きっかけは会食の席でした。他社の経営者が「部隊」「部下」という表現を繰り返し使うのを聞いて、Ragate代表の益子竜与志は違和感を覚えます。2025年10月22日のブログは、その違和感から始まっています。
Ragateでは、言葉を意識的に置き換えています。「部下」ではなく「メンバー」。「部隊」ではなく「チーム」。「教える」ではなく「共有する」。「従業員」ではなく「メンバー」。
単なる言い換えではない、というのが本人の説明です。
役割の上下と、人間の上下を分ける
組織に上下関係があること自体は否定していません。ただしそれは仕事上の責務や職務の違いであって、人間的な上下関係とは区別する、という立場です。経営者として意思決定の責任を負うことと、人間の価値や尊厳に序列をつけることは別である、と。
そのうえで、言葉が文化をつくるという話が続きます。「部下」という言葉を使い続けると、「指示を出す側」と「指示を受ける側」という固定的な関係が強化される。対して「メンバー」「チーム」という表現は、主体性を持った協働の関係を醸成しやすい。目指しているのは、上からの指示を忠実に実行する組織ではなく、各メンバーが自律的に考え、意見を出し合い、最適解を見つけていく組織である、と書かれています。
社外とのやりとりでは相手の文化に合わせることもあるが、社内ではこの原則を大切にしている。言葉を変えたからといって劇的な変化が起きるわけではないかもしれないが、小さな選択の積み重ねが組織の文化を形作っていく、という締めくくりです。
この言葉遣いは、社内で制度を説明するときにも一貫しています。案件ごとに担うロールについても、「どのロールも、偉さの順番ではありません」という言い方で説明されています。
一番強い市場価値は誠実さである、という結論
その5日前、2025年10月17日の記事では、もっと踏み込んだ主張をしています。スキルや実績よりも、誠実さが最終的な成果を左右する決定的な要素だ、というものです。
出発点は、MBA取得やAWSの受賞といった分かりやすい成果より深い価値が何かある、という疑問でした。益子の観察では、高度な技術を持つエンジニアは市場に多数いる。しかし実際のプロジェクトの成否を分けるのは、チームとして機能するかどうかで、技術難度以上に効いてくる。誠実な正社員チームが、技術力だけで見れば優れた業務委託チームより成果を出す場面がある、と書いています。
理由として挙げられているのは、誠実なメンバーによって心理的安全性が高まり、パフォーマンスが上がること。逆に不誠実なメンバーが一人いるだけで、チーム全体が悪化すること。働きやすさは単なる快適さではなく、成果に直結する、という整理です。
そこから先は連鎖になります。働きやすい環境は離職を防ぐ。長期雇用によって組織に知識が蓄積される。安心して学習投資ができる。失敗が許容されるから新技術に挑戦できる。知識共有が活発になり、組織全体の学習速度が上がる。
そして、誠実さは再現性のある差別化要因だ、と結論づけています。技術トレンドは数年で陳腐化するが、誠実さは時代を超えて価値を持ち、模倣も困難である。生成AIが技術的なタスクを自動化していくなかで、人間に残される価値は信頼関係の構築のほうへ寄っていく、という見立てです。
採用についても同じ記事で触れています。求職者が見栄を張っても見抜かれる。できないことを認められる人、失敗から学べる人が評価される。採用担当者が本当に見ているの「長期的に一緒に働けるか」という人間的な信頼である、と。
ソフトスキルは、ハードスキルを超える
この考え方は、評価制度の設計にそのまま入っています。
Ragateは、技術力や品質を「必要条件」として位置づけたうえで、評価や任用ではソフトスキルをより重く見ます。プレイヤーとして重視するのは、愛される力、深く関わる力、論点を整理する力、情報を設計する力、簡単に伝える力、構造で考える力の6つです。「難しいことを、難しいまま話さない」という一文が、そのまま評価項目になっています。
マネージャーには別の6つが挙がります。伴走する力、活躍を伝える力、処遇につなげる力、自尊心を守る力、任せる力、評価を明確にする力。
同時に、マネージャーがやってはいけないことも4つ、はっきりと禁じられています。部下の成果を自分のものにする。失敗を過度に責める。成長の機会を奪う。評価を曖昧にする。これらが禁則として言葉にされていること自体が、この会社が何を重く見ているかを示しています。
自由と制約は、白黒ではなくグラデーション
組織の運用面については、2025年11月2日の記事が扱っています。
スタートアップの「自由な働き方」には魅力と課題の両方がある、というのが前提です。経験の浅いメンバーに過度な自由を渡すと負担になる。逆に制約が多すぎるとモチベーションが下がる。だから自由と制約は白黒ではなくグラデーションで捉え、状況に応じて調整する。新しく入ったメンバーには段階的に裁量を広げ、個々の成長スピードと適性を観察しながらバランスを取る、という運用です。
制約は「枠」であり、自由は「余白」だ、とも書いています。枠がまったくない状態は、判断の遅延と機会損失を生む。創業から8年以上のあいだ組織は変化し続けてきたので、最適解は固定せず探索し続ける、という立場が示されています。
我慢は求めない
もうひとつ、はっきり書かれていることがあります。
Ragateが求めるのは「アグレッシブな姿勢」です。ただし前提はWIN-WINだ、とはっきり置かれています。会社のために我慢してほしい、という意味ではない。自分の成長と会社の成長が同じ方向を向くことを前提に、自ら動く人を評価する、という設計です。
会議で自ら発言する。職務の横展開や縦の深掘りを自分から取りにいく。難度の高いタスクに手を挙げる。ブログや書籍で発信する。LT会で登壇の機会を取りにいく。社内研修を自ら企画する。評価される行動として挙がっているものは、どれも指示されて行うものではありません。
そして、会社がやらないことも並べて示されています。機会は用意するが、参加は推奨しない。直接的にモチベーションを上げる支援はしない。何がアグレッシブかは、1対1の面談で一緒に言語化していく、という進め方です。
「部下」と呼ばないという選択と、モチベーションを上げる支援はしないという宣言は、一見すると温度が違って見えます。ただ、どちらも同じ前提から出ています。メンバーを、指示を受ける側ではなく、自分で判断して動く対等なパートナーとして扱う、という前提です。