連載「安武社長、本音聞いてもいいですか?」第19弾のテーマは、会社にAIが浸透しないのは誰のせいか、です。AI研修やDX支援で色々な会社と関わる中で、安武さんが繰り返し聞くようになった悩みがあるといいます。導入はしている、でも広がらない。その溝の正体を聞きました。
ー研修やコンサルで他社と関わる中で、最近よく聞く悩みは何ですか?
「AIを導入したはずなのに、全然変わらない」という声ですね。
調べてみると、日本企業のAI導入着手率は8割を超えているらしいんです。でも「期待した成果が出ている」と答えた企業は2割程度しかいない。製造業に絞るとさらにはっきり出ていて、着手している会社は9割近いのに、実際に現場へ定着しているのは1〜2割くらいという調査もあります。
着手と定着の間に、結構大きな溝があるんですよね。数字だけ見ると、ほとんどの会社がもう動き出しているように見えます。
ーなぜそんなに溝があるんでしょうか。最初によく聞く理由は何ですか?
「機密情報があるから」「規制があるから」ですね。これはよく聞きます。
半分は正しいと思います。データとかノウハウとか、扱っているものの機密性は確かに高い。でも、機密情報を抱えている金融業界って、AI活用のスピードは速いんですよ。そう考えると情報の機密性だけじゃ説明がつかないですよね。
製薬業界を例にすると、実際、治験まわりの対応にうまくAIを組み込んで、工数をかなり減らせている会社もあるみたいなんです。機密を理由に止めている会社と、機密を守る前提でちゃんと設計してから動いている会社がある。差はそこですよね。
要は、使わない理由として機密情報を挙げているだけで、本当の問題は別にあるんだと思います。慎重さを前提にした設計をする意思と、それをやりきる組織の力が足りていない。規制も同じで、「規制がクリアになるまで動けない」って、規制のせいにして判断を止めているだけだったりします。
ー経営層は意外と前向きに動いているところも多いんですよね?
はい。そこがちょっと意外なところなんです。
成果を出せている会社は、経営層自身が使っているケースがかなり多いんです。トップがAIに前向きで、「どんどん使え」って号令もかけている。それなのに現場までは全然届いていない会社も同じくらいあるんですよね。
これは勝手な推測なんですけど、経営者と現場の間にいる層のどこかで止まっているんじゃないかと思っています。経営者は使っている、若手も興味はある、でも間に挟まっている中間管理職だけ動きが鈍い、みたいな構図です。
はっきりした理由があるわけじゃないんですが、自分のチームの評価や工数を背負っている立場だと、AIで仕事が楽になったことが見えるのを、少し怖いと感じる人もいるのかもしれません。部下に勧めるには、まず自分が使っていないと説得力も出ないですし。号令はあるのに現場まで届かない会社って、たぶんこのあたりに原因があるんじゃないですかね。
ーその中間管理職の心理、安武さん自身にも心当たりはありますか?
立場は違いますけど、あります。
うちは全社の数字を開示しているので、AIの利用料も同じように見せているんです。これについては、以前わりと詳しく話したと思うんですが、ある月に請求額を見返したら、従量課金だけで想定より大きく膨らんでいたことがあって。見せない運用にする選択肢もあったんですが、全部見せて、原因まで含めて説明したら、メンバーも意外と納得してくれました。
もし数字を見せない運用だったら、自分も「都合の悪いところは触れない」という選択をしていたかもしれないです。中間管理職だけが悪いわけじゃなくて、見せなくていい設計になっている会社の方が多いんだと思います。
ー個人の問題だけじゃなくて、会社の仕組み自体に壁があることもありますか?
ありますね。よく見るのが、AI導入をIT部門に丸投げしてしまっているパターンです。
うまくいかなかった会社の8割近くが、経営課題とシステム投資を切り離して、IT部門任せにしていたらしいんです。現場からすると、「何のために入れたAIなのか」が伝わらないまま、ツールだけ降ってくる感じになります。これだと、誰も自分ごととして使おうとしないんですよね。
あとは、部門ごとにデータを抱え込んでしまっていることも多いです。営業部門のデータは営業部門だけが持っていて、他の部署からは触れない、みたいな。横断的に使おうにも、そもそもデータがつながっていない。地味ですけど、これも結構大きい壁だと思っています。
ー成功している企業に共通するものは何ですか?
正直、全部大事なんですけど、一番は経営層やマネージャー自身が使っていること。号令だけじゃなくて、背中で見せられているかどうかです。
あとは業務プロセスをAI前提で組み直しているか。今の仕事にAIを足すのと、流れそのものを変えるのは全然違う話なので。それから、いきなり全社展開しようとせず、小さく始めて数字で証明しているか。研修も、知識として教えるだけじゃなくて、その場で成功体験を作る設計になっているか。だいたいこの辺りを押さえている会社が、うまくいっている印象です。
格差の正体って、知識の量じゃなくて体験の量なんですよ。使ったことがある人とない人の差は、研修を受けたかどうかじゃなくて、自分の手で一回うまくいった経験があるかどうかで決まります。
ー若手の立場からすると、会社がなかなか動かないのはもどかしいと思うのですが……。
それはもどかしいと思いますよ。
ただ、会社が動くのを待つ前提で考えると、たぶん待ちきれないです。経営層が動いていても、間の層で止まるくらいなので。
だから、会社への浸透を待つより先に、自分が小さく使い始めて、周りに見せる側に回る方が早いと思っています。研修でも体験設計が大事だという話をしているのですが、それって会社がやってくれる前に自分でやってもいい。うまくいった小さい成功を一つ見せられると、周りの空気って意外と変わるものです。個人的な感覚ですが、IT部門に丸投げされている会社だとしても、一人が小さく結果を出せば、それが横のデータサイロを飛び越えるきっかけになったりもする気がしています。
それでも何も変わらない会社ももちろんあります。号令はあるのに中間層で止まったまま、何年も同じ状態の会社だって実際にある。そのときは、環境を変えるという選択肢があることも知っておいてほしいです。
・・・
安武さん、今回もありがとうございました。経営者が使っていても広がらない、という話は意外でした。次回のテーマもお楽しみに!
\\バックナンバー//
Vol.1 Vol.2 Vol.3 Vol.4 Vol.5 Vol.6 Vol.7 Vol.8 Vol.9 Vol.10 Vol.11 Vol.12 Vol.13 Vol.14 Vol.15 Vol.16 Vol.17 Vol.18
特別編はこちら
\\ 情報発信中 // 安武さんSNSアカウントはこちら