システムと組織は表裏一体。タイミングの見極めがカギ|TECH TEAM BUILDERS #7 READYFOR CTO 町野氏・VPoE 伊藤氏

2011年3月、日本初のクラウドファンディングサービスを立ち上げたREADYFOR。サービス開始から8年目にあたる2019年、同社は本格的なテックカンパニーになるため大きく舵を切りました。今回登場するのは、READYFOR初の技術役員として参画した取締役CTOの町野明徳氏と、エンジニア組織づくりを担うVPoEの伊藤博志氏のおふたり。両氏はいかにしてREADYFORをテックカンパニーへと導こうとしているのでしょうか。事業フェーズの変化とエンジニア組織の変遷と合わせ、お話しいただきました。

READYFOR株式会社  取締役 CTO
町野 明徳氏

東京大学理学部物理学科卒。同大学院在学中に電子書籍分野での起業をして以来、複数のスタートアップの事業立ち上げに携わる。2012年11月、スマートニュース社の初期メンバーとして参画。急拡大する組織の中で、技術を軸に幅広い業務を担当。その後、自動運転やブロックチェーン等、新技術を扱うプロジェクトを経て、2019年1月よりREADYFOR株式会社取締役CTOとして参画。
https://www.wantedly.com/id/amachino

READYFOR株式会社 VPoE
伊藤 博志氏

ゴールドマン・サックス テクノロジー部に新卒入社後、 アジア太平洋地域における自己勘定取引会計アプリケーション開発チームのテクニカルアーキテクト、 基盤技術開発チームのVP/シニアエンジニアを歴任する。その後、フィンテック系スタートアップ2社を経て、2019年10月に現職。想いの乗ったお金の流れを増やすため、主にエンジニアの組織づくりとアーキテクチャ設計全般に関わる。
https://www.wantedly.com/id/itohiro73

エンジニア職に閉じない組織再編

READYFOR 町野

——本日はお時間をいただきありがとうございます。まずはCTOとVPoEとしてのミッションと管掌範囲からお聞かせいただけますか? 

町野氏(以下、敬称略) 私も伊藤も2019年に入社して以来、毎年のように職域が変わっているので、まずは時系列に沿って説明します。READYFORのテックカンパニー化は、私たちが入社する前、2018年の半ばから動き始めました。私たちが入社する以前の話です。READYFORの更なる成長を目指すためには、プロダクトを支えるエンジニアリング力の強化が欠かせないと判断。資金調達実施のタイミングに合わせて、技術投資を加速させるべく私もCTOとして参画しました。当時、システム規模に対してエンジニア比率は小さく、技術役員は不在の状況。テックカンパニーと呼べる状態にまで持っていくにはいくつもの課題を乗り越える必要がありました。

——具体的にどのような課題があったのでしょうか?

町野 まずは組織の構造的な課題です開発部門とビジネス部門は、社内で「受発注」の関係性に近くなってしまっていて、エンジニアは機能要求や目に見えるバグ潰しの依頼に応える役割に留まっていました。組織を挙げたエンジニアリング力を強化するには、開発プロセスや組織体制をプロダクトドリブンな状態に進化させる必要がありました。

——どのような取り組みから始められたのですか?

町野 エンジニアチーム内に限定して開発プロセスを見直すだけではなく、プロダクトマネジメント、カスタマーサービス、マーケティング部門などに跨る形で、幅広い組織再編を実施しました。プロダクトづくりに携わる全メンバーのミッション、業務プロセスを再定義すべきだと考えたからです。

——一般的なCTOの立場から想起される役割とは大きく異なりますね。

町野 そうかも知れません。企業によって役割が異なる部分もあると思いますが、CTOは会社や事業をテクノロジーの観点で伸ばしていくことに経営責任を負う立場です。狭義のエンジニア職に捉われず、全体最適を意識して取り組んでいました。そこからおよそ半年間にわたって、各職種のミッションと開発プロセスの関わり方を明らかにした上で、最適な業務プロセスに落とし込む作業に時間を費やしました。

——その過程で伊藤さんがご入社されたわけですね。

町野 はい。組織再編と役割の再定義と並行して、分担された役割を担っていくマネジメント層の採用を進めました。ゴールドマンサックスやフィンテックベンチャーで経験を積んだ伊藤や、複数の起業経験を経てヤフーで事業責任者を務めていた岡元淳(現執行役員・プラットフォーム本部長)たちの参画に合わせて、役割分担が進んでいきました。

——ありがとうございます。続いて伊藤さんの役割を聞かせてください。

伊藤氏(以下、敬称略) はい。私も入社以来、ずいぶん役割が変わっているので最初からお話しします。私は、町野のもとに部門が集約した後、徐々に分散化が始まったタイミングで入社しました。具体的にいうと、エンジニアチームをフロントエンドチームとバックエンドチームにわけ、それぞれの技術的負債の返済に取り組み始めていたタイミングです。そのため入社から数カ月間は、VPoEとしての役割に加え、専任の現場マネージャーがいなかったバックエンドチームのマネジメントにも携わっていました。

——当初は現場のマネジメントも兼務されていらしたんですね。

伊藤 はい。次の大きな変化は翌年の2020年1月。エンジニアの数が10名を超えたのを機に、エンジニアチームの組織体制を、専門性に基づく「Chapter」と、開発ミッションごとの「Squad」からなる、マトリクス型のSpotifyモデルに移行したタイミングです。私自身も後任が決まるまで、決済や会計、インフラのSquadチームのリードを兼任していました。今はエンジニアリングパワーを最大化するために何ができるか、VPoEとしてエンジニアチームの組織づくりとアーキテクチャー設計に従事しています。

町野 そういう意味では2019年いっぱいは組織再編に向けた土台づくりのフェーズ、2020年からの1年間は、その後に採用したマネージャーたちへ権限を委譲していく期間という分け方ができると思います。

職種の垣根を超え「乳化」した状態を目指す

READYFOR 伊藤

——町野さんがご入社された2019年1月の段階でエンジニアは5名だったそうですが、2021年2月の今、エンジニアは何名いらっしゃいますか?

伊藤 町野と私を除くと、2月で18名、4月に23名になる予定です。

——ここにきて急速に増員されているのですね。2020年1月に行われたSpotifyモデルへの移行がうまくいっている証しなのでしょうか?

伊藤 はい。ただ、2020年以降も組織の見直しを小まめに進めていて、今年になってからそれまでエンジニアリング部に集約していたエンジニアを、プロダクトマネージャーやデザイナーが在籍するプロダクト部にも置くようになりました。

——なぜでしょう?

伊藤 READYFORのビジョンは「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」ことであり、「想いの乗ったお金の流れを増やす」ことをミッションとして掲げています。この実現には、「フロントエンド」や「バックエンド」といった技術ドメインの基盤を整えるとともに、プロダクトの価値創出に注力する機能ドメインでのエンジニアリングにもフォーカスする必要があるからです。

READYFORでは組織全体にエンジニアリングが浸透している状況をつくるべきだと考えています。水と油も一定の条件下では混じり合うことができます。私たちが目指しているのもまさに、職種や部門の壁を越え、エンジニアリングが組織に溶け込んで「乳化」した状態。これは先ほど町野が触れた、同じミッションを共有するSquadチームをつくったSpotifyモデルを採用した意図と同一線上ある取り組みといえます。

——では、組織再編と並行して実施されたという、採用についてはいかがでしょうか? 事業フェーズや組織形態の変化によって、採用基準が変化するようなことはあったのでしょうか?

町野 組織の急拡大を支えるため、マネジメントロールから重点的に採用を進めていき、徐々にさまざまな専門性を持つメンバー採用へと軸足を移していきました。一方で変わっていない点もあります。それは、READYFORのミッション、バリューへの共感を重視する姿勢です。これは私たちが入社する以前から一貫して変わっていない採用基準です。

——採用においてカルチャーフィットを重要視されていることは、御社の社会的使命や存在意義への理解や共感を指していると思います。エンジニア独自の組織文化、開発文化についてはいかがでしょうか?

伊藤 先ほどご紹介したREADYFORのVision、Mission、Valueを、エンジニアチーム向けに更にブレイクダウンしたものがあります。2020年7月にまとめた、「Tech Vision」と「Tech Value」です。面接や面談の際には「想いをつなぎ、叶える未来を、つくる」という「Tech Vision」と、7つの行動指針からなる「Tech Values」を念頭に置き、READYFORの価値観に合う方かどうか、質問を重ねて判断するようにしています。

——おふたりが入社されてから、かなり精緻かつ、体系的に対処されるようになったのですね。

伊藤 それでも、組織構造や役割において言葉にするのが難しいニュアンスや解釈の違いはどうしても残ります。細かくルールを定めたり、一字一句、明文化したりすればいいように思われるかも知れませんが、それだと行間から大切なものがこぼれ落ちてしまいます。実績だけでなくポテンシャルも大事にしたいので、このバランスを取るのは中々難しいというのが正直な感想です。少しずつ微調整を施しながら1年ほどかけてようやく形にしましたが、これからも試行錯誤は続くでしょうね。

町野 ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)やOKR(目標管理)の設定などもそうですが、詳しく書けば書くほど、ミッションは明確になる反面、「ここに書かれていないことはやらなくていいんだ/やってはいけないんだ」という誤った受け止められ方をしてしまう可能性があります。そうした部分については、関係者同士で時間をかけて話し合い、認識を合わせるほかありません。仕組み化はゴールというより、伊藤のいうように、むしろスタートに過ぎないのだとつくづく感じます。

組織改革もシステムのリファクタリングもタイミングが重要

READYFOR

——採用手法に関してはいかがでしょうか? 組織の変化に合わせて変えた点があれば聞かせてください。

伊藤 2020年前半は、まだまだエンジニアコミュニティにおけるREADYFORの認知度が低かったため、エンジニア採用に関してはエージェントからの紹介やスカウト経由での採用が大半でした。2020年以降は、テックブログの立ち上げや、オンラインイベントなどへ露出を通して、エンジニアチームのブランディングに注力しています。少しずつではありますが、READYFORがテックカンパニーになろうと努力していることを知ってくださっている方が増えているようです。今後はリファラル採用や直接応募の比率を高めていければと考えています。

——テックカンパニーに生まれ変わる土台が整い、今年前半でエンジニアが20名を超えますね。現在の採用ニーズについても聞かせてください。

伊藤 エンジニア採用が順調に進んでいるので、今後はエンジニアリングマネージャーやテックリードなど、Squadの運営を任せられるミドルマネジメント層の獲得を強化しなければなりません。近々Wantedlyで、リーダークラス、マネジメントクラスのエンジニアに訴求する記事を書こうと思っています。

——設立間もないスタートアップや、御社のようにテックカンパニーへと舵を切った企業の中には、エンジニアの採用に苦しまれているところも少なくありません。それぞれのお立場からこうした企業にアドバイスをお願いできますか?

町野 業種業態、事業フェーズ、経営者がエンジニアリング経験者かそうでないかなど、企業の成り立ちや背景、歴史は千差万別です。しかし組織に働く力学は、国家であろうと企業であろうとその他のコミュニティであろうと変わりありません。10人の組織には10人の組織に起こりがちな課題があり、100人なら100人、1000人なら1000人の組織が直面しがちな課題はあります。成り立ちこそ違えど、同規模の企業がどのような課題に直面し、どうやって克服したかを知るのはとても有益なのは間違いないでしょう。書籍やWebなどで過去の事例をあたるのもいいですし、知人のつてなどをたどって当事者に話を聞くなどすれば、きっと参考になるヒントが得られると思います。

とくに、人数規模が数十人を超えてくる辺りから、組織の中で様々な「境界」を引く必要性が生じます。これが非常に難しいところで、適切な「境界マネジメント」をすることが組織をスケールさせる上での肝だと思っています。

伊藤 システムを設計する組織はその組織構造をそっくり真似たアーキテクチャを生み出してしまうという指摘があるのをご存じでしょうか。これを「コンウェイの法則」と呼ぶのですが、たとえば、エンジニアの数が少なく開発リソースが乏しいのに、一足飛びにモノリシックなシステムからマイクロサービス化を推し進めたり、マトリクス型の組織体制を導入したりしても、大きな効果は見込めないどころか、かえって現場の負担を招くことになってしまいます。

町野 理想のアークテクチャーに近づくため組織形態を先行して改める「逆コンウェイ」戦略を採るにしても、段階を踏みタイミングを計ることが重要です。ベストプラクティスだからといって無闇に飛びつくべきではありません。未来のあるべき姿を構想した上で、そこから逆算して今やるべきことを決めるべきだと思います。

<町野氏・伊藤氏推奨。シード期、アーリー期の技術責任者にお勧めする情報源>

『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(馬田 隆明 著)
お勧めしたいポイント:私たちがテクノロジーを用いて大きな社会課題解決をしていくためには何が必要なのか、視野を広げてくれる1冊です。「インパクト」を意識したロジックモデルは、どのような事業やプロダクトに対しても役立つツールになると思います。

 

『エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』(広木 大地著)
お勧めしたいポイント:プロダクト開発は不確実性との対峙の連続です。初期のスタートアップにおいては、更にそれが顕著であり、不確実性との戦い方を知っておくことは非常に大切です。エンジニア以外にもおすすめの1冊。とくにChapter 4「学習するチームと不確実性マネジメント」がオススメです。

 

『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』(Melissa Perri著)お勧めしたいポイント:プロダクト開発に関わる人なら一度は必ず陥ったことのある「顧客に価値を届けるという本質を忘れ機能をリリースすることに意識がいってしまう」状態を避けるための戦略や型を体型的に学べる1冊です。

 

「Measure What Matters(メジャー・ホワット・マターズ) 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR」(ジョン・ドーア 著, ラリー・ペイジ 著)
お勧めしたいポイント: スタートアップの組織が成長するフェーズではいかに全員の目線を合わせるかが大切です。そのために有用な目標設定のフレームワークの一つであるOKRの、根底にある思想やプラクティスを理解するにはこの本がオススメです。

著者プロフィール

武田敏則

Writer

株式会社グレタケ代表取締役ライター。デザイナー、広告制作ディレクター、情報誌編集長などを経て2006年に独立。 ウェブ、雑誌、書籍のインタビューライター兼編集に。経営、ビジネス、採用、テクノロジーの裏にあるエモい話が好物です。

タイトルとURLをコピーしました