こんにちは。マネーフォワード広報の青木です。
気づけばもう2月。2018年も1か月が過ぎましたね。そんな毎日の中で、巷に溢れるFintech関連のニュース。色々あるけれど、今月は何が起こったっけ...?
今月より、当社Fintech研究所長の瀧に、毎月のFintechニュースを振り返ってもらいます。今月のトピックスは以下です。
1. FOLIOがLINE社等より70億円を調達
2. G20にて、仮想通貨の国際規制について提案
3. 米レンディング大手SoFiの新社長はTwitterの元COO
おまけ:現金がないと怖いなと思った話
追記:コインチェックの件について瀧より
それでは瀧さん、よろしくお願いします。
※本インタビューは2018年1月25日(木)午後に実施いたしました。
1. FOLIOがLINE社等より70億円を調達
青木:瀧さん、なんでスマホみてるんですか。
瀧:なんかPCが返事してくれなくて...。ちょっと待ってください。
青木:(笑)。今月から瀧さんにFintech関連のニュースの振り返りをお聞きしていきたいと思います。毎月です、たぶん。
瀧:たぶん(笑)。はい、よろしくお願いします。
青木:よろしくお願いします。では早速ですが、まずはFOLIOさんの資金調達について。私も気になってました。
瀧:これはね、すごいですよ。70億円は、シリコンバレーでも「でかいな」という感覚の金額だと思います。マネーフォワードは、非上場時代に総額約15億円を調達させていただきましたが、ワンショットでこれ以上だとgumiさんの総額50億円調達、メルカリさんの場合は総額126億円という規模でした。
青木:当時はそれもすごいと思いましたが、今回は70億円です。当社がロボアドバイザーのお金のデザインさんに出資させていただいたのが2015年12月ですが、今回のFOLIOさんはテーマ投資というジャンルですね。
瀧:2015年頃は、まだロボアドバイザーのサービスがそれほどなく、マネーフォワードとしても黎明期の業態を応援したい想いがありました。それ以来、お金のデザインさん、ウェルスナビさん、トラノコさんなどが順調に成長していく中、FOLIOさんは独特だと思っています。
青木:「独特」というのはテーマ投資でしょうか。
瀧:FOLIOさんが提供しているテーマ投資というジャンルは、いわるゆロボアドではないのが面白いです。この会社は経営陣もすごいですが、デザイナーの広野さんが、すごくブログを書くのがうまいんです。僕もFintech界隈のブロガーのはずなんですが...とても追いつけないクオリティです。
青木:サービスのUIもかっこいいですね。なんだか楽しく株を買えそうです。
瀧:そうなんですよね。
青木:楽しい投資サービスって素敵ですね。
瀧:Fintechサービスを通じて、初めて投資した人って増えたと思うんです。また、「ロボアドを始めてから、日経新聞を読み出した」という方もいらっしゃるんです。マネーフォワードのユーザーさんにもそういう方がいらっしゃいます。
青木:投資を通じて、世の中に興味を持つようになるということですね。マネックス証券会長の松本さんと辻さんの対談でもそういったお話が出ていました。
瀧:個別株を持ったり、投資したりすることで、社会と繋がりを持つようになるんです。その中でもテーマ投資というのは、投資になじみがない人にも興味を持ちやすいと思います。例えば、「リニア新幹線」と言われた方が、個別の社名を言われるより興味を持ちやすいんじゃないかなと。
青木:確かに。興味のあるジャンルだったら、投資をやってみようという気持ちになるかもしれません。
瀧:そういった意味で、テーマ投資は、人と社会の接点を生み出す、新しい資産運用の形かもしれないと考えています。
青木:海外ではこういった投資は一般的なんでしょうか?
瀧:海外ではMotif Investingというテーマ型投資サービスがあります。資産運用や証券の分野で収益を得るには、口座に多くのお金を入れていただくか、多くのお客さまを集められるか、或いは投資する人たちのツールになることで利益を得るか、というモデルになります。ただ、いろんなモデルがある中で、しっかりお客さまのリテラシーを上げてスケールしているサービスって、ありそうで中々ないんです。
青木:FOLIOさんはそこが異なるかもしれないと?
瀧:はい。もちろんそういった方針の会社はありますが、そもそも利益が大きくなるのは、多くの人が売買して相場が大きく動く時です。従来の証券投資の楽しさ、激しさ以外で投資をやっていくことができるとしたら、マーケットはより多くの人に開かれていくと思います。
他にもアメリカには、無料で投資ができるのが特徴のRobinhoodというサービスがあります。これがすごいのは、今まで投資しなかった人達が「Robinhoodかっこいい!夕食は自炊してFacebookの株を買う!」みたいな温度感で投資し始めたんです。そんな風にセグメントが異なるユーザーを開拓できているのは、面白いですね。
青木:Robinhoodを使うことがかっこよさになっているということでしょうか?
瀧:そうです。これは非常に社会的に意味があると思います。ECを使いたくなかった人が、ZOZOTOWNだったら使おう、となったようなイメージです。買い方がわからなかったものを買える形、わかりやすい形で提供したというのは、Robinhoodの一番の価値だと思います。
青木:アメリカの場合、そもそも日本よりも投資人口が多そうですね。
瀧:アメリカでは401Kを含めると43%以上の人が投資信託を持っているという統計データがありますが、日本では16%と言われています。それは株式だと13%ですが、その中には国営企業の民営化や生命保険会社の株式会社化などを通じて保有した人達も、多く含まれていると思います。
自国市場に向けて、意識的な投資が行われている度合いはまだとても低く、それを伸ばしていくことはとても重要です。今回、FOLIOさんはそのあり方を、LINEさんと共にどのような成長ストーリーにしていくか、いちウォッチャーとして今後の展開がひたすら楽しみです。
青木:LINEの中で投資できたら楽しそうです。改めて、LINE社はなぜ出資したんでしょう?
瀧:昨年は、同じようにUIフレンドリーな株式投資を提供されているOne Tap BUYさんがソフトバンクさんやYahoo!さんなどから大きな増資をされるという動きがありました。One Tap BUY社は、株式のことが大好きな方々がサービスを開発していまして、こちらも初めての投資のハードルをとても下げられるようなUIになっている印象です。当社のとあるメンバーは、これで人生初の投資をしたとも言ってました。
青木:昨年の振り返りニュースでもメガベンチャーがFintechに本腰を入れてきているという話題に触れていましたね。
瀧:そうです。メガベンチャーがこういった投資分野のFintechにも力を入れ出している動きにも関係しているかなと考えています。One Tap BUYさんやFOLIOさんの件を含めて、新時代のネット証券ともいえる動き、非常に興味深いですね。
2. G20にて、仮想通貨の国際規制について提案
青木:次はG20における仮想通貨の議論ですね。
瀧:G20というのは主要国の会合ですが、元々ここで2017年12月頃にフランスの財務大臣が、暗号通貨の代表格であるビットコインの規制についての議論をするという予告をしていました。
青木:なるほど。
瀧:仮想通貨については、資産の保全や投資家保護など、様々な規制の観点がありますが、G20の議論の中心になるのは、ビットコインがテロ資金に使われないかという点です。ビットコインはいかに支払い手段として優れているかという議論がありますが、もし支払手段として優れているのであれば、それはテロリストにとっても嬉しい決済手段になってしまいます。世界的には、長らくリスクとしてはそちらの観点がありました。
ビットコインは取引履歴が検証できますが、海外では、実際に犯罪者やテロリストに渡っている例もあります。テロ対策の最たるものは、悪い人が怖いものを買えないように、資金ルートをちゃんと封じることなんです。そこでビットコインが利用されないよう、もう一歩進んで考えようと動き始めて、フランスの財務大臣とドイツの財務大臣代行が先週の18日に記者会見したという報道が出たのが1月19日です。
青木:こちらの記事ですね。
瀧:実際にG20の会合が行われるのは3月19日、20日ですが、そこに向けてなんらかの動きが出ると予想されます。
日本でのビットコインの規制については、2014年のマウントゴックスの破綻や、国際的なテロ及びマネーロンダリングなどを防ぐ作業部会の流れを受けて、世界にも先駆けた整備が進められてきました。そして、今はいろいろな事業会社が取引所の登録申請をしていて、その列は数十社にも及んでいる状況です。
青木:そんなに多くの事業者の順番待ちがある状況なんですね。
瀧:取引所として登録するには、お客さまがテロリストではないかを確かめる必要があります。そのために本人確認の手続きが必要で、転送不要郵便などが用いられています。ただ、それ以外にも海外のテロでは、大元のお金の移転方法がプリペイドされた電子マネーだったケースもあるんです。
青木:プリペイドの電子マネーがテロに使われるんですか...。
瀧:30万円ほどあれば、ある程度のアクションを起こせてしまいますからね。そういった観点もありますが、ビットコインが犯罪者に渡ってそれが現金化されると、足がつかなくなるという点が心配されてるのです。
しかし、国際的にもいくつかの国が徴兵制に言及したりしている中で、国防上のリスク、テロ対策の重要性を再認識している印象があります。フランスなどは、ニースのテロなど被害者の立場でもありますので、様々な要請から問題意識が高くなるのは当然かと思います。
青木:確かにマネーロンダリングやテロ防止の絡む仮想通貨のニュースは増えた気がしています。
瀧:そういう意味では日本は早めに制度整備をしてきましたし、取引所自体も制度として認識もされています。ですから、ビットコインに関しては、何もない状態から比べたらテロで使われるリスクは下がったはずです。しかし、引き続き世界的には警戒心が高い対象だと思います。
青木:最後のトッピクスが、Twitterの元COOのアンソニーノート氏が米SoFiの新社長に就任というニュースですね。
瀧:おっ...SoFiのコーポレートサイトが落ちてますね。SoFiはアメリカのマーケットプレイスレンディングの会社で、学生ローン借り換えでは全米最大手、ローン残高は40億ドルを超えています。おもに、学生ローンの借り換え、住宅ローンの借り換え、個人ローンなどを提供しており、雇用歴を考慮に入れた独自の引き受け手法で、他ではないユニークな金融商品を提供しています。あと、最近は提携銀行と預金の受け入れも始めています。
青木:なるほど。そこが従来の金融機関と異なる点なんですね。
瀧:元々レンディングの最大手としては、アメリカのFintechの象徴だったLending Clubという会社があります。その社長が不透明とみられる取引が原因で、2016年5月に辞任をしましたが、その時に「こういう業界は襟を正さないとダメだ」という雰囲気になったんです。業界全体が反省をして、自主規制が始まっていました。ただ、SoFiに関してはそういった問題はなく、ソフトバンクさんも投資している会社でした。
青木:興味深い会社です。
瀧:しかし、昨年9月、創業者のマイクカグニーが女性に対して不適切な行為を行ったという報道がなされたんです。少しFintechから話は逸れますが、現在シリコンバレーでも色々な所で行われてきたハラスメントが明らかになり、その問題性の高さが取り上げられているんです。
青木:最近取り上げられていたハリウッドだけではないのですね。
瀧:ひと昔前は、ウォール街の人たちが"ウルフ・オブ・ウォールストリート"みたいなイメージでみられていて、一方でテクノロジー界隈の人たちは、フラットな環境でものづくりをするんだ!というイメージだったんです。ただ、おそらくこれは、8〜9年前のシリコンバレーのイメージで少し古いんですね。昨今はUberを始めとして、様々なところで、IT企業やベンチャーキャピタルの経営層のハラスメントの話が出ています。
青木:なるほど。そういう流れが現状としてあったんですね。
瀧:元のSoFiの話に戻ると、アメリカの大学では、多額の学費の捻出は学生にとって大きな課題です。これまでは銀行や政府系機関からの借り入れが主な解決法でした。SoFi独自の学生ローンでは、学生は自分の大学の卒業生や機関投資家から、所属する良い大学の卒業生となる信用力を裏付けに借り入れることができます。
彼らが元々起業したのもスタンフォードの学生がほぼ確実にローンを返すからでした。よって、投資をする側である卒業生は安全資産でも相対的に高いリターンを得られ、借りる側である学生は低い利率での借り入れが可能なんですね。従来のレートと比べると、僕自身SoFiってすごいなと思っていました。一応僕もスタンフォード出てるから借りたいな…と思うくらいです。
青木:SoFiは、独自の手法で市場に新しい価値を提供しているんですね。
瀧:そうなんです。よって、元CEOの女性問題はありつつも、会社は順調に成長している印象です。ビジネス運営上の不透明な取引問題が発覚したLending Clubよりは、経営者のハラスメント事案という印象もあります。ただ、やはり断じて良くないことなので、昨今のシリコンバレーの雰囲気も相まって、残念だなとは思っていたんですよね。参考記事をひとつ貼っておきます。
青木:企業活動以外のそういったことで注目されてしまうのは、残念ですね。
瀧:それで、TwitterのCEOは決済大手SquareのCEOですし、そんな中でTwitterにいた人がたまたまではありますが、今回SoFiのCEOになると言うのが興味深いなと。Twitterは上場企業なので、おそらく5億から10億円程の報酬はもらえていたはずで。そんな人がSoFiのCEOになるということは、引き続き会社としてしっかり大きくしようという意思があるんだなと感じました。Twitterにいた人がSoFiのCEOをやる、Twitterのような企業とアメリカのFintechのトップ企業が被ってくるというのは、ちょっと興味深いですね。
青木:これは偶然、なんでしょうか?
瀧:おそらく偶然だとは思いますが、気になるところです。Twitterの経営者はそもそも非常にレベルが高いはずですし、SoFiのマイクカグニーという創業者は、ビジネススクールを卒業して起業しているので経営者教育として揉まれてきた人なんですよ。だから、今後ものすごく伸びる可能性もあります。ソフトバンクさんの2015年の投資額は、1000億円規模です。
青木:1000億円...!
瀧:すごい金額を投資していますよね。そういった動きもありますし、今後も会社としては成長していくだろうなと思います。
青木:なぜアンソニーノート氏はジョインしようと思ったのでしょう?
瀧:やっぱりいい会社なんじゃないでしょうか。代表の素行に問題があっただけで、会社自体は今後上場なども見据えていると思います。
青木:日本に置き換えると、どんな感じでしょう?
瀧:Yahoo!やLINEのようなメガベンチャーの副社長が、注目度が高くて順調に成長しているFintech企業の社長に転進するようなイメージかもしれませんね。
現金がないと怖いなと思った話
青木:今日はありがとうございました。最後に何かありますか。
瀧:先日の大雪の日、成田空港に一晩閉じ込められたんですよ。
青木:大変でしたね...。お疲れさまです。
瀧:その日は、深夜に欠航が決まって到着ロビーでクラッカーと水と寝袋が配られたんですが、携帯の充電池は他人に貸せるくらい持ってたので、Netflixをみて楽しく過ごせました。
(写真提供:瀧)
青木:他人に貸せるくらいの充電(笑)。大変でしたね...。
瀧:元々香港行きの予定で、本来は到着したら現地で香港ドルに換金して、それで宿まで行く予定だったんです。だから、珍しく日本円をたくさん持っていて。
結局欠航でしたが、6時間程遅延していたので、もし飛んだとして一番心配していたのは、遅延して香港に着く頃には両替商が開いていない、カードも使えないと言う状況なんです。香港ってタクシーは現金オンリーかつ、UberもLyftもそんなにいない所なので、すなわち都心に出る方法がないという。
青木:わぁ...現金がないとアウトな状況だったんですね。香港のキャッシュレス事情ってどんな感じなのでしょう?
瀧:香港は、昔から地下鉄で使えるオクトパスカードと呼ばれるカードがあります。だから、ある意味日本よりもキャッシュレス先進国でした。ただ、使える場所がすごく限られていて、タクシーでは使えないですし、お店でもあんまり使えないんですよね。
青木:じゃあ日本のSuicaなどの方が便利なんですね。
瀧:Suicaより前にオクトパスカードは存在していたので、Suicaが出た時には「日本のオクトパスカードだ!」と思ったんですよ。ただ、オクトパスカードのように先行してしまうと新しい経済圏と合わなくなるという弊害はありますね。
青木:なるほどなるほど。
瀧:しかし、今回は2017年ずっと、現金のことをないがしろにして本当にごめんなさいと思いました。ただ、結果的に飛行機が飛ばなかったので、その後は成田空港でずっとNetflixを観ていたという話です。
青木:(笑)。
瀧:支給された寝袋にくるまって、始発で東京に帰ってきました。Netflixってすごいよね。映画を観てると5時間ぐらいすぐに過ぎて、空港で生きていけるなって思いました。
青木:わかります。 5時間だったら余裕で生きていけますね。
瀧:しかし現金がないって怖かった...本当に。
青木:瀧さんからそんな言葉が聞けるとは(笑)。
追記:コインチェックの件について瀧より
マウントゴックスを超えた規模での仮想通貨の流出と、それに続いて表明された補償の規模は、それぞれ想像を超えた出来事となりました。しかし、発生しているマイナスの事象とは別に、トレーサビリティにおけるブロックチェーン技術の強さは、より広範な認知を得た印象もあります。
今回の事件を期に、認識が進むと良いなと考えているのは、機能別の課題、という考え方です。仮想通貨やブロックチェーンというテーマには、その裏側には中央銀行の存在や、中央集権的な統制、セントラルカウンターパーティ、といったテーマを社会としてどう扱うべきか、という問いがあります。
バズワードとして語られている間には、様々なアジェンダが結果として混同されて議論され、本質を見失うケースも多いように見られます。実際にマネロンであったり、過剰なボラリティリティ、保有者の保護といった議論はそれぞれの制度的な措置があるべきであり、一つ一つの議論を丁寧に解きほぐす目線が何より大事と感じています。
以前に金融財政事情に寄稿した下記記事の内容と同じメッセージになりますが、より便利で安心できる金融サービスのあり方に向けて、様々な貢献をしていければと考えています。
2017年2月1日 瀧
参考記事:金融財政事情 2017.12.11号「消費者が安心して仮想通貨を売買・利用するための要件」
※転載可
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