DeNA共同創業者が語る、スタートアップの過去と現在|#13 エンジェル投資家・DeNA共同創業者 川田尚吾氏

スタートアップに必要な「採用・組織づくり」のポイントについて河合聡一郎氏と探求する連載。今回はスタートアップを支える投資家の目線から見た組織づくりに焦点を当てました。

DeNAの共同創業者にしてエンジェル投資家の川田尚吾氏は、90年代から現在に至るまでスタートアップの一線に立ち、変化を見続けてきました。今のスタートアップの環境や組織づくりは川田氏にとってどう映っているのか、同じくスタートアップを経験し、エンジェル投資家の顔も持つ、河合聡一郎氏が聞いていきます。

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川田尚吾氏
エンジェル投資家・DeNA共同創業者

東京都立大学大学院にて博士号(工学)を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを共同創業し取締役に就任。以降COOとして一連の事業立ち上げをリード。2008年に非常勤取締役、2011年より顧問。現在は日米欧のベンチャー企業への投資、支援を中心に活動。

30年前、起業家は異端児だった

DeNA川田氏

河合聡一郎氏(以下、河合):スタートアップのレジェンドである川田さんにお会いできることを楽しみにしていました。川田さんは1999年に南場智子さんとDeNAを創業され、経営メンバーの一員として取り組み、2005年に東証マザーズに上場。2008年に取締役を退任されてからは、エンジェル投資家としてシードフェーズのウォンテッドリーやスマートニュース、ヤプリなどに出資されています。当時と現在を比較されて、スタートアップの環境の変化をどう感じていますか。

川田尚吾氏(以下、川田):実は私、大学には9年通っていて、学生起業からキャリアをスタートしています。その後、マッキンゼーに3年勤め南場さんとDeNAを創業しました。私が学生だった80年代はまだバブル絶頂期。とくに私は機械系の研究室に在籍していたので、目をつぶっていてもSONYや日立、三菱重工などの大手メーカーやその他金融系、商社から研究室推薦がもらえる時代だったんです。普通に学生生活を送っていれば大企業に就職ができる。だから当時「起業する」人は、キャリアのレールを外れた人で相当な覚悟が必要でした。現在は一般的なキャリアの一つの選択肢になり裾野が広がったと思います。

それに、当時は独立系VCもなく、資金調達の手段も限られていました。金融系の小会社が数社ありましたが独立系VCは無く、他には何も収益を生み出さない土地に投資している会社がVCを名乗っていたりする状況。ベンチャーキャピタルや、ファインディングという言葉もまったく知られていませんでしたし、「イノベーション」という言葉も「そんな新しいことをはじめてもうまくいかない」と白い目で見られ、それを志す起業家も胡散臭い存在とされていました。

バブル期は「そんなイノベーションよりも、みんなが投資している不動産」と、エスタブリッシュメントとされていた大銀行すらこぞってお金を投じていた時代です。私はそんな状況を見て、「この国には本当の意味での資本家がいない」と思い、「将来必ず資本家になる」と決めて起業しました。

河合:ありがとうございます。そう考えると現在は「起業」の選択肢は、資金的な部分も含めて市民権を得つつあると思います。事業領域の観点では、ここ30年を振り返るといかがでしょうか。「このビジネスモデルは変わらず通用する」や「このドメインに対してアプローチができるようになった」など、感じられることはございますか。

川田:90年代~2000年代のインターネットサービスは、ネットの中のみで完結するものが多かったですね。昨今はネットだけでは完結せず、リアルが絡むサービスがどんどん増えています。私が直近で投資したサービスも4つ中3つはリアル絡みです。

また、開発のための環境も様変わりしました。私たちがDeNAを立ち上げた頃は、サービスを立ち上げるならまず、1台200~300万円のサーバーを購入して会社にマシンルームを作り、借りているデータセンターに置きに行き、ブレードサーバーを突っ込んで、アパッチのインストールをして、といった具合。

現在ならば、AWSやGCPがあるので、すべてサーバサイドで完結します。YouTubeで「20分でSNSを作る」という動画があるように、Ruby on Railsのインストールを行い、SNSを立ち上げるまで20分できるようになった。プラットフォームの環境は圧倒的に効率的になったと思います。その環境を使った多様で良いサービスもたくさん出てきましたね。

圧倒的に効率的な世界が到来したからこそ、エンジニア採用は終わらない

河合:テクノロジーを活用して、リアルな領域へも接続をしながら事業を構築していく起業家が増えている印象で、私の出資先や支援先にも、そういった企業が多くあります。組織も事業がどんどん成長していく中で、ある意味でソフトウェア的にアップデートされていくことが求められていくと感じています。

こうした事業や組織を創り上げていく中で、欠かせないのがエンジニアリング。起業家はそこへの投資を惜しみません。少し趣旨が変わるのですが、川田さんは出資をされる際にどのような点を見てらっしゃるのでしょうか。

川田:私はとにかくプロダクトを見ます。社長の人柄を見て出資することはほぼありません。どんなに社長がエネルギッシュかつ人物的にも凄く尊敬できて、能力が非常に高くてもプロダクトが良くないと駄目。逆にプロダクトが良ければ、私と目を合わせられないくらいコミュニケーションに難があっても大丈夫です。目を合わせる人を私が連れてくればいいだけの話ですし。

自分自身も画面遷移や要件定義に加えデザインのチェックもすべて行い、学生時代にはプログラミングも行っていたこともあり、デモサイトにあり得ない線が入っていたり、色のトーンがおかしかったり、UIUXが良くないと「あり得ないだろう」と思ってしまう。ただ、表面だけで判断してしまう可能性もあるので、意識的に押さえて本質的なサービスの在り方や動き方を見るようにはしています。

河合:「プロダクトに対して本当に細部に対してこだわりが持てるか?」は、とても大切ですね。川田さんは出資先の組織づくりについて、どのようなアドバイスをされているのでしょうか。採用すべき人材の順番や、そのプロセス、組織づくりにおいての要所について取り組まれていることがあれば、ぜひお伺いしてみたいです。

川田:良いサービスならば、事業自体は勝手に成長します。なので「最悪、私が誰か連れてきてなんとかしよう」と思っていても、実際に事業が伸びていると所属しているメンバーも勝手に成長するので、私が人材を連れてくることはあまりありません。ある程度成長して「IPOの準備」となると、CFOをはじめとしたサポート部隊を紹介することはありますが。

スタートアップの組織は営業、開発、カスタマーサポート、管理、とファンクションごとに作ります。人数が増えてくると、会議体の在り方や評価のシステムを検討するようになります。

河合:まさに、良い事業で急成長すると非連続なストレッチを求められますよね。川田さんから見て、起業家が急成長するきっかけやタイミングはどんなときでしょうか。

川田:事業が伸びると必然的にステージは変わっていきますね。たとえば、サービスをリリースして大きくなるとカスタマーサポートに質問が溢れてきますし、障害を起こすとユーザーからひどく怒られます。サービスが小さければ牧歌的に直せばよいものの、大きくなるとTwitterなどSNSからのクレームも多く入るようになります。

ですから、結局はサービスのクオリティコントロールをしながらリリースしなければいけません。プロダクトが伸びると人手が増えるので、マネジメントも発生する。初期は純粋にプロダクトが好きな人のみでメンバーが構成されていますがその中からマネジメントを経験する人が出てくるときがより進化するタイミングの一つだと思います。

加えて、出資を受けると株主との関係も出てきます。ステークホルダーが増えて、上場を目指すとなれば株主総会も開かなければなりませんから。どんどん違う能力を身につけることが求められます。

DeNA川田氏

川田:そして、圧倒的に効率的な世界が到来した分、エンジニアを採用するミッションは永遠に終わりません。たった20分でSNSサービスが立ち上げられるくらいに環境が楽になった状況だからこそ、それをベースにたくさんの方がよりよいプロダクトを目指せるようになった。UIUXに長けたエンジニアを採用することは至上命令になります。さらに言えば、Facebookのマーク・ザッカーバーグが言ったように、とにかく全社員が、総務や人事含めて、エンジニア出身でプロダクトを理解しているのが理想です。

私は早稲田大学のビジネススクールで講座を持っているのですが、受講生にはプログラムを書かせています。2コマ合計3時間くらいをかければ、誰でもインストールからはじめてVRゲームくらいは作れます。ビジネススクールに通うビジネスパーソンたちも「はじめてプログラミング環境に触れた」という方がほとんどですが、「きちんと順序立ててプログラミングをすればできるのに、今までプログラミングを学んでいなかったのは、今の時代の現実に向き合っていなかったのではないですか?」と話すと、みなさん衝撃を受ける。当然、優秀なエンジニアを口説くときに、経営者がエンジニアリングの知識を持っていないことには話になりません。

あとは、昨今パーパスドリブンという言葉も出てきましたが、「何を目指すのか」を明確にすることでしょうか。エンジニアは「社会を良くしたい」という気持ちを根底に持っていますから。ミッション・ビジョンを言語化して社内に浸透し続けることも必要だと思います。

河合:まさに起業家は事業、顧客、組織、そして株主とさまざまなステークホルダーが増えることにより、情報の量や質の変化、応える期待値も変わっていきますものね。視座や見ている時間軸が変わってくると思います。

そして、これからは本当に開発と言う業務だけでなく、あらゆる場面でエンジニアリングの知識やスキルは必須になっていくため、開発までできなくてもエンジニアリングに触れ続けることの大切さは私自身もとても共感です。

組織づくりにおいても、まさに「自社における所属する理由、パーパスドリブン」をベースに、社内外に情報発信をすることも重要性もますます増えていくと感じています。本日はさまざまな視点から、貴重なお話を本当にありがとうございました。

DeNA川田氏

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