【代表インタビュー後編】上場申請を直前で取り下げた真意。「愛嬌」こそが、AI時代に勝つ最強のビジネススキルだ。 | オンサイト株式会社
(前編のあらすじ) EC領域で年間800億円の流通を生み出し、地域創生ビジネスに注力するオンサイト株式会社。代表の岸 謙一は、Web黎明期の熱狂を知るからこそ、泥臭い「現場」と「実行力」にこだわ...
https://www.wantedly.com/companies/on-sight/post_articles/1030936
ECサイト運営代行やコンサルティングを軸に、年間流通総額約800億円の実績を持つ私たちオンサイト株式会社。 戦略を描くだけでなく、オペレーションまでを一気通貫で担う独自のスタイルで、現在は日本の「地域創生」に熱を注いでいます。
そんなオンサイトを率いるのは、リクルート、サイバーエージェント、ライブドア副社長と、Webビジネスのど真ん中を駆け抜けてきた代表、岸 謙一。 輝かしい経歴を持つ彼が、なぜ今あえて「現場」にこだわり、地域創生に挑むのか。インターネット黎明期の熱狂を知るレジェンドが語る、ビジネスの原点と勝機について迫ります。
岸 謙一 / 代表取締役
大手エンターテイメント企業を経て、設立直後のサイバーエージェントに入社し急成長を牽引。その後、リクルートで『R25』立ち上げに関わり、ライブドアでは副社長としてポータルサイト運営等を指揮。2006年にオンサイト株式会社を設立。Web黎明期から一貫して現場に身を置き続ける実務家経営者。趣味はサーフィンで、オンオフの垣根なくビジネスと遊びを追求している。
実は最初からインターネットに詳しかったわけではないんです。新卒ではエンタメ企業に入り、テーマパークを作るような仕事をしていました。でもいわゆる昔ながらの日本企業の風習や慣習は自分には合わず退職し、出会ったのが創業間もないサイバーエージェントでした。
当時のオフィスはまだ社員が5、6人ほど。室内にはNasのアルバム『Illmatic』が流れる異様な空間でした(笑)。藤田社長とは同い年で音楽の趣味も合い、「Nas流してるんですか!」と一気に意気投合したんです。
「同い年で趣味も合う藤田社長が、なぜ1000万円もの大金を用意して起業できたのか?」という衝撃と興味。仮にここで失敗しても「その失敗談で飯が食える」と思えるくらい、本気で挑戦できる場所だと感じて入社を決めました。
そうですね。誰も正解を知らない時代だったので、昼は必死に営業して、夜は図書館に行ってサーバーの仕組みやHTMLの構造を専門書で勉強するという毎日でした。
当時のサイバーエージェントは、まさに「熱狂だけで世界を変えようとしている」場所でした。エンジニア(堀江貴文さん)とビジネスの間に入り、泥臭くサービス作りに没頭したあのがむしゃらな経験が、今の自分の基礎になっています。あの時に肌で感じた「少人数で世界を動かすスピード感と熱狂」こそが、今、私がオンサイトで再現しようとしている組織の原点なんです。
ええ。ただ、社員が200名規模になると、見える景色がガラッと変わっていきます。組織図を整え、役割を分担し、チームですり合わせながら大きな成果を上げていく。それは会社として非常に正しく、素晴らしい進化でした。
ただ、当時の私はその急激な変化に、自分自身の気持ちをうまく適応させることができませんでした。創業期は、何も整っていない中で、職位も担当範囲も関係なく、全員が制限なく本気でことに当たっていました。組織が整っていく中で、あの混沌とした中だからこそ生まれる特有の「熱狂」を、どうしても懐かしく思ってしまう自分がいて。
でも、後になって腹落ちしたんです。私は「1を10にする」仕事よりも、何もない場所から「0を1にする」ことが何より好きで、それこそが自分のキャリアの核となるスキルだったんだ、と。
この時の「規模」と「熱狂」のジレンマ、そして自分自身の適性への気づきが、今のオンサイトの組織感や仕事感に通じる大きな伏線になっています。
当時、改めて組織について学ぼうとリクルートへ転職し、『R25』の立ち上げなどに関わりました。
その後、堀江貴文さんに声をかけていただき、ライブドアへ参画しました。私が担当していたポータルサイト事業は、アクセスが爆発的に増える中で、いかに少ないリソースでサービスを維持・成長させるかという戦いでした。
エンジニアやクリエイターと連携して、ユーザビリティを改善し、新しい機能を実装し、同時に広告収益も最大化する。それを限られた人数で回していく「オペレーションの妙」みたいなものを肌感覚で掴んだのはこの時期ですね。この「戦略だけでなく、泥臭く手を動かして成果を出す」という経験が、オンサイトの「現場主義」の思想の根幹になっています。
きっかけは、ライブドア事件を機に会社を離れることになった時です。望んだわけではありませんが、会社を離れることになりました。事実上のクビですね(笑)。そんな状況の中で、ライブドア時代の縁でUSENの宇野社長などが個人的に声をかけてくださり、仕事を任せてくれたんです。
最初は経営会議に出てアドバイスをするような、いわゆるコンサルティングの仕事が中心だったのですが、そこで気づいたのは「言うのは簡単だけど、やる人がいない」という決定的な課題でした。
はい。「メルマガを配信しましょう」と提案しても、実際に文面を書いて、配信設定をして、効果測定をして改善する…という泥臭い実行部隊がクライアント側にいない。ライブドア時代に私が現場で体得してきた「泥臭く手を動かして成果を出す」ことの重要性を、この時改めて確信したんです。
そこで気づきました。世の中には「戦略」を語る頭のいい人はたくさんいるけれど、それを「実行」して成果に結びつけるところまで泥臭くやる人は驚くほど少ない。そこに大きなビジネスチャンスがあると。
特に今は、AIを使えば「正解」らしき戦略は誰でも出せる時代になりました。つまり、「戦略」自体の価値は暴落しているんです。
その通りです。これからの時代、価値があるのは「正解を出すこと」ではなく、「正解をやり切ること」です。頭のいいエリートたちが敬遠するような泥臭い実行。そこにこそ、AIには真似できない本質的な価値と勝機がある。
だから私たちは、単にアドバイスをするだけでなく、サイトの更新も、物流の管理も、カスタマーサポートも、システム開発も、すべて自分たちのリソースで引き受けます。
私たちが「オンサイト」という社名を掲げている理由も、まさにここにあります。本来「On-sight」とはクライミング用語で「初見で登り切る」という意味ですが、私たちはそこに「現場(Onsite)」という意味も掛け合わせています。 机上の空論ではなく、常に「現場」に身を置き、どんな困難な課題も自らの手で解決までやり切る。戦略と実行を一気通貫でやるからこそ、年間800億円もの流通を生み出せる。これが、私たちが描く勝ち筋なんです。
その通りです。10年ほど前にHR領域からEC領域へ事業展開し、今は多くの地方自治体や企業の支援を行っていますが、地方の現場に行くと「めちゃくちゃ良い商品(原石)」がたくさんあるんです。でも、それを磨いて届けるノウハウが足りない。
しかも、地域創生ビジネスの難しさは「予算がない」、「専門人材が少ない」ことです。「想いはあるし、商品もいい。でもコンサルに払うお金はない」という企業や自治体が山ほどあります。
普通のコンサルなら「予算がないなら受けられません」で終わりですが、私たちはそこを何とかしたい。なぜなら、私たちには800億円を売り上げてきた「実利を作る実行力」があるからです。
例えば、単に今あるものを売るのではなく、商品開発の段階から入ります。「この商品はパッケージをこう変えればECで売れる」「ふるさと納税の返礼品としてこう見せればランキングに入る」といった具体的なチューニングを行うんです。
実際に、私たちが開発・支援した商品が当たりすぎて、ある自治体の税収の半分近くを賄ってしまったという事例も出てきています。予算がなければ、私たちのノウハウと実行力で売上を作ればいい。これくらいのインパクトを地方に起こすことこそが、私たちが掲げるパーパス「テクノロジーで世界を前進させる」ことの証明であり、本当の意味での「ソーシャルグッド」だと考えています。
やっぱり、仕事をしていて一番喜んでくれる、感動してくれるのが、地域の会社さんなんですよ。「予算はないけど、どうしてもオンサイトにお願いしたい」と言ってくれた人たちが、私たちの支援で劇的に変わり、涙を流して喜んでくれる。これはビジネスの醍醐味そのものです。
順調に拡大を続けるオンサイト。しかし、岸代表は上場審査の最終段階で、自ら申請を取り下げるという大きな決断を下しました。後編では、その「上場中止」の真実と、AI時代だからこそ求める「愛嬌」という意外な人材要件について語ります。
▼後編はこちら!