Wantedlyでプロダクトマネージャー(PdM)をしている吉野雄大です。
普段、PdMの仕事をしていて、企画書、要件定義、ロードマップ、ステークホルダーへの説明資料など、「資料作成」の連続です。特に最近では、戦略の策定といった上流の仕事が増え、膨大な情報の断片を繋ぎ合わせ、論理的な一貫性を持った「資料」を素早く作る必要があります。ありがたいことに、「資料がわかりやすい」「意思決定がスムーズに進む」と評価をいただく機会が増えています。その裏側には生成AIをプロセスに組み込んだワークフローがあります。
Wantedlyでは、ChatGPTやPerplexity、Figmaなど様々なAIツールを会社として導入しており、こうした環境も大きな後押しになっています。今回は、私が戦略を練り上げる際にどのように生成AIを活用しているのか公開します。
利用しているツール
戦略策定は、リサーチに始まり、抽象的な考えを言語化し、具体的な形にしていき、最終的にはスライドとしてアウトプットします。この一連の流れを、各ツールを使い分けながら進めています。単一のツールで完結させるのではなく、「発散」「深掘り・検証」「構造化」「具体化」「スライド作成」の役割を明確に分担させているのがポイントです。
1. 【発散】ChatGPTで「アイディアを言語化する」
最初の一歩は、デスクトップ版のChatGPTを利用しての対話です。
思考の「外部化」と「壁打ち」
戦略の初期段階では、非常に抽象度の高い問いに向き合います。数値を分析するにしても仮説なしでは、どの数値を見るべきか判断がつきません。こうした曖昧な思考を言語化するために、ChatGPTでの対話形式が有効です。整った文章を書こうと構える必要がなく、まるで人間と話しているかのように対話を重ねられます。(CursorのAIでも対話はできますが、発散フェーズではチャットに特化したUIのほうが私には合っていました)
不完全なアイディアを投げかけても、AIからのレスポンスをきっかけにさらに思考が深まっていく。この「会話としての心地よいリズム」があるからこそ、脳内のモヤモヤを自然に吐き出し、解像度を高めることができます。
ちなみに、パーソナライズの設定ではこのような性格にしています。
【役割】
- 私はPdMの意思決定と仮説検証を支援する仕事のパートナーです。
- ユーザーの思考の質と意思決定の精度を高めることを最優先します。
【基本姿勢】
- 忖度せず、率直かつストレートに意見を述べます。
- オブラートに包んだ表現や、安心させるだけの回答はしません。
- 感情論や願望ではなく、事実・構造・論理を重視します。
- 客観性を保ち、常に建設的な議論を行います。
【思考スタイル】
- 結論を最初に述べ、その後に理由・根拠・背景を説明します。
- 仮説・推論・判断に対して、前提条件と思考プロセスを明示します。
- 暗黙の前提や論理の飛躍があれば必ず指摘します。
- 不確実な点や情報不足がある場合は、推測せず「わからない」と明言します。
- 常に「本当にそれが最適か」「他に選択肢はないか」を疑います。
【議論・フィードバック】
- ユーザーの意見や判断に問題があると考えた場合、迷わず否定します。
- 否定の対象は人ではなく「前提・論理・判断・構造」です。
- 問題点の指摘だけでなく、現実的な代替案や選択肢を提示します。
- 複数案がある場合は、トレードオフを整理して示します。
【ビジネス・プロダクト観点】
- プロダクトマネジメント・事業開発・グロースの文脈で回答します。
- 実務に適した専門用語やフレームワークを適切に使用します。
- 理想論ではなく、制約下での最適解を考えます。
- ユーザー価値・事業インパクト・実行可能性を重視します。
【禁止事項】
- 根拠のない肯定や迎合的な回答
- 思考停止を助長する表現(「良いと思います」「その通りです」など)
- 前提を確認せずに結論を出すこと双方向の連携が生む「思考と整形のループ」
デスクトップ版アプリを利用する最大の利点は、ChatGPTがCursor上で開いているMarkdownファイルを直接読み取ったり、書き込んだりできる点にあります。これにより、ChatGPTからCursorへ一方的に書き出すだけでなく、Cursorで構造化したドキュメントを再びChatGPTに読み込ませ、「この部分の論理をさらに深掘りして」と会話を戻すことが可能です。
2. 【深掘り・検証】事実・データで材料を揃える
ChatGPTで方向性が見えたら、次は多角的な検証によって戦略の材料を集めます。
- Perplexity, Gemini
- 競合動向や市場成長率をリサーチし、最新のソースをCursorへ蓄積していきます。
- Looker ⇔ NotebookLM
- ビジネス指標と社内仕様書を照らし合わせます。Google Driveのデスクトップ版アプリで作業ファイルを自動同期させているため、NotebookLM側でも常に最新の思考をソースとして読み込み、「これまでの文脈に沿ったシナリオ」を導き出せます。
3. 【構造化】アイディアを整形し、「背骨」を作る
集めた材料をCursorに移し、「背骨」となる論理構造を構築します。実際には、この構造化と前の発散、検証フェーズを何度も往復します。発散による新しい発見や飛躍を受けて論理構造を見直し、構造化で明らかになった論理の穴や疑問を検証で補強し、再び発散へ戻る——このループを繰り返すことで、戦略の完成度が高まっていきます。
Cursorで論理構造を組み上げる
私はObsidianのVault内で、.cursor と 10_Projects というフォルダ構成を決めて運用しています。プロジェクトごとに00_Contextに前提・背景・調査結果などの「文脈」を、99_Memoにメモや思考の断片を入れ、AIが参照しやすい状態でデータを置いています。フォルダ構成のイメージは以下のとおりです。
_obsidian/
├── .cursor/
│ ├── commands/ # 再利用するプロンプト
│ ├── skills/ # AIに付与する思考の型・役割
│ └── rules/ # Vault全体で効くルール
└── 10_Projects/
└── yyyy-mm_プロジェクト名/
├── .cursor/
│ └── rules/ # プロジェクト固有のルール
├── AGENTS.md # このプロジェクトでAIに与える役割・指示
├── 00_Context/ # 前提・背景・調査結果など「文脈」を置く
├── 20_Draft/ # 下書き
├── 30_Slides/ # スライド
└── 99_Memo/ # メモ・思考の断片資料の論理的な「一貫性」は不可欠です。さらに多くのリサーチや検討した材料が自然な流れで結びついている必要があります。Cursor上でAIに手軽に「論理の飛躍がある箇所を指摘して」と依頼したり、複数の調査結果や異なる視点を組み合わせて整理し、全体をひとつのストーリーとして整合性を持たせていきます。
最近では、Cursorの skills や commands といった機能を活用して、よく使うプロンプトを再利用可能な形で組み込んでいます。たとえば、「アイディアの穴を /red-team で批判的に検証し、論理の飛躍やデータ不足を炙り出して」「この画面要素を /figma-screen-sync で読み込んで」など、AI×エディタならではのワークスタイルを実践しています。
Miroで空間的に可視化する
また、テキストだけでは見えにくい「施策同士の距離感」や「体験の全体像」は、Miroのキャンバスに絵として配置し直します。Cursor上で作成したmermaid記法をMiro AIに投げて可視化したり、調査したデータなどを貼り付けたり、構造を整理しています。こうして空間的に整理することで、論理構造の隙間や矛盾が浮かび上がってきます。
4. 【具体化】手触り感のあるプロトタイピング
論理が検証されたら、次は関係者がイメージを共有できる形に具体化します。
FigmaのAI機能であるFigma Makeを活用しています。Cursorで作ったMarkdownを元に、プロトタイプを即座に生成します。この際に、デザイナーが作成した既存のファイルを読み込ませることで、デザインシステムを維持したまま質の高いプロトタイプを構築できます。あわせて、Cursor には Figma MCP を組み込んでおり、Figma 上のデザインの文脈やスクリーンショットをそのまま参照できます。これを Markdown やプロンプトに反映させることで、Figma Make に渡す指示の精度を高めています。施策の「手触り感」を実際のデザイン品質で共有できるため、意思決定のスピードが格段に向上します。
5. 【アウトプット】スライドを作る
合意形成のための最終アウトプットは、スライド作成です。もちろん、テキストドキュメントでも伝えられます。しかし、限られた時間で合意を得るには、可視化されたスライドのほうが圧倒的に伝わりやすいと感じています。ここでもAIが「構成」と「表現」をサポートしてくれます。
NotebookLMでスライドのラフ案を作る
Cursorで作ってきたロジックをNotebookLMに流し込み、「スライド構成案を作って」と指示を出します。論理構成が完璧な状態からスタートするため、説得力の高いラフ案が瞬時に立ち上がります。
Geminiで「見せ方」をデザインする
「ここは重要だけど、言葉だけだと伝わりにくいな」というスライドについては、Gemini(Nano Banana)を使って相談します。図解表現や見やすいレイアウトのアイディアを引き出し、「この3つの要素を比較するのに最適な図解は?」といった問いかけを通じて、直感的に伝わるビジュアルへとブラッシュアップしていきます。
最終的には手で作る
生成AIによって作業効率は大きく向上しますが、最終的に「相手にどう伝えるか」「どこを強調すべきか」といった細かなチューニングは、やはり自分の手で仕上げることが重要だと感じています。伝わりやすさや説得力を高めるためには、人が手を動かしてアウトプットを磨き上げる工程が欠かせないと考えています。
まとめ
まとめると私は以下のようなフローで進行をしています。
- ChatGPTで、思考を言葉にして発散させる
- Perplexity / NotebookLMで、多角的な検証を行う
- Cursor / Miroで、ブレない論理構造を作る
- Figmaで、具体像を可視化する
- NotebookLM / Geminiで、伝わるスライドに落とし込む
- 最終的には自分の手で仕上げる
AIに肉付けや検証、見せ方のアイディアを任せることで、「本当にこの戦略で、社会を、プロダクトを良くできるのか?」という、最も重く、最もやりがいのある問いに集中できるようになります。
「資料を作ること」は本来手段に過ぎませんが、組織で成果を生むには、認識を確実に同期させていく工程が不可欠です。質の高い思考を素早くドキュメント化できるシステムは、チームを正しい方向へ導くための、PdMにとって最大の武器になると感じています。