こんにちは、ウォンテッドリー株式会社 執行役員 VPoE の要(@nory_kaname)です。
いまやどの企業・組織もAI活用を推進する時代となりました。当社においても数年前から ChatGPT や Devin など各種AIツールを開発用途で導入していましたが、この1年の進化は非常に凄まじいものがあります。いまやAIは、エンジニアが開発のためだけに用いるのではなく、全社のあらゆる職種が使う時代です。
そこで今回は、当社の FY26(2025年9月〜2026年8月)における全社AI活用の取り組み について紹介します。全社推進を担う AI Ops Squad ならびに Infra Squad は、執行役員CTOの安間が自ら率いて推進しています。
目次
はじめに
生成AIをはじめとするAI技術の急速な進化は、単なる一時のトレンドではなく、社会やビジネス構造そのものを塗り替える「時代の変革」となっています。いまや、AIを組織の日常にいかに組み込み、プロダクトや業務の価値へ昇華させられるかが、今後の企業の生き残りを左右する分岐点となっています。
ウォンテッドリーでは、FY26を「AI活用を一部の実験から全社の当たり前に引き上げる年」とするべく取り組んできました。一部のアーリーアダプターやエンジニアだけが高度なツールを使いこなすフェーズを終え、職種や部門を問わず全員がAIを業務のパートナーとして使いこなす組織を目指しています。
多くの企業・組織が同じように取り組まれていると思います。わたしたちがツールを全社に普及させ、安全にスケールさせるために構築した「組織体制・制度ルール・活用文化・コスト管理」を含めた“仕組みとしてのAI活用”について紹介します。
なぜ全社でAI活用に取り組むのか
私たちがAI活用を推進する目的は、エンジニアの開発効率化だけにとどまりません。会社としての生産性を最大化するため、セールス、マーケティング、カスタマーサクセス、コーポレート部門に至るまで、「全社普及」を推し進めることにしました。この「全社での生産性最大化」に向け、私たちは「積極活用を推進しつつ、セキュリティ・コスト・生産性を高いレベルでバランスさせる」という考え方を軸に置きました。
この全社普及と生産性最大化を強力に推し進める実行チームとして、新たに「AI Ops Squad」というチームを立ち上げました。AI Ops Squadが「安全に使えるツールや共通基盤」の選定・整備を担当し、その安全な環境のもとで「どのツールを使い、どの業務をどう改善するか」という意思決定は、メンバー個人の自律に委ねています。
ガバナンスと聞くと「利用を制限・管理するもの」と捉えられがちですが、ウォンテッドリーにおけるガバナンスは正反対の役割を持ちます。ガードレール(安全な範囲)を明確に作ることで、全社員が迷わず安心して挑戦できるようにし、結果としてチームの自律性を最大化するための設計として機能させています。
推進する組織体制をつくる
便利なAIツールを全社に導入するだけでは、組織的な活用は定着しません。そこでウォンテッドリーではツール導入に先立ち、「誰がどこに責任を持つか」という役割分担と推進体制を整えました。全社普及のドライバーとなる AI Ops Squad を CTO自らが率いて各領域と連携する仕組みを作ることで、特定の個人の熱量に依存せず、持続的に回り続ける組織を目指しています。
全社AI推進の軸となる2つのSquad
全社でのAI推進を支える軸として、主に「AI Ops Squad」と「Infra Squad」の2つの実働チームが連携しています。両者の役割は明確に分かれている部分もあれば、実務上で領域がオーバーラップすることもあるため、常に密な協業体制をとっています。
「AI Ops Squad」は、ガバナンス策定をはじめ、入力してよい情報の範囲定義やツール全体の方針・運用ルールの策定、ツール選定、利用申請・審査運用の実務を一手に担う実働チームです。一方の「Infra Squad」は、全社的なコスト監視・コントロール、および実際に構築したWebアプリケーションやサーバーの運用管理を担当し、技術基盤を下支えしています。
AI Ops Squadによる「判断の再現性」を担保する仕組み
AI Ops Squadの実務において特徴的なのは、審査フローの明文化と判断基準の仕組み化です。
技術的なセキュリティや仕様チェックから、入力可能なデータの範囲確認、必要に応じた法務相談までのパスをあらかじめ明確化。さらに承認プロセスと判断基準を標準化することで、審査担当者による判断のブレをなくしています。「使いたい人が迷わず申請でき、承認側もゼロから判断を考えない」状態をつくることで、申請処理のボトルネックを排除し、各チームへ迅速なツール提供を実現しています。
Infra Squadによるコスト・基盤管理
Infra Squadは、全社のコストモニタリングとインフラセキュリティの境界線を管轄しています。社内で実際に構築・利用されるWebアプリケーションやサーバー群の運用管理を一手に担うことで、全社的なAI利用における安全で安定したシステム基盤を構築し、持続可能な活用を下支えしています。
安心して使える「制度・ルール」を整える
ガバナンスと自律を両立させるためには、単に申請窓口があるだけでなく、「何をどのように使ってよいか」の基準を全社に示しておく必要があります。ウォンテッドリーでは、AI Ops Squadが中心となり、審査観点の整理と情報の取り扱いルールの明文化を行いました。
審査における3つのチェック観点
申請されたツールやサービスに対しては、AI Ops Squadが主に「技術・セキュリティ検証」「入力可能な情報の範囲定義」「利用規約・法務相談」の3つの観点からリスクと安全性を多角的に検証しています。
まず技術面では、外部へのデータ漏洩リスクやAPIの暗号化仕様、社内認証基盤との安全な連携可否といったセキュリティ要件を細かく確認。そのうえで、社内データ(機密情報・個人情報・ソースコード等)の重要度レベルに応じ、「どのツールにどこまでの情報を入力してよいか」という境界線を明確に規定しています。さらに、入力データの二次利用(モデル学習への利用の有無)や生成物の権利帰属といった利用規約の精査を行い、判断に迷う懸念点が生じた場合でも迅速に法務担当へ連携できる確実な相談パスを整えています。
情報取り扱い範囲の明文化
どれだけ優れたAIツールであっても、「どこまでの社内情報を入力してよいか」という基準が曖昧なままでは、メンバーはリスクを恐れて活用に二の足を踏んでしまいます。そこでウォンテッドリーでは、ツールの公開とあわせて情報取り扱い範囲をひと目で把握できる運用シートを作成・公開しました。
具体的には、社内情報を「公開情報」「機密情報」「個人情報」の3つに分類し、各ツールに対して「入力可 / 条件付き可 / 不可」を判定したマトリクス表を提示。AIを使うメンバーが個別の判断に迷うことなく、自律的にAIを活用した業務改善へ安心して挑戦できる環境を整えています。
スピードを落とさない「ガードレール」としての運用
このように、「このツールにはこのデータまでなら入力してOK」という明確な基準をあらかじめ提示しておくことで、個別の利用可否や判断に悩む時間を大幅に削減しています。
ガバナンスを「利用を制限・監視するもの」ではなく「安全に走るためのガードレール」として機能させることで、スピードを落とすことなく、全社で自律的にAI活用へ挑戦できる組織を実現しています。
AI活用レベルを軸に、全社へ広げる(可視化と普及)
ルールというガードレールを作った次のステップは、全社への普及と活用の底上げです。単に「AIを使いましょう」と呼びかけるのではなく、組織全体の共通指標として制度化・可視化を行いました。(詳細は別ストーリーにて紹介する予定です)
「Wantedly AIレベル制度」による共通目標の設定
なにをもって「AIが使えている状態」とするのかを段階的に定義した「Wantedly AIレベル制度」を策定しました。
制度立ち上げにあたり、最初に掲げたゴールは「全社員がレベル2に到達すること」です。一部のアーリーアダプターだけが高度に使いこなす状態ではなく、まずは全員が最低ラインの活用レベルに乗る「普及の底上げ」を狙いました。全社で同じ共通目標を持つことで、学習や普及施策の狙いがブレない構造を作っています。
レベルを軸とした普及施策の接続
定義したAIレベルを基準に、単発のイベントに終わらせず、学習や可視化といった複数の施策を相互に接続して組織的な改善サイクルを回しています。
具体的には、全社巻き込み型の「AI Hackathon」を開催して全社の活用意欲と熱量を一気に醸成。その熱量を逃さずに、全員のレベル2到達に向けた底上げやその先の高度化を狙う「AIレベル別 社内勉強会」へと接続し、実践的なスキル習得を支援しています。さらに「自己評価サーベイ」を定期的に実施して各自の現在地を可視化することで、どこにボトルネックがあるかをデータで把握し、次なる教育やサポート施策へタイムリーに還元するループを確立しています。
全部門への広がりと「使う」から「つくるところ」へ
この普及施策により、AI活用は開発組織にとどまらず全社へ広がっています。
Sales や Marketing をはじめとする Biz Branch、および Corporate Branch においてもClaude などの汎用ツールが日常的に積極活用されています。さらに現在では、エンジニア以外のメンバーが業務課題を解決するためにAIを活用して自らアプリケーションを構築する動きも生まれており、単に「ツールを使う」領域を超えて「自らつくる」フェーズへの変化が起きています。
(上記は、Wantedly Designer’s Loungeの登壇資料より抜粋:AI活用レベルと達成度)
コストを制御しながらスケールさせる
全社でAI活用が爆発的に広がる際、避けて通れないのがコストの問題です。ウォンテッドリーではInfra Squadが中心となり、管理と活用のバランスを取ったコスト運用を行っています。
計測と可視化の仕組み
利用状況のモニタリングとして、利用者・ツール・費用・トークン消費量別のデータを可視化し、モニタリングできる共有基盤を構築しました。この計測と数字の集約(中央集権的な役割)は、AI OpsおよびInfra Squadが担っています。
「使いすぎを止める」ではなく「賢く投資する」スタンスであること
ウォンテッドリーにおけるコスト管理のスタンスは、「コスト削減のために一律で利用制限をかける」ことではありません。トークン使用量の増加は“悪”ではなく、むしろ「全社で活用が進んでいる健全な兆し」と捉えています。
ですが、むやみにトークン使用量を増加することを良しともしていません。常に使い方の改善サイクルを回すことを前提にしています。
モニタリングの本来の目的は、監視して止めるためではなく「どこに投資すべきか」と「どこに無駄があるか」を見極めるためです。タスクの難易度に応じた適切なモデルの使い分けや、前提ドキュメント(コンテキスト)の共通化といった「賢く使う工夫」を重ねることで、成果(アウトカム)を出しながらトークン消費量とコストを適切にコントロールする構造を作っています。
見えてきた課題:「普及」の次は「適切な活用」
FY26の一連の取り組みを通じ、AIに触れる人や日常的に使う人を増やす「普及(量)」のフェーズは着実に達成できました。しかし全社に浸透したからこそ、次なる壁として「適切な活用(質)」という課題が見えてきています。
現状の課題感
AIを「使ってはいるものの、それが本当に業務成果や生産性向上に結びついているか」という検証はこれからであり、ツールの選定や使いどころが個人任せになることでアウトプットやアウトカムに差が出始めています。また、全社員の底上げを果たした次のステップとしてAIレベルの上位層をいかに増やしていくかや、情報取り扱いルールの完全な浸透・定着といった点も、引き続き向き合うべきテーマとして残っています。
「質」を上げるための具体的なアプローチ
こうした課題に対し、私たちは「1トークンあたりの成果(投資対効果)」を高めるアプローチへと舵を切りつつあります。
繰り返し行う業務作業をプロンプトやスクリプトとして構造化する「Skill化」を進め、毎回のやり取りを効率化すること。そして、AIが高精度に動作するための土台となる前提ドキュメント(コンテキスト)の整備や、タスク難易度に応じた適切なモデル使い分けを推奨し、無駄な高コスト消費を防いでいます。さらに、トークン使用量が少なすぎる層を「活用しきれていないサイン」と捉え、レベル別勉強会などを通じた個別のオンボーディング支援に取り組んでいます。
具体的なアプローチや Tips は、別途ストーリーにて紹介します。
チーム主導の解釈とマネージャーの役割
中央(AI Ops / Infra)はあくまで「計測と数字の提示」までを担当し、モニタリングの数字を見て「本当に効率的か・アウトカムにつながっているか」を判断し打ち手を決めるのは各チームに委ねています。これも「安全な土俵 × 各チームの自律」の考え方に基づくものです。とりわけマネージャーやリーダー層においては、単に自分がAIを使うだけでなく、「チーム全体の活用を設計し、投資対効果を判断してアウトカムに繋げること」が求められる重要な能力になりつつあります。
まとめ・これから
FY26においてウォンテッドリーは、「推進体制(AI Ops / Infra)」「制度・ルール」「活用レベルの可視化」「コスト管理基盤」という、全社でAIを安全かつ持続的に使い続けるための仕組みを作りました
今後は、作り上げた「普及(量)」の上に、「適切な活用(質)」を乗せていくフェーズに入ります。全社でのAI活用をさらに深化させるとともに、AIレベルの高度化や優良事例の横展開を強化していきます。単なる業務効率化にとどまらず、AIを真のパートナーとしてビジネスやプロダクトの価値を最大化できるよう、組織としての挑戦を続けていきます。