め、自立して成果を生み出す再現性を身につける段階
- リーダー層(G4〜G6):高い専門性を発揮する、またはチームのマネジメントや教育を担う段階
- オフィサー層(G7〜G9):事業部や組織全体の意思決定と構造改革を牽引する段階
さらに、日々の泥臭い頑張りや小さな成長を見逃さないよう、
各グレードの中に「D ➡ C ➡ B ➡ A ➡ S」の5つのランクを用意しました。
【9段階のグレード × 5つのランク = 実質45段階】
この細かいグラデーションがあることで、「次の等級に上がるまでずっと評価が変わらない」という大雑把な階段にならず、日々の小さな成長や努力が毎回の評価にしっかり反映される設計にしています。
考課シート:バランスの取れた「3つの評価観点」
営業組織において、売上などの数字(結果)だけで評価を行ってしまうと、成果至上主義に偏り、「数字=その人の価値」という殺伐とした雰囲気が生まれてしまいます。また、運や環境に左右される単発の成果では、持続的な成長やスキルの再現性が生まれません。
そのため、私たちは以下の3つの観点から多角的に評点を算出しています。
- 達成力(業績考課):【結果】売上や成約数など、数値で表される組織への貢献度
- 実践力(行動考課):【プロセス】成果を再現性高く生み出すための実務行動・スキル
- 人間力(情意考課):【姿勢・価値観】理念・行動指針・カルチャーの体現度
計算から評価者の主観を徹底的に排除するため、クリアな計算式(各項目のウェイト合計20 × 0〜5の6段階基準 = 100点満点)を組んでいます。
また、この3観点の比率はグレードによって変化します。入社初期(ファンダメンタル層)のメンバーにいきなり高い結果だけを求めることはせず、「実践力」や「人間力」のウェイトを高めに設定し、基礎スキル向上とカルチャー浸透に集中できる環境を作っています。
仕事(コト)と人格(ヒト)を切り離すコミュニケーション
評価基準を明文化している最大のメリットは、現場におけるコミュニケーションの「課題の分離」ができることです。
明確な基準がない組織では、上司のアドバイスが主観や過去の成功体験になりやすく、部下側も仕事への指摘を「自分という人間性を否定された」と情緒的に受け止めてしまう摩擦が起こりがちです。
制度として求める要件や基準が明文化されていることで、マネージャーは自身の感覚論ではなく「会社の目指す基準」を主語にしてフィードバックができ、部下も「仕事のプロセスに対する前向きな改善提案だ」と素直に受け取れるようになります。
- 仕組み(機能)で「仕事(コト)」に向き合う
- 対話(情緒)で「人(ヒト)」に向き合う
この両輪を揃えることで、失敗を恐れずに挑戦できる環境(安全基地)を作っています。
評価と連動する透明なキャリア
「頑張ったけれど、どう評価されたかわからない」「キャリアアップの基準が不透明」という疑問を無くすため、ランク変動ルールを全社にオープンにしています。
たとえば「評点80点以上で2ランクUP」といった明確な基準があり、評価結果に応じてどのランクへ移動するかが一目瞭然です。
また、共通の土台となる基本構造に対して、個々の役割や専門性に応じた手当(営業手当、資格手当、マネジメント手当、プロジェクト手当など)を組み合わせるアドオン方式を採用しています。身につけた専門知識(宅建など)や担う役割(チームマネジメントや新規事業など)が明快に評価に加算されるため、メンバー全員が納得感を持って自分の目指すキャリアに挑戦できるようになっています。
3.制度が「現場の文化」になるまでの泥臭い3年間
「綺麗な制度を作ること」と「それが現場で機能すること」は全くの別物です。制度が形になり、実際の現場で文化として定着するまでには、実に【3年間】という月日と数え切れない泥臭い試行錯誤がありました。
制度を機能させる「4つの運用ルール」
莫大な労力をかけて作っても、現場で運用されなければ意味がありません。私たちが定着のために徹底したルールは以下の4つです。
- 考課責任者を明確にする:代表および事業部長が直接面談を担当。
- 評価期間(半期)と毎月のリアルタイム計測:期末にまとめて振り返るのではなく、毎月リアルタイムでスコアリング。
- 毎月30分の1on1セッションの徹底:部下が提出したシートと振り返りをもとに、毎月初に直接対話を重ねる。
- シートを個人に合わせて「カスタムメイド」する:定型文ではなく、個人の目標や課題に合わせて一人ひとりシートをカスタマイズして作成。
正直、ここにはかなりのエネルギーを使います。プレイングマネージャーとして自分自身も現場で営業に出ながら、毎月部下全員分のフィードバックを準備し、時間を捻出するのは非常にタフな作業でした。しかし、小規模な組織だからこそ一人ひとりと深く向き合い、この対話を泥臭く継続したことが、制度を「会社の文化」へと昇華させる鍵となりました。
成長のギャップを埋める「フィードフォワード思考」
経営計画から逆算した「期待する役割」と「現在のメンバーのスキル」には当然ギャップがあります。このギャップに対して「なぜできなかったのか」と過去を詰めても、人間の防衛本能が働くだけで前向きな行動には繋がりません。
私たちは、「どうやったらできるようになるか」「次はどうチャレンジしてみたいか」という未来に視点を合わせる「フィードフォワード思考」を徹底しました。
成果に繋がるプロセス(実践項目)を言語化し、コントロール可能な行動に集中してもらうこと。そして対話を通じて未来への行動を促すことで、メンバー自らが前を向いて成長できるサイクルを作りました。
一番運用が難しかった「情意考課」と向き合う
3つの評価基準の中で最も難しかったのは、定性的な「情意考課(姿勢・理念の体現)」です。
人は生身の人間であり、時期や状態によってセルフイメージの波(自己否定・自己肯定・自己効力感の揺れ)が発生します。この気分の落ち込みや感情の揺れが、そのまま評価のブレに繋がることは避けなければなりません。
だからこそ情意考課のフィードバックでは感情論を排し、会社の行動指針やカルチャーと照らし合わせた「具体的な行動事実(コンピテンシー)」をもとに対話すること、そしてメンバーの感情に寄り添いながら一緒にメタ認知(客観的な自己認識)を高めていくコミュニケーションを徹底しました。
マネージャーだけが正解じゃない「2つのキャリアコース」
初期の制度設計では「グレードが上がれば全員がマネージャーになる」という設計にしていました。
しかし運用を続ける中で、「マネジメントよりも、最前線で個人の営業力や専門性を極めたい」という強みを持ったメンバーの存在にも気づきました。全員を同じ型に当てはめるのではなく、各自の無意識の強みが組織の中で活きることこそが重要です。
現在では制度を進化させ、チームの育成や組織化を担う「マネジメントコース」と、現場で高い専門性を発揮する「エキスパート(プロフェッショナル)コース」の2つのキャリアパスを用意し、それぞれの挑戦を正当に評価する仕組みにしています。
おわりに:制度は「創る」ものではなく、人と共に「育てる」もの
3年間泥臭く向き合って痛感したのは、「完璧な制度などこの世に存在しない」ということです。
制度とは、どこからか綺麗にパッケージされたものを導入して完成するものではありません。組織のフェーズ、事業の成長、そしてそこで働く社員たちと正面から向き合い、泥臭く修正を繰り返し続け、現場の文化になって初めて機能するものです。
「自分の成長や評価の基準が不透明でモヤモヤしている」 「形式だけの評価制度の中で、自分のキャリアが見えなくなっている」
かつて大手企業勤めだった頃に私自身が抱いていたそんなシラケや葛藤があったからこそ、私たちはここまで本気で組織づくりに向き合ってこれました。
- 「成長や評価の基準がクリアに見える環境で、思いきり挑戦したい」
- 「単なる数字だけでなく、ひとりの人間として本気で向き合ってくれる仲間と働きたい」
もし、私たちが目指す組織づくりや「人と本気で向き合うカルチャー」に少しでも共感していただけたら、ぜひ一度カジュアルにお話ししてみませんか?
面談では、今回ご紹介した考課シートの実際のサンプルや、毎月の1on1のリアルな雰囲気も含めて、包み隠さずお伝えします。
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