連載「安武社長、本音聞いてもいいですか?」第17弾のテーマは、「AIで生産性が上がるは本当か」です。AIを使えば使うほどいい、という空気が世の中にはあります。でも、本当にそうなのでしょうか。自らAI活用を発信してきた安武さんに、実感と最近の気づきを聞きました。
ー生成AIで生産性が激変したと、発信されていますね。実際どうでしたか?
もともとChatGPTの早期導入者だったんですが、「エンジニアではないから」という制限を感じていました。
それが、Claude Code、v0、NotebookLM、Gensparkといったツールを使うようになって、できることの範囲が変わったんです。AIに詳しくなくていい、コードが書けなくていい。ただ、試し続けることはできる。そのスタンスで、実践的な活用を続けてきました。
ーでも、使えば使うほど良いというわけでもない、と最近気づかれたそうですね。
そうですね。AIで仕事が速くなる、ツールが増えればできることも増える。そう信じていたので、最初は正直ピンとこなかったんです。でも、あるとき「AIブレインフライ」という言葉を日経で見かけたんです。BCGとUC Riversideが1,488人を対象にした調査によると、ツールを2つ、3つと増やすほど生産性は上がるんですが、上昇率は徐々に落ちていって、4つ以上になると逆にスコアが下がり始めるという結果だったんです。これがいわゆる「AIブレインフライ」なのですが、これを、全体の14%、マーケティング職だと26%が経験しているそうです。そこであれっ?て思いました。
ーご自身にも心当たりがあったと。
ありました(笑)。
少し前の自分は、ChatGPT、Gemini、Perplexity、Claude、Gensparkを状況に応じて使い分けていたんです。ツールごとに得意分野があると思っていましたし、実際そうだとも感じていました。でもある日、どのツールで何をやったか、もう覚えていないことに気づいて。思考の断片が複数のサービスに分散していて、今どこにいるのかが分からなくなっていたんです。
そのため、今はほぼClaude Codeに一本化しました。これは、Claude Codeが最高のAIだと思っているからじゃないんです。1つのツールを使い倒す方が、脳の負荷が下がる。それが大きな理由ですね。作業の文脈が1つに集約されるので、UIを切り替える必要もないし、どっちが得意だっけと考えなくていい。そのぶん、思考のリソースを本来の仕事に向けられます。
ー情報を全部追いかけようとして、うまくいかなかったこともありますか?
……はい、ありますね(苦笑)。
AIツールの最新情報を追い続けていた時期があったんです。Xを開くと、毎日誰かがClaude CodeだのGeminiだのCursorだのの話をしていて、それを全部読もうとして、何もできなかった日がありました。情報収集は仕事に必要だと言い訳しながら、実際には何も生み出していなかったんです。気づいたのはその日の夜で、夕方から夜まで情報収集したのに、自分の仕事は一つも進んでいない。でも頭はすごく疲れていた。あれがブレインフライだったんだと、今なら思います。今は新しいツールを見かけても、今の仕事で実際に使えるかどうかだけを判断軸にしています。
ー会社としてAI活用が進む中で、逆に見えてきたリスクはありますか?
うちも、営業の提案資料作成やメールの自動返信、会議録の整理と、かなり積極的にAIを入れてきました。生産性も実際に上がっているし、AIを使いこなせている会社という自負もあったんです。
でも最近、複数のAIが連携して動くマルチエージェントの仕組みで、「誰も悪くないのに情報が外に出た」という事例を聞いて、少しぞっとしました。攻撃されたわけでも、システムが壊れたわけでもない。AIが正しく動いた結果として、情報が漏れるんです。
ーそういう仕組みの導入は、そんなに急速に広がっているんですか?
びっくりするくらいのスピードです。
ガートナーの予測だと、2026年末までに企業アプリケーションの40%に専用エージェントが組み込まれるらしいんです。今は5%未満なので、約1年で8倍になる計算ですよね。他の調査会社の数字を見ても、似たような右肩上がりが出ています。それくらいのスピードで広がっているのに、セキュリティの設計が追いついていない会社が多い。そこが正直、怖いところです。
ーなぜAIは正しく動いているのに情報が漏れるんですか?
エージェント間で情報を渡すとき、どこまでが共有していい範囲かが曖昧なまま設計されていることが多いからです。
人間が業務をするときは、この情報は社外に出してはいけないという感覚的な判断が自然に働きますよね。でもAIにはその感覚がない。指示された通りに動くだけなんです。データを分析して次に渡すという指示が、意図せず機密情報を運んでしまう。これを聞いたとき、うちのAI設計は大丈夫か!? と思いましたね。
ー結局のところ「AIを使えば生産性は上がる」というのは本当なんでしょうか?
いろんなAIを使うというより、絞れって話だと思っています。
今の仕事に使えるかどうかだけを判断軸に、ツールの数を意識的に減らす。それが生産性の面で、今の自分が出した答えです。
AIを使って生産性を上げるためのポイントは4つあると思っていて。まず、導入前にセキュリティ設計を必須にすること。あとはエージェント間のデータ権限を絞ることと、情報フローの監査ログを残すこと。それと、正しく動いているのに漏れるというこのリスクを、経営会議の議題にすることですね。
使う範囲が広がるほど設計もちゃんとしないといけない。これは生産性とは別の話ですが、両方セットで考えないと、あとで痛い目に遭うと思っています。AIを使いこなせる会社とそうでない会社の差は、スピードじゃなくて設計力。そこに尽きますね。
安武さん、今回もありがとうございました。次回のテーマもお楽しみに。
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