キャディ 加藤

山の登り方への理解がないと、組織は壊れる|河合聡一郎氏と考える、スタートアップに必要な採用・組織づくり #3 キャディ 代表取締役 加藤勇志郎氏

スタートアップに必要な「採用・組織づくり」について河合聡一郎氏と探求する連載。3回目はキャディ株式会社の代表取締役である加藤勇志郎氏の登場です。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに掲げて邁進するキャディ社の組織づくりについて、河合聡一郎氏が聞いていきます。

キャディ株式会社
代表取締役
加藤勇志郎 氏

1991年生まれ、東京都出身。東京大学卒業後、2014年に外資系コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2016年に同社マネージャーに昇進。日本・中国・アメリカ・オランダなどグローバルに製造業メーカーを多方面から支援するプロジェクトをリード。特に重工業、大型輸送機器、建設機械、医療機器、消費財を始めとする大手メーカーに対して購買・調達改革をサポートしたほか、IoT/Industry4.0領域を立ち上げ時から牽引。製造業分野の持つポテンシャルに惹かれ2017年11月にキャディ株式会社を創業。モノづくり産業が本来持っている可能性を解放することをミッションに、テクノロジーによる製造業の変革を目指す。
https://www.wantedly.com/id/yushiro_kato

先行く経営者にヒアリング。 3年間で100人規模の組織に成長

 

河合聡一郎氏(以下、河合):本日はよろしくお願いします。まずお伺いしたいのですが、キャディ様は設立日が2017年の11月9日です。普通ならば、4月1日などキリの良い日に設立すると思うのですが、なぜこの日だったのでしょうか?

加藤勇志郎氏(以下、加藤):江戸時代から明治時代に変わった節目の大政奉還が1867年11月9日です。私、結構な幕末ファンで、キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションのため、ぴったり明治維新150周年の日に創業しました。明治維新の「殖産興業」のように、モノづくり産業にあらためて革命を起こしたいのです。

創業前から組織づくりは先を行く経営者、ラクスル松本社長freee佐々木社長などに話を聞き、課題が起こるタイミングをキャッチできるようにしてきましたね。組織づくりは創業前9月に3人目のメンバーが決まったタイミングで、「大事にしたいこと」を話し合っていました。そして、創業から9か月後にバリューを定めました。

 

河合:普通は創業して何かしらの壁にぶつかった際に、先輩経営者に相談するケースが多いと思うのですが、創業前からかなり感度を高く想定される課題に対して情報収集をされていたんですね。私自身、この4つのバリューはどれも非常に共感するのですが、どんな背景や想いを込めて生まれたのでしょうか?

加藤:キャディはミッションである「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ために存在する会社です。1人の人間として、会社経営の上で大事にしたいことを考えて策定しました。大きなことを成すためには「大胆」さが必要で、そのために「卓越」と「一丸で成す」があります。そして最後に「至誠を貫く」。事業を運営していくと、お客様とパートナー様がいる中で多くの会社がどちらかに重きを置きがちです。キャディは「業界を変えたい」「ポテンシャルを解放したい」と考えたときに、「両方」を大事にしたい。それを根本的に実現する価値観は誠実であり続けることのため、「至誠を貫く」に決めました。

短期的にグロースしたければ、お客様やパートナー様、組織に対して目を配らなくとも、売上は成り立つと思います。ただ、我々はモノづくりにおけるマーケットプレイス型の受発注プラットフォームとして「モノづくり産業のポテンシャルを解放する。」をミッションに掲げています。国内だけでも120兆円という巨大市場、かつ製造業という伝統的な日本の基幹産業の構造改革に挑むならば、中長期的な勝負になると見えていた。その中で一番重要なのが「至誠」だと思っています。

河合:キャディ様はこの3年間で一気に100人弱の組織まで急拡大されています。日々、経営をされるなかで、組織面での課題等は感じていらっしゃるのでしょうか?たとえば、事業上、職種を含めて様々なバックグラウンドを持つ方が入社をしたり、組織構造が複雑化したりすると、業務上の情報や理解に差が出てくるとかと思います。

加藤:100人規模になると社長の私が全員を見て1on1をするのはほぼ不可能です。しっかりと階層構造を作らないとマネジメントができない。ミドルマネジメントのカルチャー体現や、戦略理解を重視しています。

よく経営は登山にたとえられますが、登る山がゴールで、その登り方が戦略です。とくに登り方に対する「戦略理解」は大事にしています。シンプルに言えば「Why」を丁寧に説明しますね。

たとえば、現在キャディは産業機械やプラント領域に特化しています。実はサービス開始1年で5000社のお客様にキャディのプロダクトを使っていただいていましたが、産業機械は当時ではその中での5%に過ぎませんでした。産業機械は、多くが少量多品種という性質上、一点一点が特注品の中で最適な調達を行う必要があるといった点でキャディのバリューが出しやすい領域です。そこにフォーカスする戦略を採ったので、残り95%のお客様には一旦お断りする必要があったのです。

メンバーからすると、「どうして未開拓の領域にフォーカスするのか」となるため、納得感が必要。そのために「産業機械にフォーカスすることが、なぜポテンシャルの解放につながるのか」、「最終的に他業界にどうスケールしていくのか」という話も含めてどの順番で山を登っていくのかを説明したのです。結果的に、お客様を5%に絞ったことで、半年後に売上も大きく伸びました。私の尊敬する経営者ジャック・ウェルチも「選択と集中」を唱えていますが、「なぜ選択するのが重要なのか」「選択しない部分は捨てるわけではない」ことをきちんと説明したのが大きかったと思います。

河合:なるほど。戦略理解に重点を置かれて、その実行と結果が見事にリンクされていますね。加藤さんが全社に対して、そこまで戦略の理解を重要視されるのは、過去これまでのご経験もあるからでしょうか?

加藤:ええ。私は戦略コンサル出身で、戦略コンサルでも実行の支援を行っていました。その経験も踏まえると実は、戦略の実行における歩留まりの方が大事。「戦略のレベル×実行のレベル」で施策の効果は計算できます。
戦略は0点か200点かというように振れ幅が大きい「賭けの一手」のようなものも稀にありますが、実際にはほとんどが80点~120点の振れ幅に収まります。それであれば、80点の戦略であったとしても、なるべく早く決断したうえで実行確度を高める施策に注力して、実行の歩留まりをいかに上げるかを考えたほうが良い。戦略が80点であっても、戦略解像度と納得度を高めて実行を120点にすることで掛け算で96点が取れるわけです。これは、120点の戦略であっても、あまり納得がいかないまま50点の実行をして結果的に掛け算で60点を取るよりよっぽどパフォーマンスが良いわけです。

河合:戦略への納得感は組織サーベイでも現れますよね。御社では継続的にサーベイを取られていると思いますが、結果としてどのあたりのスコアが高く出ているのでしょうか?

加藤:理念戦略、事業内容、人的資源の3つは高く出ていますね。共感があるなかで採用が出来ている。すべての意思決定をバリューやミッションに紐付けて話すとかは当たり前ですが、各人がきちんとできていると思います。

Wantedly経由で採用した方はミッションに対して真正面でピュアな方が多いと思います。若手層からハイレイヤーまで活躍している方が多い。キャディは現在の規模から2021年に300人規模まで大きくしたいと思っていますが、より活用していきたいですね。

メンバーが活躍するには「シフトレフト=採用」が最重要

 

河合:キャディ様は、採用活動においてもバリューフィットをかなり丁寧に見てらっしゃいますし、そうした選考を経た方々が活躍されていると思います。どういう部分をフィットの共通項として見てらっしゃいますか?

加藤:採用でのバリューフィットは、キャディでは本質的に何を「至誠」と捉えるかが大事ではないかと思います。お客様を含めたステークホルダーにとって何が至誠なのかを考える。その上で、ベンチャーに共通している項目かと思いますが、一つは「アンラーニング」が重要。今までのことを忘れるというより、分からないことを臆せず周りに聞けることです。それには、好奇心が旺盛であることが大事です。変なプライドがなく、ピュアに「コトに向き合えている」方は強いなと。

製造業では「シフトレフト」という言葉があります。構造として、営業、設計、調達、製造、販売の順に流れていきます。課題を解こうと思えば、設計や営業の部分で問題になっていることが多い。言われたものをただ作るのではなく、構造からどう変えていけるかを考える必要があります。これは組織づくりでも同じ考え方ができます。組織づくりの「シフトレフト」にあるのは採用です。どんな人材を採用するかに力を入れたほうが歪みは溜まりません。一度歪みが溜まると組織に負荷がかかり、解消するのはより大変ですから。

採用 課題

河合:加藤さんは時間軸で戦略を見て「長期戦」と仰っていました。一方で、現場の視点ですと、日々の業務の中で短期目標(毎月の売上やKPI等)に目がいきがちです。この時間軸のギャップに対して、どのようにや業務への取り組み方を伝えられていますか?

加藤:キャディ社では、OKRとして「3年」の全体テーマと、「1年」のテーマ、「3か月」のKRを決めています。ただ、決めても状況は変わるのでこれ自体にはあまり意味がない。Why(なぜ)、What(何を) How(どうやって)を軸にゴールデン・サークルを個人で書いてもらい、私自身が作る戦略と個人のOKRを統合して戦略ストーリーを作っています。全体を作るのは1年に1回でよくて、周知させたり意識させたりするのは3か月に一度の頻度で良いと考えています。1年のKRは毎月、3か月のKRは週次で触れていくという形です。毎日3年後の目標を意識するのも気持ち悪いと思いますからね。

長期の目線を持つにはOKRを運用するのが良いと思っています。目の前に近いことの目標は接する頻度が高いから、日々繰り返してアップデードする。ミッションが20~30年後に達成したいことならば、その存在を語るのは3か月に一度で良い。1年後には「これぐらい意識できるようにしたい」と意識できればOKです。

また、長期の目線を持つためには、メンバーの「視座が上がる」ことが重要です。たとえば、今ここで「戦争が起きている」のと「隣国から軍団が迫っている」状況ではまったく状況が違う。会社組織に置き換えたら、「今Aの問題は、全体から考えたらBで火急ではない」とディスカッションできるようになるのが理想です。これは繰り返しディスカッションするしかないと思っています。メンバーの視座が上がり「この内容を社長に話したら、こう突っ込まれるかも」と考えて、ゼロベースの壁打ちではなく「1年後、3年後を考えたらこんな提案が良いのでは」と勝手に考えてくれる状態になれば、組織全体で長期の目線を持てるようになると思います。

2021年には組織を300人体制に。 長期化を見据えた組織を創るために意識すること

 

河合:これから組織が300人規模になると、先程おっしゃっていたミドルマネジメントへの期待がさらに大きくなっていくと思います。ミドルマネジメントには、カルチャー体現に加え、業績や育成など様々なミッションが期待されますよね。また、「経営者の翻訳者」として、経営と現場を正しく繋ぐという役割もあると思います。こうしたミドルマネジメントを強化していく上で、何か取り組みとして考えてらっしゃることはありますか?

加藤:「採用基準を下げない」ことでしょうか。言うは易しですが非常に重要。結果的にですがキャディの採用基準は上がっていて、これまでに加入したメンバーには、ある意味適切なプレッシャーがかかっていると思います。

加えて、リアルタイムにフィードバックするのも重要です。組織の人数が多くなると、手も回らないし、忙しいし、後回しになる。トッププレイヤーであればあるほどリアルタイムにフィードバックする。私は長文で事実と感想を送ります。具体的事象があると、「次どう動いたら良いのか」も話しやすい。もちろん、私もメンバーからフィードバックを定期的にもらっています。

河合:リアルタイムで事実と感想を分けた具体性のあるフィードバックは次につながりますし、こうした考え方は、マネジメントの上で大切な要素ですよね。加藤さんが育成にコミットされるようになったのはいつからですか?

加藤:前職のマッキンゼー時代からですね。前職では一応「再生工場」と言われていたんですよ。まだ経験の浅い若手が翌日朝9時からお客さんである経営層とディスカッションする際、そのままでは発表できないので、夜中の12時に家に来てもらい朝5時までプレゼンの練習を一緒に行いました。かなり密度濃く教育していましたね。結果、その後5段階で上位の評価を取れるくらい活躍する方に成長した。

そもそも、モチベーションがない方はアドバイスしても実際に行動に移すまでは時間がかかります。しかし、アクセルを頑張って踏もうとしている方には、一緒にハンドルを握ってあげたり、サポートしてあげたりするのは重要だと思っています。私自身もそうやって育てていただいたので。

また、育成は重要な反面、スタートアップにおいてメンバーは定期的に入れ替わるものです。「循環をネガティブに捉えない」カルチャーも大事だと思います。キャディもスタートアップ企業のため潰れる可能性も十分にあり得る。キャディにもし何かあったら、今いるメンバーは全員別の企業に紹介しようと思っています。そう思える人しか採用しないのは大切ですね。キャディは勝負の時間軸が長いので、長期を見据えてコミットしてくれる方しか基本的に採用しないのですが、彼らにも家庭環境の変化などがあったときにやむを得ずキャディを離れることがあるかもしれない。そのときに「しっかり送り出せるか」も採用時には重要視しています。

私の前職、マッキンゼーはアルムナイ(退職者)のネットワークがあります。大前研一さんやDeNAの南場智子さんまで日本を代表する経営者が交流をしています。キャディもそういうブランドのある会社にしていきたい。だから、辞めるならば「必ず活躍してね」と個別にコメントして送り出しています。

河合:在籍時には高いレベルでバリューを体現し、そしてフルコミットして高い成果を出すこと、そしてそれを経たからこそ、本人にとって人生において様々な選択肢が増えるのは素敵なことですね。それをきちんと採用時から重視されていること、そういった環境を創っていることも本当に素晴らしいと思います。貴重なお話をありがとうございました!

著者プロフィール

上野智

Writer

1986年長野県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、編集プロダクションに在籍し『週刊SPA!』や『ダイヤモンドZai』などでコンテンツを製作。 株式会社カカクコムを経て、株式会社ビズリーチ(現ビジョナル・インキュベーション社)のWEBメディアBizHintの企画や編集を担当中。

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