「やりたい」ではなく「やるべき」で動く組織に。サステナブルを地で行く企業の覚悟と守りたい世界|#6 Marketing-Robotics株式会社 代表 田中 亮大氏

国内のビジネスにおける課題として、国内企業数の99%を占める中小企業が、人手不足や経営者の高齢化などで、経営が苦しくなっている点が挙げられます。また、社会的にはSDGsへの貢献をはじめとした、サステナブルな企業経営も求められており、中小企業が担う社会的責任も従来と比べて徐々に大きくなっているのです。

こうした中小企業をサポートするために、テクノロジーの活用などを支援する企業も現れてきています。近年、テレビCMの放送などで認知が高まっているMA(マーケティングオートメーション)ツール。その中でも注目を浴びているのが、全国の老舗企業を中心に自社MAツールの開発と運用支援を提供しているMarketing-Robotics株式会社です。

注目のスタートアップの採用、組織戦略にフォーカスする『NEXT UNICORN RECRUITING』企画。今回は、同社の代表取締役である田中氏に事業への想いや組織運営において心がけている点などを伺いました。

Marketing-Robotics株式会社
代表取締役
田中 亮大 氏

新卒で外資系製薬会社の営業職を経験し、個人コンサルタントとして独立。取締役として日本最大の経営者動画メディアの全国展開を指揮し2年半で5000社以上を開拓した。その後、ウェブ会議システムの開発会社の設立をはじめ、複数社の創業/経営に携わる。2016年にMarketing-Robotics社(旧タクセル社)を設立。現在は約6億円の資金調達を実施しMA(マーケティングオートメーション)ツール「マーケロボ」を開発し、販売力向上支援を行っている。
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SDGsが求められる社会。本当にサステナブルな企業とは

Marketing-Robotics

ーーMarketing-Robotics様は、2019年に約5億円の資金調達をしたニュースがまだ記憶に新しいです。当時からMAツールを扱っていましたが、現在も主な事業はMAツールの開発と販売なのでしょうか。

もちろん、弊社はマーケロボというMAツールをSaaSとして開発していますが、主な事業はお客様と伴走しながら販売力強化の支援をすることです。業界ではプロフェッショナルサービスと呼ばれている、ツール販売以外のコンサルティングなどのサービスを事業の大黒柱としています。マーケロボも価値のあるMAツールとして自信をもって提供しているのですが、弊社の核となる価値は、お客様の販売力を強化するパートナーであることだと考えています。

ーーMAツールは、販売力強化を支援するために活用する手段のひとつなのですね。具体的には、どのような企業の支援をされているのでしょうか。

弊社が主に支援させていただいている企業は、いわゆる中小企業です。ただ、社内では中小企業という呼び方はせず、一定の基準を設けて「サステナブルカンパニー」と表現しています。中小企業という呼称は、あくまでも大企業と比較したり、市場として捉えたりする際に使われる呼称だと考えているんです。ただ、多くの中小企業が長く経営を続けてきた実績は、本当に価値があると思っています。現在、SDGsへの貢献が会社経営でも強く求められており、企業のサステナブルな姿勢や取り組みが重視されています。日本には100年以上続く企業が30,000社ほどあり、その数は世界中の創業100年以上企業の約4割に相当する。つまり、日本の企業は世界でも類を見ないほどサステナブルな会社経営をしていると言えます。

弊社では、事業が50年以上かつ事業承継がなされている2代目や3代目社長の企業をサステナブルカンパニーと呼んでいます。私はこうした企業が可能な限り事業を続けられるように支援していくべきだと考えているんです。

ーーこうしたサステナブルカンパニーの価値や魅力に気づかれたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

以前、私は中小企業の社長インタビューを掲載する動画メディアの取締役をしており、その際に6,000社ほどのインタビューにかかわった経験がサステナブルカンパニーの価値に気がつくきっかけになりましたね。

とくに2代目や3代目社長の話は印象的で、地方の企業を社長として引き継ぐには、相当な覚悟が必要になります。創業者は半ば自分の生きがいとして事業を行う方が多いですが、2代目や3代目はそうではありません。創業者の想いだけではなく、社員やその家族の生活、取引先との関係まで、すべての責任を社長として引き継ぐんです。私は、こうした重責を背負いながら働く後継社長たちを、まさに「人間国宝」だと本当に考えています。

ーー多くのサステナブルカンパニーの実情を直接知る機会があったからこそ、今の事業でもMAツールを販売するだけではなく、しっかりと寄り添って伴走することを重視されているのですね。

そうですね。今の事業をしている理由はもうひとつあり、今もなお続いているサステナブルカンパニーが抱えている課題に対して、売上を上げることで解消したいからなんです。現在の中小企業には、経営者の高齢化などで会社をたたんでしまったり、時代変化についていけず事業が苦しくなったりするなどの課題があります。そのひとつのソリューションとしてM&Aに注目が集まっているのですが、事業の売却には残った社員と売却先企業とのハレーションが起こるといった課題も多いのが現状です。

私たちは経営が苦しくなった時に事業を売却してしまうのではなく、時代にあわせて販売力の強化と仕組み化を支援することで、できるだけ企業自身がサステナブルに利益を上げ続けられるようなサポートがしたいと考えたんです。M&Aが悪いとは全く思っていませんし、必要な会社には必要ですが、自社で存続と発展を目指す企業には、その後押しを誰かが行うべきと考えていて、それが我々だと自負しています。

組織拡大で見失った自社のあるべき姿と、サステナブルな組織をつくる覚悟

Marketing-Robotics

ーーMAツールの販売ではなく、人対人の伴走支援を貫いている理由はそのような背景があったのですね。現在はどのくらいの組織規模になっているのでしょうか。体制ごとの人数もあわせて伺わせてください。

現在は、社員で30名ほど在籍しており、業務委託や役員を含めて40名程度です。カスタマーサクセスの組織が10名強と一番多く、営業と開発もそれぞれ10名程度、コーポレートが上場準備の人材もあわせて数名ですね。

ーー事業内容が、SaaS専門でもコンサルティング専門でもないと感じているのですが、創業時も現在のようなMAツールを起点とした事業をしていたのでしょうか。

実は、創業時は別の事業を行っていて、在宅のコールセンター事業をしていたんです。この事業をしているうちに、販売力改善の支援にニーズがあることがわかり、また在宅コールセンター事業だけではお客様の課題を解消しきれないと感じました。そのため、お客様の課題を解消できるプロダクトを作る必要があると考え、創業2期目に現在の事業に変わったんです。

ただ、最初からプロダクト開発へ本格的に着手したわけではなく、MAツールの導入と活用支援のコンサルティングからスタートしました。私は過去にBtoB向けSaaSを提供する企業で経営にかかわっていた時期がありました。当時は国内のビジネス向けSaaSの市場の成熟度合と、導入企業に自社内で使いこなせる人材が不十分である会社が多く、SaaSプロダクトだけでは十分な価値提供が出せないと考えていました。そのため、弊社のプロダクト開発にかけるリソースは最低限にとどめ、事業転換の時から開発職ではなく、カスタマーサクセス職や営業職に比重を置いた組織構成にしていったんです。

ーー現在は、社名もMAツールの「マーケロボ」に準じてMarketing-Roboticsにするなど、プロダクトに自信を持たれている印象です。2019年の資金調達の際に、プロダクト開発にドライブをかけたのでしょうか。

そうですね。当時はかかわってくれるメンバーも増え、組織の人数も現在より多かったです。一方で、人数が増えたため、組織面での課題にぶつかったフェーズでもありました。現在、弊社のバリューは「つよく・まっすぐ・氣持ちよく」なのですが、以前はもっとITベンチャーらしく、「HAVE FUN」のようなバリューを掲げていたんです。私の社長スタイルも、みんなの意見をできるだけ聞いて意思決定に反映するなど、社員にとって良い社長であることを意識していました。

私たちが最も意識を向けなければならないのは、お客様であるサステナブルカンパニーだったはずでした。しかしその頃イケてるベンチャーだと周りから評価されることに浮足立っていたのかもしれません。実際に、Weworkにたくさん席を借りたり、タレントさんを起用したCMを放映したりするなど、破竹の勢いはありました。結果的に、無意識に「やるべきこと」ではなく、「やりたいこと」を優先する価値観が組織内で醸成されていたことに気づきました。2020年初め頃から、このままでは目指す姿にならないという危機感から、まずは目に見える形の変化として、煌びやかなオフィスを辞める意思決定をしました。幸い、コロナの影響もあり、その意思決定は、経営において数値面でもプラスに働きました。加えて、バリューの刷新や組織運営の見直しを行ったんです。

ーー組織拡大に伴う課題にぶつかったのですね。こうした組織の課題をどのように乗り越えられたのでしょうか。

自分たちがどのような存在なのかを原点に振り返って整理しました。ITベンチャーでとくに重視される、ビジョンもあらためて整理した要素のひとつです。多くのITベンチャーでは、新しい価値の創出や革新性などを目指すことが、社員のモチベーションや利益につながります。しかし弊社は、「サステナブルカンパニーの支援をするための企業」です。弊社が目指しているのは、新しい価値を生み出す世界ではなく、すでに価値あるサステナブルカンパニーが今後も続いていく世界であり、「今ある価値を守る存在」だと再認識しました。

目指すべき世界を明確にした後、社員からアイデアをもらいながら、現在のバリューに落とし込んでいったんです。

ーーあらためて整理されたビジョンやバリューを新しく採用する人材の評価基準にするなど、採用において意識されている点はありますか。

どのような人材を採用するか、社員にどのような行動を取ってほしいかなどを事細かく、経営計画書にまとめていることですね。どのような価値観の人か、必要なスキルセットは持っているかなどを記載した経営計画書を社内へ展開しています。もちろんスキルセットも重要ですが、バリューに則った行動ができるかどうかをとくに重視していますね。

また、弊社は3期目から新卒採用をスタートしており、現在は3年目になりました。多くのITベンチャー、とくにSaaSプロダクトを開発している企業では、新卒よりも中途採用に力を入れて即戦力のスキルセットを有した人材を採用するために自社からダイレクトスカウトを送ったり、VC経由で紹介してもらったりするケースが多いでしょう。プロダクトを急速に成長させるためには、その時に必要な人材を適宜アサインしていくほうが効果的だからです。一方で人材の流動性も高く、役目を終えた人材はまた別の企業へ移っていくことが半ば当たり前になっています。この状態は利益創出には適しています。一方で、新卒を重視し、社内で育成していくことは、社員が安心して働き、成長し続けられる組織ではないかと考えています。

新卒採用は、社員が長期的に在籍して成長できる制度や体制の整備とセットで行わなければなりません。弊社が3期目の早い段階から取り組みはじめた理由は、新卒採用がこうした持続可能な企業組織をつくるために必要なアクションだからです。サステナブルカンパニーを支援する企業が短期的な視点ばかりで、サステナブルではなかったら、すべてのプロダクトや言葉に説得力がありません。新卒採用は、事業に多様性と持続性をもたせるだけではなく、若者を雇用して育てるという社会的責任を負う弊社なりの覚悟なんです。

経営者は目指す世界のために「やるべきこと」から目をそらさない

Marketing-Robotics

ーー多くのベンチャー企業で、組織拡大に伴う課題に直面するケースは多くあると考えています。このような課題にぶつかった時に、どのような思想を持てば乗り越えていけるでしょうか。

弊社もまだ手探りではありますが、私が心がけているのは、経営者が現場へ発信し続ける努力を怠らないことです。新しい企業が立ち上がる理由は、創業者熱意に他なりません。次第にその熱意に賛同してくれるメンバーも集まってくるかもしれませんが、事業を推進するエネルギーの核には、創業者の想いがあるでしょう。その想いや熱意を伝え続ける意思がなければ、組織としての目線を揃えることは難しいのではないでしょうか。

私の場合、経営計画書を毎週のようにアップデートして社内へ展開しています。それを基に社員には4~6名のチームに分かれ勉強会を行っています。創業者の想いを言語化し社内に浸透させていく取組みは京セラの稲盛さんからの影響が大きいです。また、ベンチャー界隈での認知度は高くないですが一倉定(いちくらさだむ)さんという方の考えにも感化されています。この取り組みを社内で行おうと考えた時、自分の考えを押し付けるようなワンマン社長と思われるのは嫌だなと感じていたのですが、「私自身もやりたいことではなく、社長としてやるべきことをやろう」と決意して、自分の考えを言語化して共有することを選びました。

経営計画書は幹部クラスの社員にしか展開しない企業もありますが、全員へ展開することで、「バリューや事業方針、求められる行動と成果などの理解が進んで働きやすくなった」と思っていた以上の良い反応が得られています。現時点で150ページ、16万字の文量になっています。

多ければ良いというわけでもないでしょうし、この進め方がすべての企業でうまくいくとは当然考えていません。ただ、自社がどのような存在で、目指すべき世界を実現するために何をすべきかの視点から、具体的なアクションまで落とし込むことが大事だと考えています。かつての私も「やりたいこと」を優先した結果、組織課題に直面してしまいました。社長はとくに「やるべきこと」の視点をぶらさないようにする意識が必要なのではないでしょうか。

ーーありがとうございます。最後に、これから御社が目指す事業の形と、その実現のために求めている人材について伺わせてください。

弊社は、これからもサステナブルカンパニーの価値や魅力を発見し、その可能性を溢れ出させるような企業を目指していきます。企業やそこで働く人の魅力は、システムやお金などの数字ではなく、人によって発見されるものだと考えているからです。そのためには、お客様だけではなく、自社社員の魅力や可能性も引き出せる組織にしていかなければなりません。魅力が引き出された社員とサステナブルカンパニーが掛け合わされて、ツールだけでは生み出せない付加価値を生み出して提供できる組織にしていきます。

求めている人材の価値観も一貫していて、まず「つよく・まっすぐ・氣持ちよく」のバリューに則っていること、また「人の魅力を引き出す事業やSaaS開発をやりたい」と感じている方です。弊社は、SaaSのチャーンレート改善だけを追い求めるような事業はしていません。マーケロボというMAツールを開発・活用しながらも、良い意味での属人性によって、顔が見える人対人のビジネスを徹底して貫いています。テクノロジーを活用しながら、日本の価値ある資産でもあるサステナブルカンパニーを本当に支援していきたいと考えている方と一緒に働くことで、守りたい存在をきちんと守れる企業になっていけると考えています。

著者プロフィール

鎌田淳生

Writer

1994年千葉県生まれ。コンテンツマーケティング企業にて、オウンドメディアのプランニングおよび企画編集からキャリアをスタート。現在は広告代理店にて、主にtoCブランドのプロモーション戦略や企画の立案、施策進行などを担当。

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