ウォンテッドリー CTOの安間です。
ChatGPTの登場以来、生成AIの進化は留まるところを知りません。Cursor、Devinといったツールが、私たちの開発現場に急速に浸透しつつあります。世界市場で2023~2025年の年平均成長率は56%で、2028年には最大で1700億ドル(約24兆円)に達すると予想されます(AIビジネス 事業創出・参入戦略2025-2028)。
このような変化の中で、多くのエンジニアは「AIによって身につけなければならないスキルは変わるのか?」「今後エンジニアの職業ってどうなるんだろうか?」と考えているのではないでしょうか。
この記事は、そんな期待と不安が入り混じる想いを抱える、エンジニアの皆さんに向けて書いています。
結論から言えば、生成AIはエンジニアの仕事を奪うのではなく、エンジニアをより本質的な仕事へと解放してくれるパートナーです。ただし、そのためには私たち自身が注力するポイントをアップデートしていく必要があります。
生成AIの発展を踏まえ、これからのエンジニアに求められる5つの重要な要素について、私の考えをお話しします。この記事を読み終える頃には、皆さんが明日から何を意識し、何を学ぶべきかの指針が見えているはずです。
目次
1. 本質の理解と意思決定
2. タスクの並列処理
3. 思考を現実に変える表現力・言語化能力
4. 生成AIの時代だからこそ差がでるソフトスキル
5. チームを導く気持ち
まとめ
1. 本質の理解と意思決定
コンピューターサイエンスの歴史を振り返ると、イノベーションは常に「抽象化」の進化と共にありました。機械語に近いアセンブラから始まり、C言語やC++、そして現代のPython、Go、Rust、TypeScriptに至るまで、様々なプログラミング言語が登場しました。これらの進化の歴史は、エンジニアが「いかにして(How)優れたコードを書くか」「いかにして堅牢なシステムを構築するか」という問いに、より効率的、かつ高度に応えるための軌跡だったと言えます。
もちろん、これまでも「上流工程」や「要件定義」といったフェーズにおいて、「何を(What)作るべきか」「なぜ(Why)それを作るのか」が重要だったことは言うまでもありません。しかし、生成AIが「How」の大部分をサポートしてくれるようになり、その価値の比重は決定的に変わりました。
生成AIは、課題解決の「How」を劇的に効率化してくれる強力なパートナーです。しかし、「どの課題を解くべきか」という最も重要で根源的な問いに答えることはできません。本質を理解して意思決定することこそが、これからのエンジニアが担うべき中核的な役割であり、価値の源泉となるのです。
そしてこの考え方は、私たちウォンテッドリーがずっと大切にしてきた、「顧客の体験を起点に逆算して考える」という思想そのものです。
2. タスクの並列処理
生成AIを単なるツールとして使うのではなく、「壁打ち相手」であり「タスク実行者」だと考えています。
これからのエンジニアは、頭の中で考えたアイデアを、すぐに生成AIに投げて具体的な調査やアイデアのブラッシュアップやMVP開発を並行して進めていきます。頭の中で考えた抽象的なアイデアを、すぐにAIに投げて具体的なコードの断片やアーキテクチャの雛形として出力させ、それを叩き台にさらに思考を深める、というサイクルを高速に回すことになります。開発チームでやっていたタスクを、一人のエンジニア+生成AI群で対応することになります。
こうなると、プロジェクトの進め方が重視され、タスクが並行で進むことになるため、思考の並列化が必要となります。常に仕事の途中の割り込みタスクや非同期での連絡がくるようなことが普通となります。リーダーやマネージャーの方ならわかると思いますが、元々チームメンバーに依頼していたことを受け取るのと近しい感覚です。違いがあるとすれば、AIはいつでも客観的で厳しいフィードバックを待っている、ということくらいでしょうか。
ウォンテッドリーでも、セキュリティを担保した上で最新生成AI技術をすぐに試せる仕組みづくりに力を入れています。生成AI活用のためのチームを作って、実際にどのような場面で使えるのか、社内での活用を促進しています。これによって、生産性を飛躍的に向上させることができています。
3. 思考を現実に変える表現力・言語化能力
生成AIとの「タスクの並列処理」を効果的に行う上で、重要になるのが「表現力・言語化能力」です。
生成AIは、入力された指示(プロンプト)以上のことはできません。アウトプットの質は、インプットの質に依存します。つまり、エンジニアが実現したいこと、解決したい課題、考えているアイデアを、いかに的確かつ曖昧さなく言語化できるかが、エンジニアの能力として今まで以上に求められるようになっています。
これは、チーム内でのコミュニケーションにおいても同様です。心理的安全性の高いチームでは、健全な意見の対立、すなわち「建設的な意見の不一致」が奨励されます。自分のアイデアを明確に言語化して伝え、相手の意見を正確に理解し、人格ではなくアイデアそのものについて議論を深める。このプロセスは、生成AIに的確な指示を出すプロセスと本質的に同じです。
特に以下の3点に着目することで、伝わりやすくなります。
- 「語彙力」
- 「具体化力」
- 「伝達力」
自分の考えを構造化し、言葉で表現するトレーニングは、対生成AI、対人間の両面において、これからのエンジニアの市場価値を大きく左右するでしょう。対生成AIの場合は指摘は厳しく厳格にするといいですし、対人間の場合には相手のことを考えながらのコミュニケーションにするといったカスタマイズも必須スキルであると言えます。決して、対人間では、Devinくんに頼むように、「〜〜して」と、ぶっきらぼうに頼んでしまわないように。
4. 生成AIの時代だからこそ差がでるソフトスキル
コード生成や情報収集といったタスクをAIが担うようになると、相対的に価値が高まるのが、人間ならではの「ソフトスキル」です。
特に、自分と他者の感情を理解し、コントロールする能力である「EQ(心理的知能)」の重要性は増すばかりです。ある研究では、私たちの意思決定の実に90%以上が感情に影響されると報告されています(Emotion vs. Reason: Rethinking Decision-Making)。
高いパフォーマンスを発揮するチームは、例外なくEQが高く、心理的安全性が確保されています。心理的安全性が高いチームとは、「誤りやミスを学習の機会と捉え、リスクを冒して失敗することをいとわない」とメンバーが信じられるチームです。
このような環境があって初めて、エンジニアは生成AIという未知のツールを使った新しい挑戦に踏み出すことができます。リーダーやマネージャーは、メンバーが安心して「賢い失敗」をできる土壌を育むことに、これまで以上に注力すべきです。正しいプロセスでの失敗は賞賛される失敗ですが、正しくないプロセスでの失敗はただの怠慢です。リーダーやマネージャーは表面上の内容に惑わされずにプロセスを見て、メンバーを評価していくべきでしょう。
5. チームを導く気持ち
ここまで4つの要素を挙げてきましたが、それらの中心にあるのが、「チームを導く気持ち」、すなわちリーダーシップです。ここでのリーダーシップはフォロワーシップも含みます。
生成AI時代におけるリーダーシップとは、単に技術的な正解を示すことではありません。メンバー一人ひとりに敬意を持って接し、共感し、彼らの成功にビジョンと責任を持つことです。そして、チーム全体が同じ目標に向かって進めるよう、言語化能力を駆使して方向性を示し、心理的安全性の高い環境を維持することです。
たとえば、リリースした機能がユーザーから利用されていない現状があったとします。その現状を真摯に受け止め、悔しさという感情を次のイノベーションの原動力にしていきます。この熱量を個人に留めるだけでなく、チーム全体へ、そして会社全体へと波及させていく。そのようなリーダーやマネージャーをフォローして、更に広げていく。これこそが生成AI時代に必要な資質であると考えています。
まとめ
この記事では、生成AI時代にエンジニアが価値を高め続けるために必要な5つの条件についてお話ししました。
生成AIの登場は、エンジニアにとって大きなチャンスです。コーディングという作業から解放され、私たちはより創造的で、より本質的な課題解決に時間を使うことができます。これらのスキルを磨くことで、いわゆる「ソフトウェアエンジニア」は、より事業や製品の成功にコミットする「プロダクトエンジニア」へと、その役割を進化させていくでしょう。そして、継続的にイノベーションを起こし、社会に大きな価値をもたらす先駆者であり続けられると、私は信じています。
ウォンテッドリーでは、この記事で語ったような価値観を共有し、共に未来の「はたらく」をアップデートしていく仲間を募集しています。生成AI時代の新しいエンジニアリングに挑戦したい方、ぜひ一度お話ししませんか?ご応募を心からお待ちしています。