従業員エンゲージメントを向上させる戦略の重要性と立て方、トレンドを解説

従業員のパフォーマンスを高め、離職率を抑える上で重要になるのが従業員エンゲージメント(従業員と会社の結びつきの強さ)です。従業員エンゲージメントを高める際は、戦略的に施策を講じていくことで、その効果を最大化できます。

今回は、従業員エンゲージメントを高めるために意識すべき4つのPや、具体的な戦略の立て方などを解説します。

従業員エンゲージメントを向上させる「戦略」の重要性

従業員エンゲージメントを向上させるには、場当たり的に施策を試すのではなく、戦略を立てて取り組みを行うことが重要です。この戦略は、従業員エンゲージメントを向上させるための一連の取り組みの指針となるものであり、全体を包括する基本的な考え方に当たります。

なお、戦略は具体的な施策とは異なる点に注意が必要です。まずは「従業員エンゲージメントを向上させる戦略が、なぜ重要性を持つのか」について把握しておきましょう。

人的資本経営の実現につながる

人的資本経営とは、人材を「資本」と捉えて投資の対象にし、企業価値を高める経営のことです。人的資本経営を実現させると、投資によって人材が育成され、その人材によって事業やアイデアが生み出され、企業価値が高まっていきます。その結果、企業経営の好循環が生まれるため、近年、重要視されている経営手法です。

日本では、2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されたことで、本腰を入れて取り組む企業が増えています。

そして、従業員エンゲージメント向上の取り組みは、内閣官房が発表した「人的資本可視化指針」において、人的資本経営の指標の一端として位置付けられています。従業員エンゲージメントを向上させ、最終的に企業価値を高めるところまで持っていくには、現状の課題に基づく戦略設計が欠かせません。

出典:内閣官房「人的資本可視化指針

施策の効果を最大化できる

従業員エンゲージメントを向上させるために戦略が必要なのは、施策の効果を最大化できるからです。

従業員エンゲージメントの向上を妨げている課題などを分析しないままでは、最適な施策が実施できません。そうなると、十分な効果が得られず労力だけかかってしまうという結果になります。また、従業員の実態に合わない施策は形骸化してしまうでしょう。

例えば、柔軟に臨機応変な対応が求められるカスタマーサポートの部署で、厳格な決裁手続きを求めてしまうと、従業員は最善と思える対応ができなくなります。このようなオーバーコンプライアンスに陥ると、かえって従業員エンゲージメントを下げるおそれがあることに注意が必要です。

施策の効果を最大化させるためには、従業員を取り巻く課題や組織の体制を踏まえた戦略設計が重要となるのです。

従業員エンゲージメント戦略は4つのPで考える

従業員エンゲージメントの戦略を考える際にポイントとなるのが下記の4つのPです。

・Philosophy(理念・方針)
・Profession(仕事の内容・成長)
・People(人材・風土)
・Privilege(待遇・特権)

いずれの要素も、高めることで従業員エンゲージメントの向上につながります。ただし、企業のリソースなどは限られているため、上記の4つのPをすべて高めるのは難しいケースがほとんどです。4つの中でも、特に自社が高めるべきPを決めて注力すると、結果を出しやすくなるでしょう。

Philosophy(理念・方針)

Philosophyとは、企業の理念や経営計画・ブランドなどといった「目標の魅力」のことです。従業員は、自分の属する企業やその経営陣・チームなどが目指すところ・姿勢に共感できると、業務に対するモチベーションが上がります。高いモチベーションで仕事に取り組めることで、組織に対するエンゲージメントも向上します。

Profession(仕事の内容・成長)

Professionとは、事業優位性や仕事のやりがい・商品サービスなど「活動の魅力」のことです。例えば、日々の仕事を通じて自身の成長を実感できる場面が多いと、従業員はやりがいを感じられます。やりがいのある仕事を長く続けたいと考えるようになる結果、従業員エンゲージメントの向上につながります。

People(人材・風土)

Peopleとは、経営陣や仲間・組織風土など「組織の魅力」のことです。例えば、職場の先輩や同僚などとの人間関係が良好で楽しく仕事ができる環境や、風通しの良い風土で意見を尊重してもらえるといった環境があげられます。人材・風土が良好な企業では、従業員がストレスなく働けるので、エンゲージメントが向上しやすくなります。

Privilege(待遇・特権)

Privilegeは、給与や福利厚生・労働環境など「待遇の魅力」のことです。仕事量からみて十分な収入が得られる職場や、休みが取りやすい労働環境など、待遇が魅力的だと従業員エンゲージメントの向上につながります。

【戦略の立て方:ステップ1】組織状態に応じた戦略を設計する

従業員エンゲージメント向上のための戦略を立てるときに大切なのが、自分たちの組織状態に応じた戦略を設計することです。現状の課題が似ているからといって、他社の戦略や施策をそのまま模倣したのでは、従業員エンゲージメント向上は達成できません。

なぜなら、業界や各企業によってエンゲージメントの状態はさまざまであり、現在の状況に応じて最適な解決策も異なるからです。エンゲージメントが比較的高い組織で効果的だった施策を、まだエンゲージメントの低い組織で導入すると、逆効果になることもあります。

株式会社リンクアンドモチベーションの行った「2022年従業員エンゲージメント実態調査」によると、広告・情報通信サービスと機械・電気製品では、平均スコアに10ポイント以上の開きがありました。

各企業や各部署それぞれのエンゲージメントの段階に合わせ、時間軸も踏まえて、自社に最適な戦略をきめ細かく決めていくことが成功のポイントです。

従業員エンゲージメントの効果的な戦略を考えるなら

従業員エンゲージメントの向上を効果的に目指すなら、Wantedlyが提供する福利厚生パッケージサービスの「Perk(パーク)」の導入がおすすめです。

従業員とその家族が利用できる1,000以上のサービスを福利厚生として提供しており、メンバーそれぞれが特典を選べるため、従業員一人ひとりのニーズに応えやすくなります。

提供するサービスは、ビジネススキルの研鑽に役立つものから、プライベートの充実につながるものまで、従業員の幅広いニーズにフィットするラインナップです。Perk限定のお得な割引プランや、リモートワーク環境でも活用できるサービスの充実など、従業員満足度を高めるポイントが多くあります。従業員のエンゲージメント向上に役立つ制度構築が、スムーズに実現できるでしょう。

さらに、最小限のコストで導入でき、導入から利用開始までの流れもシンプルなので、手間や時間をかけずに福利厚生を取り入れることができます。また、組織の規模にあわせて最適なプランを選択できるので、無駄なく効率的に予算を充てられます。

Perkの資料を見る

【戦略の立て方:ステップ2】事業戦略と組織戦略をつなげる

従業員エンゲージメントは、単にエンゲージメントを向上させるだけではなく、最終的に、企業価値アップや事業目標の達成につなげることが重要です。

従業員エンゲージメントの向上によって企業の価値を高めるには、組織の課題を解決する戦略を事業戦略と連携させる必要があります。事業戦略、エンゲージメント向上を含む組織戦略をつなげて考えることで、企業活動全体を改善させられる施策が打ち出せるからです。

例えば、組織風土に問題がある場合に「コミュニケーションの活性化」といったピンポイントの施策では、企業価値の向上までは実現させにくいでしょう。しかし、事業戦略と絡めて人材の育成・採用、人事制度まで含めて変更する施策を行えば、企業活動全体を改善させて価値を高められます。

このように、事業戦略と組織戦略を連動させるには、下記の組織を構成する「5つのM」の視点から、齟齬のないように戦略を立てることが欠かせません。

事業戦略(Message)
  • 事業の実施を通じてアピールしたい理念や在り方など
  • 発信内容が明確で提供するサービスや商品に的確に反映されている必要がある
動機形成(Motivation)
  • 各従業員の意欲や、やる気、共感など
  • 従業員が共感するポイントを正しく把握し、やる気を出させる仕組みづくりをする必要がある
役割設計(Mission)
  • 従業員や部署間における権限や業務などの振り分け
  • 適切に役割を分担させ、各部署がスムーズに連携できるように配慮する必要がある
人材開発(Membering)
  • 人材の採用や育成、戦略的な登用や配置など
管理制度(Monitoring)
  • 予算と実績の管理、人事制度や報酬の管理、重点を置く経営指標の設定など

以上の「5つのM」について、企業全体・各部署・各チームなどさまざまなレベルにおいて、矛盾がないように設計することが大切です。組織の全体および部分で戦略が連動していれば、施策の効果を最大限発揮させられるようになります。

【戦略の立て方:ステップ3】企業の成長ステージを考慮した計画を立てる

企業には、大きく分けて、3つの成長ステージ「成長期」「安定・成熟期」「衰退・再成長期」があります。それぞれの段階において発生しやすい組織課題があるため、企業の成長ステージを考慮した計画を立てることが大切です。まずは、各ステージで考えられるリスクを把握し、先手を打つイメージで施策の計画を立てると良いでしょう。

従業員エンゲージメントの施策については、下記の記事でも紹介しています。

従業員エンゲージメントを向上させる施策とは?向上させるメリットも解説!

成長期における組織課題

成長期とは、立ち上げ後の企業が基盤を概ね固め、事業の方向性などが定まり、急速に成長していく時期のことです。このステージにある企業は「事業を拡大する」「従業員を増やす」「組織を細分化する」「まとまった資金を調達する」などのアクションに取り組みます。

やるべきことや人材などが急速に増える成長期において、起こりやすい組織課題の代表例は下記の通りです。

・業務の負担が一部の従業員や部署に集中する
・業務や権限などの役割分担が不明確になる
・属人化が起こりやすくなる
・意思決定のスピードが遅くなり、現場の従業員のモチベーション低下につながる
・中長期的な視点を持つのが難しくなり、成長した実感や達成感を得づらくなる

上記のような課題を避けるには、業務や従業員が増えるのと並行して、マニュアルや社内ルール・評価制度などを速やかに整備することが欠かせません。また、新しく増えた人材が速やかに戦力となれるよう人材育成の体制整備も行いましょう。

安定・成熟期における組織課題

安定・成熟期とは、事業や組織の拡大がある程度落ち着き、社内のルールやシステムなどが整理されて経営が安定する時期です。株式の上場や海外展開などを検討し始める時期でもあります。

組織や事業が体系化された安定・成熟期においては、下記のような課題に対して注意が必要です。

・独創性のある提案や新しいアイデアが生まれにくくなる
・複数の部署間での連携が難しくなり、事業のスピード感がなくなる
・組織内での横断的なコミュニケーションが乏しくなる
・画一的な評価になりがちで、各従業員の個性が評価されにくくなる
・既存の事業への注目が集まりにくくなり、担当する従業員のモチベーションが低下する

対策としては、「新事業のコンペ」や「部署間をまたぐプロジェクトの立ち上げ」に力を入れることがあげられます。また、「人事評価制度や社内ルールの見直し」なども有効です。

衰退・再成長期における組織課題

衰退・再成長期は、企業が成熟し、既存の事業だけでは競争力に物足りなさが出てくる時期です。このステージでは、組織内で明確になってきた課題を解決したり、新規事業を模索したりすることが求められます。

衰退・再成長期における課題の具体例は下記の通りです。

・組織内が縦割りになり、部署間の連携がスムーズにできない
・従業員同士のコミュニケーションが少なくなる
・前例踏襲が多くなり、新しい考え方が受け入れられにくくなる

対策としては、「コミュニケーションの活性化を図る施策を実施する」「新規の事業やアイデアを募集する施策」や「評価制度の見直し」などが有用です。

従業員エンゲージメントに関するHRトレンド

近年では転職が一般的になり、人材の流動性が高まっています。社会の在り方も変化が激しく、既存の従業員がモチベーション高く仕事をできるようにするためにも、採用市場で有利に立ち回るためにも、従業員エンゲージメントは重要です。

ここでは、従業員エンゲージメントの施策を検討する際に、押さえておくべき最近のHR(Human Resource)のトレンドを紹介します。

バリュー評価とノーレイティング導入

近年のHRでは、画一的な評価ではなく、個々の従業員の成果をより的確に評価できる制度がトレンドです。働き方が多様化し、年功序列制度なども維持しづらくなっている昨今、従来の業務成績を重視する評価では正しい評価が難しくなっているからです。

ここでは、「バリュー評価」「ノーレイティング制度」2つの手法について紹介します。

バリュー評価
  • 従業員がどのような行動で企業の理念・事業方針に貢献しているかを評価する方法
  • 企業文化の強化とチームワークの促進を通して、組織全体のパフォーマンス向上を狙うことができる
  • 組織の一体感が生まれやすく、人材の定着向上に繋がる
ノーレイティング制度
  • ランク付けを行わない人事制度
  • 従業員を数値で評価することを廃止し、継続的なフィードバックや対話を通じて成長を促す
  • 対話が基盤にあるので、変化の激しい社会でも柔軟に対応しやすくなる

バリュー評価やノーレイティング制度は、画一的でなく相対的な評価である分、評価者の中立性やマネジメント能力が重要になります。制度の導入時は、評価体制をしっかりと整備しておきましょう。

トータルリワードの考え方で採用に勝つ

トータルリワード(Total Reward)とは、「従業員への報酬は、金銭的な給与やボーナスだけでなく、非金銭的な報酬も重視すべきである」という考え方です。非金銭的な報酬の例としては、下記のようなものがあります。

・キャリアや能力を開発できる機会
・仕事に対するやりがいや面白さ、満足感
・充実した福利厚生
・働きやすい職場環境
・ワークライフバランスの取れた労働環境

上記の通りトータルリワードでは、従業員が労働の対価として得られる報酬は、金銭以外の快適な環境や目には見えないやりがいなど、より広範な要素を含むべきと考えます。

トータルリワードを採用すると、従業員は仕事を通して満足感や充足感を得やすくなるので、モチベーションを高く保って働き続けることが可能です。企業が求める人材を確保し定着させ、意欲を高める上で重要なHR戦略として機能します。

アダプティブラーニングとリスキリング

人材育成の領域で最新のトレンドなのが「アダプティブラーニング」と「リスキリング」です。いずれも従業員の能力を最大限引き出す上で、有効な育成方法といえます。

アダプティブラーニング
  • 従業員の個々の学習スタイルや強み、ニーズに合わせて教育プログラムを調整する人材育成方法
  • 効果的な学習で従業員の強みを伸ばして新たなスキル獲得に繋げられるので、企業の競争力を効率的に強化できる
リスキリング
  • 学び直しを意味し、新たな専門知識やスキルなどを習得させる育成方法
  • DX推進などデジタル化に伴い、ITに強い人材が必要となったことを背景に注目されるようになった
  • 従業員のデータリテラシー向上、AI活用スキル獲得など、テクノロジーの進化に呼応した能力開発により生産性向上を実現できる

育児・介護の両立支援

少子高齢化に伴う労働人口の減少を受けて、育児・介護と仕事の両立支援がHRで重要視されています。育児・介護の両立支援に力を入れておくと、ベテランの従業員が育児や介護を理由に離職するのを防げるからです。優秀な人材の確保が年々難しくなる昨今、既存の人材に長く働き続けてもらう施策は欠かせません。

育児支援について、最近は男性育休の取得促進に繋がる環境整備や制度運用が求められる傾向にあります。2023年4月から、男性の育休取得率の公表が義務化されました。ESG投資先や就職先・転職先として選ばれる企業であるために、より一層の男性育休サポートが必要になっています。

介護支援については、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」が最近の大きなトピックです。介護職員不足もすでに予測されており、従業員が何らかの形で介護に携わるケースが増えていくでしょう。企業としても、介護にかかわる両立支援体制整備が急務です。

メンタルヘルスの重視と職場環境の改善

従業員のメンタルヘルスの状態は、組織の生産性や従業員エンゲージメントに大きく影響します。そのため、メンタルヘルスの重視と職場環境の改善が重要です。

近年では、従業員の健康維持に配慮する「健康経営」の実践が経済産業省などによって推進されています。そのため、求職者や投資家から選ばれる企業になるために、メンタルヘルスケアは欠かせません。

さらに、メンタルヘルスが悪化すると離職や休職につながり、事業継続に支障をきたすリスクがあります。リスクマネジメントの観点からも、人事・労務部門が連携したメンタルヘルスケアが必須です。

まとめ

効果的に従業員エンゲージメントを向上させるポイントは、戦略的なアプローチです。Philosophy・Profession・People・Privilegeの4つのPを意識し、自社の状況に合わせた施策を戦略的に組み合わせていきましょう。

また、最新のHRトレンドを押さえた施策を取り入れることも、従業員エンゲージメント向上や投資家対策として重要です。さらに、従業員の多彩なニーズを満たせる福利厚生サービスを組み合わせれば、労力を抑えてエンゲージメント戦略を立てることができます。

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