ラクスル

「事業経営×人事」を実現するHRBPのあり方|#7 ラクスル HRBP 大原 一峰氏|河合聡一郎氏と考える、スタートアップに必要な採用・組織づくり

スタートアップに必要な「採用・組織づくり」のポイントについて河合聡一郎氏と探求する連載。7回目はラクスルのHRBP大原一峰氏。ラクスルのHRBPは事業責任者に伴走し採用や育成面で価値発揮する役割を超えて、事業経営者としての存在を目指しています。ラクスルの組織づくりとHRBPのあり方について河合聡一郎氏が聞いていきます。

ラクスル株式会社
HRBP
大原一峰 氏

2017年ラクスル入社。人事部門の立ち上げ、HRBP機能の立ち上げを担当し事業経営×組織人事の最適な関わり方を追求する。ラクスル入社前はWeb広告やゲームなど急成長フェーズ事業会社で人事部門の立ち上げや統括を行う。カオス耐性高め。https://www.wantedly.com/id/kazumine_ohara

ラクスルが考えるHRBPとは

ラクスル 大原

河合聡一郎氏(以下、河合):本日はよろしくお願いいたします。今日の対談を楽しみにしていました。ラクスルは経営から人事への期待の高さにおいて、スタートアップの中でも稀有な環境だと思っています。近年は事業の成長や複雑性に伴い、事業ごとにHRBPを配置し取り組まれていると伺っています。ラクスルのHRBPの定義や役割を教えてください。

大原一峰氏(以下、大原):まずは会社の紹介をさせてください。ラクスルは「仕組みを変えれば世界はもっとよくなる」をビジョンに掲げ、伝統的な巨大産業がデジタル化する未来に向けて最適な産業構造を作り出す大きな挑戦をおこなっています。具体的には印刷の『ラクスル』、物流の『ハコベル』、広告の『ノバセル』という3領域の事業があり、今後も4つめ5つめと展開していきます。私自身は人事として働く上でラクスルの特徴を下記のように捉えています。

 人事として働く上でのラクスルの特徴
・独立性の高い事業が複数存在し増え続ける
・各事業が巨大な成長ポテンシャルを持ち組織規模の急拡大が見込まれる
・事業間のシナジーはわかりやすい共通の顧客基盤などではなく、ビジョンと力強く事業と組織を立ち上げ成長させる再現性ある仕組みがシナジーであり「ラクスルの強さの源泉」である

そのなかで、HRBPの役割は「経営チームとして事業価値の向上にコミットすること」です。他社事例などでは事業に「寄り添う」「伴走する」「相談役となる」などの表現が使われることもありますが、ラクスルでは事業の経営チームにHRBPが組み込まれており、HRBP自身が事業に責任を持つ役割です。事業部門を担当する人事ではなく、まず経営者でありそして組織人事を管掌しているのが目指す姿です。

現在は3つの事業領域にそれぞれに事業経営チームがありHRBPが配置されています。私が所属する印刷事業本部の昨年度売上は約160億円。その中には3つの事業部があり、ビジネスだけでなくエンジニア、オペレーションのメンバーなど合計200名が所属しています。その他に海外の現地法人や出資先スタートアップの人事支援などもあり、一部門というよりは一企業を見ている感覚ですね。HRBPはこの事業本部の組織人事を管掌し、中期の計画から実行までを行います。

ラクスル 大原

河合:どのような背景や目的でHRBP制を導入したのでしょうか。また実際に運用をスタートされて、前後で事業や人事的な側面で大きく変化されたことがあれば、そちらも是非お伺いさせてください。

大原:HRBP制の開始前後を振り返ると、主力の印刷事業が成長を続け、物流事業が急激な拡大フェーズにあり、広告事業が立ち上がりつつある状況でした。全社的にはマザーズ上場後から東証一部への変更を目指しガバナンス体制の強化をしつつ、複数事業を運営する経営体制への移行などのテーマがありました。

それらが同時並行に動いていく中では、CEO・CFOや各事業の担当役員から優先度と重要度の高い球がバシバシ放り込まれてくる状況。結果的に人事のフォーカスが散漫になり事業成長をリードできず、事業と人事双方がストレスを抱えていた面がありました。HRBP制の目的の1つは、全社・各事業ごとに人事組織面を牽引する責任者を分けてそれぞれがやるべきことに集中することです。

もう1つ攻めの意図としては、事業経営と人事機能の最適な関わり方の磨き込みです。前述した通り、ラクスルの真価は再現性ある力強い事業・組織の立ち上げと拡大です。各HRBPがそれぞれの事業フェーズでどう経営に関わるかを試行錯誤し他事業にフィードバックしていくことによって、事業価値を最大化する人事の在り方や仕組みを磨いていきます。

これらの取り組みには手応えがあり、結果として当初1事業本部ではじめたHRBPが現在では全事業本部に広がっています。デメリットという程ではないですが、各事業本部・HRBPへの権限移譲が大きく遠心力が働く形をとっているので、1社の人事として連携する求心力は意識して作ることが必要ですね。

HRBPは人事領域をはみ出すことも必要

ラクスル 大原

河合:お取り組みをお伺いして、「企業価値」や「事業価値」そしてそこに付随する「組織価値」をどう上げていくかが重要だと感じました。企業の置かれているフェーズや経営課題に応じて事業部からのニーズは多様であり、HRBPとして価値貢献できる範囲もさまざまだと思います。その中で、大原さんが考えるHRBPの仕事内容やいわゆる人事との違いを教えてください。

大原:業務遂行ではいわゆる人事領域のことが多くを占めています。特別なことではなく「普通の人事」をどれだけ力強く行うかがチャレンジです。事業価値向上という大目標から施策実行まで「WHY」と「HOW」が完全に繋がることで強度ある意思決定実行が可能になるのが面白いところです。

目指す目的に合致していれば採用・育成など特定の業務領域に縛られる必要はなく、人事領域をはみ出て価値を出すことも可能なのは過去私がやっていた仕事とは異なるかもしれません。

▼参考:販管費の管理までも人事はやるべき、事業を深く理解することの必要性
https://bizhint.jp/report/455667

そのようにカバー範囲が広い中、HRBPの一番難しく大事なことは「今期、自分は何を変えるのか」そのフォーカスを決めることです。3年後に事業のムーンショットが達成された時、「我々が今期このフォーカス目標を達成したからこその結果だと言えるのか。」その目標設定が経営目線での仕事であると考えています。

フォーカスを決めるためには事業責任者やプロダクト責任者と事業価値が高まった状態を共有し、それが時間軸での組織状態にブレイクダウンされてなければいけません。それらのゴールを持ち、組織に関わる複数のデータから事象を立体的に把握する。そして、日々変わる状況の中で時間軸やトレードオフを持ちながら、事業や組織をコントロールしていく。ここに近づけた時に価値発揮ができていると感じますね。

河合:あくまで「事業推進や価値向上の為にどうすべきか」という観点を持ち、その上で、組織設計や人事機能の意思決定と実行をしていくと。人事実務の力はもちろん、そもそも「投資対効果」を図るための数値化・可視化をしていくことが強く求められますよね。
もともとはいわゆる全社の人事のご担当だったと思いますが、どのようにして事業との関わりを深めていったのでしょうか。また同様に事業解像度をどう高めていらっしゃるのですか?

大原:まず行ったのは所属を人事でなく事業にすること。そして事業の関心やリズムに則って動くことですね。毎週の事業経営会議、事業マネージャー陣の会議、全体朝会や期の振り返り会、月1の取締役とのディスカッションなど、ゲストでなくMTGのファシリテーションにしろ資料作成にしろ、主体者として参加しています。日々自分が触れるものを事業の経営メンバーと同期させていると、自然と同じ目線でものを考えるようになっていくと思います。

もう1つ意識していることは、事業経営チームを1つの人格として捉えて、いかに事業責任者やプロダクト責任者の知見を自分のものとして気軽に活用できるか。また、いかに自分が独自の価値を発揮しチームを補完できるかです。

HRBPに必要な事業解像度は2つに分けて考えています1つは事業そのものの解像度ですね。当然ながら最低限ディスカッション可能な状態になっておかないと価値発揮ができません。しかし、顧客やサービスに常に向き合っている人と同等にはなるのは難しく、またそうなる必要もないと感じています。事業やプロダクトの責任者の頭の中を自分の外部メモリくらいの気軽さで引き出して使える時の方が良い仕事ができる気がします。

もう1つは事業経営×HRの解像度で、HRBPが経営チームを補完するための独特で事業責任者よりも深い視点が強みになると思います。たとえば、人件費生産性、販管費等のコストなどですね。事業人件費が毎月いくらかかってるか、今期は予算超過なのか未達なのかそれはなぜか、その内訳はビジネス/エンジニア/オペレーションでどのくらいの比率なのか、有期無期の比率は、グレードの比率は、1人当たり粗利は、それらはあるべき理想に向けて順調に進んでいる状況なのか、どのくらいの投資余地があるのか、など。そういったことが今と未来で把握できていて、さまざまなシチュエーションの中でトレードオフの意思決定ができると、顧客やプロダクトを中心に見ているメンバーとの補完が噛み合うと感じます。

河合:やはり、「事業としてどういったリターンがあるのか、あるべきなのか」や、「そのために生産性はどうあるべきか」について意志を持って設計し、可視化をして曖昧さを残さないのは非常に強いポイントだと思います。採用や研修等、人事に関わる予算は、「事業×時間軸×その効果」を接続して継続的にトラッキングすることは難易度が高くなりがちです。こうしたチャレンジは素晴らしいですね。

HRBPは事業責任者と信頼関係を構築し真のパートナーになるべき

河合:最後に、大原さんが考える今後のHRBPの役割や、こういう人材はHRBPに向いていると思う要素を教えてください。

大原:「事業と人事は経営の両輪」や「経営者の最も重要な仕事は採用」など、人事の重要性を説く言葉は過去から現在に至るまで絶えることがありません。しかし、誰もが感覚値としてその重要性を理解しながらも再現性ある答えにはたどり着いていない状況なのではないかと感じています。

事業が生まれる数も成長速度も増していく中で、事業と人事の最適な関わりは重要度を増し、それを模索する試みは加速していくでしょう。人事にとってはこの流れはチャンスです。雑に言えば、今まで人事組織のピラミッドを上るか特定機能の専門性強化がキャリアパスだったところに、ゼネラリストとして事業インパクトを最大化するという新たな道ができます。決して簡単なことではないですが、人事は経営のど真ん中にあるという理想実現に挑戦する切符をたくさんの人が持つことができるのではないでしょうか。

どんな人が向いているのかは私自身もわからないですが、私自身が思っていることは「あなたは誰かが責任を持っている事業のサポート役をやっていないですか」「あなたも事業の責任者ですか」と、この問いに最後は集約されるのではないかと思っています。この問いの難しさに散々向き合った末、”Yes”の要素を少しでも高められるようになっていきたいです。

河合:事業部側とHR側という二言論での分割ではなく、あくまで純粋に一緒にビジョンや事業推進を目的においていらっしゃいますね。だからこそ、事業責任者と信頼関係を構築し真のパートナーと言えるようになるという印象を受けました。本日はありがとうございました。

 

著者プロフィール

上野智

Writer

1986年長野県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、編集プロダクションに在籍し『週刊SPA!』や『ダイヤモンドZai』などでコンテンツを製作。 株式会社カカクコムを経て、株式会社ビズリーチ(現ビジョナル・インキュベーション社)のWEBメディアBizHintの企画や編集を担当中。

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