サイバーエージェント x ウォンテッドリーに学ぶ『共感』を軸にした人事制度「挑戦と安心」を両立し、組織と個人の成長を促すには

従業員エンゲージメントの重要性が叫ばれる今、企業と従業員の間に「共感」をいかに育み、強い組織を築くかが人事戦略の鍵となっている。しかし、「共感」という目に見えないものを、どうすれば人事制度を通じて醸成できるのだろうか?

ウォンテッドリー株式会社が開催したカンファレンス「人と企業がココロオドル – これからの働くを見つめ直す1DAY」のキーノートセッション「企業の思いを伝える人事制度」では、この問いに対するヒントが示された。

本記事では、ウォンテッドリー株式会社の橋屋 優理氏による「共感」の重要性と人事制度における役割の解説、そして株式会社サイバーエージェントの田村有樹子氏による、同社の象徴的な制度「macalon(マカロン)パッケージ」を例とした制度設計の思想と実践を紐解きながら、企業の「思い」を伝え、従業員の「共感」を育む人事制度のあり方を探る。

人事制度は単なる福利厚生ではなく、「経営からのメッセージ」である──その意味とは?

なぜ今「共感」が重要なのか?

「究極の適材適所により、シゴトでココロオドルひとをふやす」 をミッションに掲げるウォンテッドリー株式会社。同社のエンゲージメント領域を管掌する橋屋氏は、ミッション達成のためにも「共感」が不可欠だと語る。

「我々が考える共感とは、会社やチームのミッション・ビジョン、つまり向かうべき方向が明確に示され、それらを心から有意義なものだと感じ、達成することを自分の使命と感じられる状態です。この共感をいかに醸成していくかが重要です。」(橋屋氏)

共感が生まれる最大の効果は「従業員と組織のベクトル(矢印)が揃う」ことだと橋屋氏は指摘する。ベクトルが揃えば、意思疎通が円滑になり建設的なフィードバックが受け入れられやすくなる。組織全体の優先順位の認識もずれにくくなり、個々のモチベーション向上や定着にも繋がる。これらが好循環を生み、最終的に個人と組織双方の生産性を高めるのだ。

ただし、共感の形成は単なる「従業員のご機嫌取り」ではない。「あくまで成果につなげるための施策」であり、特に困難な状況下で組織の結束力を高める源泉になると強調した。

「業績が厳しい時、多くの人が辞めていくような苦しい局面で、それでも『ここでもう少し頑張ろう』と思えるかどうか。その最後の一粘りを引き出してくれるもの、それが『共感』だと考えています。」(橋屋氏)

では、人事制度、特に「福利厚生」はどのように共感醸成に寄与するのか。橋屋氏はハーズバーグの二要因理論を用い、福利厚生を「衛生要因」に位置づける。

衛生要因とは、「ないと不満を生むもの」。給与や人間関係、労働環境などと同様に、福利厚生は従業員の「働きやすさ」を支える基盤であり、その欠如は離職に直結しやすい。「これができていないと『バケツに穴が開いている状態』。他のどんな良い施策(動機付け要因)を打っても効果が薄れてしまう」と橋屋氏は警鐘を鳴らす。

衛生要因は短期的な業績指標に表れにくいため後回しにされがちだが、「性質を見越して長期施策として、四の五の言わずに取り組む割り切りが重要」。福利厚生の本質を「定着に貢献する施策」と捉え、組織の土台を固めることが共感への第一歩となる。

共感を育む人事制度(福利厚生を含む広義の制度)を作る上で、橋屋氏は2つの重要なポイントを提示した。

1. 矢印を揃えるための4ステップを理解する

まず組織として目指す方向性(矢印)を明確に定義し、それに紐づく施策を決定。そして施策を実行し、最後に「なぜこの施策を行うのか」という意図を従業員にしっかりと発信する。この4ステップを福利厚生に限らずあらゆる人事施策で踏むことで、施策に一貫性が生まれ、従業員の理解と納得を得やすくなる。

2. 信頼を作るための5つの要素を理解する

働きがいの基盤となる「信頼」は、「信用・尊重・公正・誇り・連帯感」という5つの要素から成ると橋屋氏は整理する。人事制度を設計する際は、これらの要素を満たせているか検討することが鍵となる。

さらに橋屋氏は、制度を「企業から従業員へのギフトであり感謝の証」と捉え、「『何をあげるか』だけでなく、『なぜあげるか』という背景や感謝をちゃんと伝えるコミュニケーション」の重要性を訴えた。

「macalonパッケージ」はどのように生まれ、共感を呼んだのか?

キーノート後半では、株式会社サイバーエージェントの田村氏が登壇。橋屋氏が「共感を生む制度のステップや信頼の要素を非常に高いレベルで網羅されている」と評する同社の取り組みが紹介された。

田村氏は2005年に入社後、一貫して人事労務領域に従事。自身の出産・育児経験も踏まえ、同社の象徴的な女性活躍推進制度「macalonパッケージ」の立ち上げ・運用に深く関わってきた。

サイバーエージェントは「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンのもと、メディア&IP・ゲーム・広告など多角的な事業を展開。従業員の約8割が20~30代と若く、変化の速い事業環境が特徴だ。そんな同社の人事制度の根幹には「挑戦と安心はセット」という明確なポリシーがある。

「福利厚生というと『安心』を思い浮かべがちですが、それだけを追求すると社員の挑戦意欲を削いでしまう懸念があります。事業スピードが速い弊社では、社員の挑戦が不可欠。だからこそ、挑戦できる環境と安心して働ける環境、その両方をバランスよく整備することを常に意識しています。」(田村氏)

このポリシーを体現する代表例が「macalonパッケージ」だ。女性特有の体調不良時に利用できる「エフ休」や不妊治療中の女性社員が治療のために取得できる「妊活休暇」、専門家への相談窓口「妊活コンシェル」、近年導入された「卵子凍結補助」といった心身のサポートから、子どもの看護や学校行事のための「キッズデイ休暇」、「認可外保育園補助」といった仕事と育児の両立支援、さらには情報交換を促す施策まで、現在9つの多様な制度で構成されている。

注目すべきは、このパッケージが時代や社員のニーズに合わせて進化し続けている点だ。2014年に5制度で始まった後、2016年には深刻な待機児童問題を受け「認可外保育園補助」などを追加。2022年には社内提案をきっかけに「卵子凍結補助」を導入するなど、常にアップデートを重ねている。

制度検討のきっかけは2010年、社会的に「女性活躍」が注目され、社内でもママ社員が増加していた時期。会社の未来に繋がる新規事業や課題解決の方法などを提案、決議する「あした会議」で複数の女性支援制度案が提案され、経営トップの「やるならインパクトのあるものを」という後押しもあり、人事主導で具体的な制度設計が始まった。

当初は「妊活支援」が検討されたが、「それだけでは対象者が限定的になり、”しらけ”を生む可能性がある」と考えた田村氏ら人事は、より多くの社員(将来利用する可能性のある社員や男性社員も含む)に関わる形として、多様なニーズに応える「パッケージ化」を選択。これが「公平性」の担保に繋がり、幅広い社員の納得感を得る上で重要なポイントとなった。

田村氏は、制度設計で特に重視するポイントが3つあると明かす。

まず第一に、常に自社の根幹ポリシーである「挑戦と安心がセット」に立ち返り、制度が単なる安心提供に留まらず、社員の挑戦を後押しするものになっているかを確認すること。

次に、田村氏が「“しらけ”のイメトレ」と呼ぶプロセスだ。これは、制度を利用しない人の立場や感情を想像し、不公平感や不満を生まないか、どうすれば理解を得られるか、反対意見が出た場合にどう対応するかを事前に徹底的にシミュレーションすることである。実際にmacalon導入時には、女性向け・管理職向けに説明会を分け、それぞれの立場に合わせた丁寧な意図伝達を行ったという。

そして最後に、「ネーミング」への強いこだわりだ。「流行らなくては意味がない」という考えのもと、社員が覚えやすく、ポジティブな気持ちで口にしたくなるような、制度の「顔」となる名前を追求する。例えば「マカロン」には、「ママ(Mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)活躍する」という明確なメッセージが込められている。

これらの緻密な設計とコミュニケーションの結果、macalonパッケージは社内外で好意的に受け止められた。「社内からは男女問わず『うちらしいね』という声が多く、女性の先輩社員からは『後輩たちのために誇らしい制度を残せた』というコメントももらった」と田村氏は語る。採用面でも、「かつては『育休取れますか?』といった質問があったが、今は全くなくなった」という変化があった。

この成功は、単に手厚い制度を作ったからだけではない。「挑戦と安心はセット」というブレない経営からのメッセージを、人事制度という形できちんと社員に届け、共感を呼んだ結果と言えるだろう。

「社員の『頑張りたい』気持ちを応援できるか。そして長いキャリアの中で多様な選択肢を提示できるか。それが人事制度で最も大事なことです。人事は、制度を通じて経営メッセージを社員に伝えるハブとなり、それを伝え続ける役割を担っていると考えています。」(田村氏)

企業の思いを伝える人事制度を

今回のセッションは、「共感」が組織の成果やレジリエンス(困難を乗り越える力)の源泉であり、人事制度がその共感と信頼を育む上で極めて重要な役割を担うことを改めて示した。

Wantedly橋屋氏が提唱した「矢印を揃える」視点と「信頼の5要素」を満たす制度設計、そしてサイバーエージェント田村氏が実践する「挑戦と安心はセット」という明確なポリシーに基づく具体的な制度構築と丁寧なコミュニケーションは、自社の人事制度を見直す上で重要な示唆を与えてくれる。

これからの時代、企業は人事制度を単なるコストや義務ではなく、従業員への投資であり、経営からの重要なメッセージとして捉え直す必要がある。自社の理念や「らしさ」を反映したポリシーを軸に据え、従業員の共感を育みながら、彼らの挑戦と安心をいかに両面から支えていくか。自社の人事制度が、従業員にとって「誇り」となり、組織のベクトルを合わせる力となっているか、今一度問い直すきっかけとしたい。

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